(写真:王座奪取に沸くブドラー陣営と肩を落とす田口<右>)

 ボクシングのダブル世界タイトルマッチが20日、東京・大田区総合体育館で行われ、WBA・IBFライトフライ級王座統一戦は王者の田口良一(ワタナベ)がIBF同級6位のヘッキー・ブドラー(南アフリカ)を判定で敗れ、2団体統一王座を失った。IBFミニマム級は王者の京口紘人(ワタナベ)が同級10位のビンス・パラス(フィリピン)に判定勝ち。京口は2度目の防衛に成功した。

 

 納得の“完敗”

 

 王座が入れ替わった瞬間、場内からはブーイングが漏れたが拳を交えたもの同士は納得していた。田口は14年の大晦日から守り続けたベルトを手放す結果となった。

 

(写真:ブドラーはWBA世界ミニマム級元スーパー王者の実力者)

 前日に「ジャブで先手を取りたい」と語っていた田口だが、序盤からペースを掴めぬままラウンドを重ねていった。田口の想定より距離を詰めてきた相手に苦戦。どちらかと言えば尻上がりに調子を上げていくタイプとはいえ、田口の出足は鈍く映った。

 

 12ラウンドを迎えた時点で、田口も渡辺均会長もポイントでは負けていると踏んでいた。田口の左フックがブドラーを襲った。ブドラーはバランスを崩したがレフェリーはスリップの判定。渡辺会長はリングに上がらんばかりの勢いで抗議した。

 

「効いていたのは分かっていた」と田口。ここで倒しにかかる。猛然とラッシュを仕掛け、ブドラーを追い込むが、ダウンを奪うまでに至らない。防戦一方のブドラーはクリンチをするなど、試合終了のゴングが鳴るまで耐え切った。

 

 田口はブドラーを「老獪で抜く時は抜く。ペース配分がうまかった」と評した。渡辺会長も「田口は自分のボクシングをつくれなかった」と残念がった。

 

(写真:試合後にもレフェリーに抗議する渡辺会長<左>)

 ジャッジ3者は揃って114-113で挑戦者を支持した。スリップと判定されたシーンは場内でもリプレーが流された。渡辺会長もレフェリーに詰め寄り抗議。最終的にダウンに変わったが、あと1ポイント届かなかった。

 

 田口は「残念の一言」と肩を落とした。再戦の可能性はゼロではないが「今は何も考えられない」と話すにとどまった。ライトフライ級最強を目指していた田口。昨年末に2団体統一を果たしたことで1歩近付いた道は一旦閉ざされた。

 

「教えてもらった」防衛

 

(写真:2度目の防衛に成功。「命繋がった」と安堵した京口)

 全勝同士のミニマム級タイトルマッチは、攻撃的な両者にふさわしく打ち合いの様相を呈した。フルラウンドを戦い抜き、3-0の判定で勝ち名乗りを上げたのは、王者・京口だった。

 

 京口がヒヤリとさせられたのは3ラウンドだ。パラスの左フックが右のこめかみあたりを直撃。そのまま尻餅をついた。本人によればアマチュア時代を含め「キャリア初のダウン」という。

 

「一瞬ダメージはありましたが、意識もはっきりしていたので大丈夫」と京口。ラウンド終盤ということもあって、すぐにインターバルに入れたことも大きかったのだろう。

 

(写真:ダウンこそ奪えなかったが、終始攻めの姿勢は失わなかった)

 京口に慌てている様子は見られなかった。中盤以降はペースを握り、相手を倒しに行く。ところがアクシデントが京口を襲う。8ラウンドぐらいから足に違和感を覚えた。足がつりそうになり、「ステップを使うとやばい」(京口)とフットワークを封じられた状態だった。

 

 それでも10ラウンドはかさにかかって攻めた。「相手が弱気な顔になったのでチャンスだと思った。でも効いている中で打ち返してきた。ガッツのあるファイター」。5歳下の挑戦者に手を焼いた。

 

(写真:試合終了のゴングが鳴った後も2人は抱き合い健闘を称え合った)

 12ラウンドが始まる直前、両者は抱き合った。京口はこの時の心境を「“ありがとうな”。今までとは違う。弟分みたいな感じ」と明かした。残りの3分間を殴り合い、どちらも立ったままゴングの音を聞いた。

 

 判定はジャッジ3者が117-110。ほとんどのラウンドを京口が取っての完勝だ。それでも24歳のチャンピオンは「試合前は相手が若かったので『ボクシングを教えてあげる』と言いましたが、素晴らしい選手でいい経験になった。僕の方が勉強になった」と振り返る。

 

 V2を果たしたことで、今後は統一戦も視野に入ってくる。WBO王者の山中竜也(真正)との日本人王者対決への期待は高まる。一方で筋量が増えてきたことで京口は減量がきつくなっている。試合中の足のアクシデントと無関係とは言い切れない。このまま最軽量級で防衛ロードを続けるよりは、階級を上げるという選択肢もある。

 

(文・写真/杉浦泰介)