(写真:「重みを感じる」というバンタム級のベルトを巻いた井上<中央>)

 ボクシングのダブル世界タイトルマッチが25日、東京・大田区総合体育館で行われ、WBAバンタム級タイトルマッチは同級2位の井上尚弥(大橋)が王者のジェイミー・マクドネル(イギリス)を1ラウンドTKO勝ちで、王座を奪取した。バンタム級転向初戦でベルトを手にした井上は、これで日本人5人目の3階級制覇を達成。WBCライトフライ級は王者の拳四朗(BMB)が、同級1位で前王者のガニガン・ロペス(メキシコ)に2ラウンドKO勝ち。拳四朗は3度目の防衛に成功した。

 

 バンタム級で圧巻のデビュー

 

 “怪物”が繰り出される竜巻は10年間無敗の王者をも飲み込んだ。

 

(写真:「身体がガチガチだった」と出だしは硬さが見られたという)

 井上はWBO世界スーパーフライ級王座に挑戦した2014年12月以来、約3年半ぶりとなる青コーナーについた。後から入場する王者のマクドネルがリングに上がるまで目で追う。前日計量で1時間遅刻してきた相手に対する怒りなのか、それとも視線の先はマクドネル陣営が掲げるベルトにあったのか。

 

 減量苦から解き放たれたバンタム級の“デビュー戦”。控室のアップ時から「動き、パンチの乗りが違う」という。ゴングが鳴る前から観客を煽るなど、テンションも高かった。セコンドの父・真吾トレーナーからは「見切ってからいこう」との指示。序盤は様子見のラウンドだった。開始30秒で相手のジャブを見切った。すぐさま井上は獲物を狩りにいく。

 

(写真:高いKO率を誇る井上の強打は1階級上げても威力は十分)

 マクドネルに身長とリーチで10cm劣る井上だが、出足の鋭さで距離を詰める。強烈な左フックが王者を襲った。グラつくマクドネル。そこを見逃さず、井上は畳み掛けて左ボディでダウンを奪った。マクドネルは立ち上がったものの、再び井上のラッシュ。ガードの上からでもお構いなしの連打を繰り出す。今度はレフェリーが2人の間に割って入り、試合を止めた。

 

 1ラウンド1分52秒TKO。井上のバンタム級初戦は2分も経たぬうちに終わった。「彼のトルネードの様子を見て、その後攻めていく」というマクドネルのプランだったが、“怪物”の猛攻に耐え切れなかった。王座から陥落したマクドネルは井上を「地球上で一番強い男」と称えた。

 

 この試合は日本のみならずアメリカ、イギリスでも放映された。「怪物ぶりはアピールできた」と井上。今後も最強への証明を果たしていくつもりだ。井上はワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)の同級での出場を明言した。バンタム級デビューを終え、「今日の試合では自信がつかない。まだ見えていない実力を引き出せなかった。何もわからないまま終わってしまったので、トーナメントは未知数」と冷静に先を見据えている。

 

 WBAスーパー王者ライアン・バーネット(イギリス)、IBF王者のエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)、WBO王者のゾラニ・テテ(南アフリカ)が参戦予定のWBSS。世界注目するバンタム級最強を決める戦いに、日本が誇る“怪物”も堂々と殴り込みをかける。

 

 “秘孔突き”でKO

 

(写真:距離を意識していた1ラウンド。ジャブで間合いをはかっていた)

 井上と比べればKOのイメージは少ない拳四朗だが、前王者を“必殺技”で仕留めた。

 

 3度目の防衛戦は1年前ベルトを奪ったロペスが相手。前回は2-0の判定勝ちだった。2度の防衛を経て、臨んだリマッチは成長した姿を見せつけた。

 

 1ラウンド目は距離を取って慎重な立ち上がりだった。ジャブを刺し、距離を掴む。「1ラウンドは緊張感があった」と拳四朗。それでも「距離を意識し、相手の左をもらわないようにした」という作戦をきっちり遂行した。

 

 

「前回よりやりにくさは全くなくなった」

 拳四朗は2ラウンドからは単発ではなくワンツーを当てにいった。決着はあっと言う間だった。2分を過ぎようとしたあたりで、ワンツーからのボディがロペスの腹に突き刺さる。

 

「油断したところに入った。息がつけなくなった」というロペスはヒザをついてダウン。本人曰く「ボディで倒れたのは初めて」で、そのまま立ち上がることはなかった。拳四朗は「気持ち良すぎてたまんないっす」とリング上で顔をほころばせた。

 

(写真:ボディ一発で相手を仕留め、右拳を天に突き上げた)

 一撃で決めたボディは世界的名トレーナーのルディ・エルナンデス直伝のもの。今回はバンテージを巻いてもらうことを依頼した縁で試合前日に夕食を共にした。以前に習っていた“必殺技”だが、再度確認。父・寺地永会長のアドバイスもあり、試合で使った。

 

 拳四朗が習得した必殺のボディはタイミングと当てる位置がポイント。詳しくは寺地会長が「他の選手に真似されてしまう」と明らかにせず、「秘孔突き」と煙に巻いた。

 

 これで拳四朗は13戦全勝。V3戦で2試合連続KO防衛に成功した。寺地会長は「5回防衛は見えてきた」と手応えを感じつつも、「このパンチに奢らず、これまでと同じようなスタンスで1試合1試合戦っていきたい」と気を引き締めた。

 

(文・写真/杉浦泰介)