10日、バドミントンの「ヨネックスオープンジャパン2014」が開幕した。東京体育館で各種目予選が行われ、昨年の女子シングルスを制した山口茜(勝山高)、北京・ロンドン五輪金メダリストのリン・ダン(中国)らが順当に勝ち上がり本選へと進んだ。同日、日本バドミントン協会は都内で記者会見を開き、女子シングルスの山口、男子シングルスのリー・チョンウェイ(マレーシア)ら昨年度の優勝者に加え、田児賢一(NTT東日本)、早川賢一、遠藤大由(いずれも日本ユニシス)らトッププレーヤーたちが出席した。各種目の1回戦は明日(11日)スタート。計6日間の大会は、15日に決勝を行う。
(写真:田児<右>にとって憧れであり超えなくてはいけない存在のリー・チョンウェイ)
 世界一の凱旋試合だ。5月、インド・ニューデリーで行われた国・地域別対抗の男子団体戦トマス杯で優勝した日本メンバーが東京に集う。ヨネックスオープンは世界バドミントン連盟(BWF)公認のスーパーシリーズ(SS)。五輪、世界選手権に次ぐグレードの大会だ。団体世界一の栄冠を勝ち取った日本代表の主力たちが、今回は個人戦で頂点を目指す。

 男子シングルスのエース・田児は、「思い出深い大会」でのリベンジに燃える。日本一を決める全日本総合では6連覇中。日本では抜きんでた存在だが、まだSSのタイトルは手にしていない。昨年の決勝ではリー・チョンウェイに敗れ、準優勝。同種目での日本人初優勝を逃した。BWF世界ランキング1位のリー・チョンウェイに対しては、トマス杯でも敗れており、通算戦績は1勝16敗と大きく負け越している。この高い壁を破らないことには初タイトルは見えてこないだろう。しかし、田児にとってリー・チョンウェイは偉大過ぎる存在である。「自分にとっても、ジュニアの子にとっても、彼はヒーローでレジェンド」。このバドミントン界のスーパースター超えは容易いことではない。

「大事な大会のひとつ。タイトルを守りたい」とディフェンディングチャンピオンとして臨むリー・チョンウェイは、史上最多の5度目の優勝がかかっている。その先は9月のアジア競技大会(韓国・仁川)に照準を置く。「それが終われば、最後のオリンピックに参加できるよう頑張る」と話すように、彼の現役生活もそう長くはない。田児も「あと何回(対戦)できるか」と1戦1戦が貴重な経験となる。そのためにも今大会は準決勝まで勝ち上がらなくては対戦できない。「まずはそこまでしっかりとしたパフォーマンスを見せないと」と、第4シードに入った田児も気を引き締める。“レジェンド”と対戦するためには、各国のエース級を倒していかなければならない。「自分がリー・チョンウェイになるのは無理。結果で示していく」と田児。天才と謳われた日本のエースも24歳となった。そろそろ国際大会のタイトルが欲しいところだ。

 そのほか男子シングルスでは、トマス杯優勝に貢献した桃田賢斗(NTT東日本)、上田拓馬(日本ユニシス)にも期待が集まる。19歳の桃田は、トマス杯で全勝し勢いに乗る。初戦で、第3シードのヤン・ウ・ヨルゲンセン(デンマーク)と当たる。187センチの長身から繰り出される強打にどこまで粘れるか。桃田は「1点1点、1球1球、魂込める」と気合いのコメントを残した。トマス杯決勝で第3シングルスとして、優勝決定の瞬間をコート内で味わった上田。「個人ではまだまだ。初心に戻って戦いたい」と述べる。田児だけでなく若手の桃田、中堅の上田の活躍にも期待したい。
(写真:トマス杯で5勝の桃田<左>と4勝の上田)

 ともに第3シードに入った男女のエースダブルスでもSS初制覇に挑む。男子ダブルスの早川、遠藤は第1ダブルスとして世界一に貢献したペア。早川は主将も務め、チームの盛り上げ役も買った。全日本総合は2連覇し、伝統ある全英選手権では2年連続の準優勝を果たしている。現在の早川、遠藤組はBWF世界ランキングで3位につけるが、今大会にはトップ2のペアも参戦している。遠藤は「ドローが厳しい」と語れば、早川は「準々決勝、準決勝といけるように頑張りたい」と、その口ぶりはいささか弱気にも映る。昨年末は「(優勝するために)足りないものを模索中」と遠藤は語っていたが、ここで勝ち切ることができれば、一気にブレークする可能性は秘めている。

 一方の女子ダブルスは、高校時代からダブルスを組む“タカマツ”ペアこと高橋礼華と松友美佐紀。5月の国・地域別対抗の女子団体戦ユーバー杯では、準優勝に貢献した。決勝では中国に1対3で敗れたものの、“タカマツ”ペアは世界ランキング2位ペアをストレートで下し、一矢を報いている。6試合全勝と第1ダブルスとしてチームを牽引。「ユーバー杯ではいい戦いができた」と高橋は手応えを感じている。これまでSSの戦績は、準優勝4回、3位が2回。早川、遠藤組同様に、あと一歩のところで頂点には届いていない。「自分たちらしいプレーができれば、結果はついてくる」と松友は自信を覗かせる。前衛でゲームを作る松友に、後衛で力強いショットで試合を決める高橋。2人の理想のパターンに持ち込みたい。北京五輪で4位と、ロンドン五輪で銀メダルと女子ダブルスは、近年好成績を残している。BWF世界ランキングは4位。リオデジャネイロ五輪に一番近いとされるペアが、その実力を示す場となる。
(写真:ユーバー杯ではデンマークペア<左>に2勝した“タカマツ”)

 女子シングルスで日本人初のSS連覇がかかる山口は、「昨年のことは気にせず、自分らしく楽しく臨みたい」と無欲を強調した。山口は、この日の予選から登場。土井杏奈(ヨネックス)、仲井由希乃(日本橋女学館高)と日本勢を連破し、本戦へとコマを進めた。しかし、?2ロードにいきなり試練が訪れる。明日の1回戦はBWF世界ランキング1位リー・シュェルイ(中国)と対戦する。リー・シュェルイはロンドン五輪同種目金メダリスト。受け身に回ることなく思い切り胸を借りられる相手だろう。山口はリー・シュェルイの印象を「スピードが速くて、全部強い」と語る。その中で「自分のショットがどれだけ決まるか、どれだけとれるか。挑戦する気持ち」と、ぶつかっていく心構えだ。17歳になったばかりの高校2年生は、昨年に続く快進撃を見せられるか。
(写真:予選2試合をこなしてすぐ会見に出席した山口)

 昨年は山口という新星が誕生したヨネックスオープン。今年もニューヒイン、あるいはヒーローの出現はあるのか。日本はトマス杯で優勝、ユーバー杯で準優勝と、機運は乗っている。団体戦で勢いづいた今、個人戦でも世界の頂きへと到達したい。リオ五輪でメダルを狙うならば、ここで立ち止まるわけにはいかない。

(文・写真/杉浦泰介)