14日、国際バトミントン連盟(BWF)公認のスーパーシリーズ(SS)・ヨネックスオープンジャパン5日目が行われた。男子シングルス準決勝で田児賢一(NTT東日本)はBWF世界ランキング1位のリー・チョンウェイ(マレーシア)にストレート負けし、2年連続の決勝進出はならなかった。女子ダブルスでは高橋礼華&松友美佐紀組(日本ユニシス)がジャン・イエナ&キム・ソヨン組、垣岩令佳&前田美順組(ルネサス)がジュン・キュンユン&キム・ハナ組と、いずれも韓国ペアを下し、初のファイナルへと進んだ。松友は早川賢一(日本ユニシス)と組んだ混合ダブルスでも準決勝に臨んだが、こちらはストレート負け。そのほかの日本勢では男子ダブルスの橋本博且&平田典靖組(トナミ運輸)が準決勝で敗退した。
(写真:試合終了後、観客の声援に応える田児<左>とリー・チョンウェイ)
「もっとやりたかった」。田児は試合後の記者会見で、開口一番飛び出た言葉がこれだった。昨年の決勝に続き、「自分にとっても、ジュニアの子にとっても、彼はヒーローでレジェンド」というリー・チョンウェイとの再戦。5800人の大観衆の中での試合だったが、結果はストレート負けに終わった。

 序盤から快調に飛ばす相手についていけなかった。1ゲーム目は常にリードを許す苦しい展開。緩急使い分けた攻撃、時にトリッキーな動きを見せるなど、多彩な田児だが、「1ゲームでギアを上げられなかった」とペースを掌握された。このゲームは15-21で、先手を奪われた。

 田児にとっては、いかにリー・チョンウェイに自分のプレーをさせないかがテーマだった。スピードある彼の動きを止めたかったが、結局は思うようにやられてしまった。「少しは抵抗した」という2ゲーム目は、最大7点差まで開いたビハインドを一時は4連続ポイントを返すなど16-18と2点差まで詰め寄った。さらにリー・チョンウェイのショットがアウトと宣告され、1点差に。しかし、リー・チョンウェイがチャレンジを選択し、ビデオ判定を要求した。すると、結果はイン――。運は味方しなかった。

 16-19で再開した試合は、1点を返して再び2点差にしたものの、直後のラリーで競り負けた。これでリー・チョンウェイのマッチポイント。その瞬間、田児は天井を見上げ、ラケットを宙に投げた。追い込まれた田児は、返球がネットに阻まれ、万事休した。ガックリと肩を落とし、その場からしばらく動けなかった。2大会連続の決勝進出、リー・チョンウェイへのリベンジ、いずれも叶わなかった。

 5月の国・地域別対抗の男子団体戦トマス杯で初優勝を果たして以降、“世界一”というフィルターを通して見られる。とはいえ、連戦の疲れもありコンディションは決して良くはない。「去年の2位より今年の方が価値はある」。田児自身も最低限の結果は残せた自負はある。だが「お客さんは勝つ姿を見たかったはず」と、期待に応えられなかった自分を責めてもいた。

 田児はこれでリー・チョンウェイとの通算成績が1勝17敗。「しっかりと準備されてコートに入られると、まだ自分の力じゃ……」と唇を噛んだ。世界のトップ中のトップであるリー・チョンウェイとの差はまだ大きい。田児はその差のひとつに「オーラ」と語り、「立っているだけで雰囲気がある」という。偉大過ぎるバドミントン界の“レジェンド”に対し、2、3年前までは、そのオーラだけで圧倒され、試合前に勝負は決していた。

「強過ぎる!」。試合後のミックスゾーンでリー・チョンウェイの横を通り過ぎた時、田児は叫ぶように言った。冗談っぽくもあったが、これがストレートな気持ちだろう。リー・チョンウェイが現役を続ける以上は、今後もSS初制覇の“壁”となる。「リー・チョンウェイが出てない試合でもいいから優勝したい。だから(憧れの)リー・チョンウェイに(長く)やって欲しい気持ちもあれば、早くいなくなって欲しい気持ちもあります」と田児自身もそのタイトルを熱望している。

 リー・チョンウェイに対しても「追いつけなくはない。必ず追いつけるようにと。それだけしか考えていない」と田児は闘志を燃やす。近年は安定した成績を残し、最新のBWF世界ランキングでは4位と、トッププレーヤーの仲間入りを果たしている。それでも本人が「まだまだ」と言うように、見据える先はもっと高い。25歳の挑戦は、“レジェンド”の背中をとらえることから始まる。

(文・写真/杉浦泰介)