「ジャポン?」。
 夕食を求めて某世界的ハンバーガーショップに並んでいた時のことだ。突然、後ろから肩をたたかれた。振り返るとブラジル人と思われる男性と、彼の奥さんが腕に幼い女の子を抱いて立っていた。
(写真:レシフェのスタジアムで遭遇した巨大な大会ロゴ)

 ブラジルに来てから、よく「ジャポン? カガーワ、ホンダ」などとサッカー関係で声をかけられることはあった。しかし、今回は様子が違う。男性が女の子を指さしながら、どうも「この子は日本のことが好きなんだ」と言っているらしい。傍らでは奥さんが小声で「アリガトウ」と耳打ちしている。すると女の子が照れながらも「アリガトウ」。おそらく、彼女が知っている数少ない日本語だったのだろう。単純に日本という国に興味を持ってくれていることが嬉しかった。何か日本らしい物をプレゼントしようと思ったが手持ちがなく、その家族と別れたことだけが心残りとなった。

 さて、筆者がブラジルに来て、11日が経過した。渡航前はブラジルの“危険”ばかりを心配し、Tシャツの中に着込めるポケット数の多いベストやダミー用の財布などを購入した。しかし、ここまでは幸いと言っていいのか、危険を感じたことはない。

 ブラジルで2番目に犯罪率が高いというレシフェではひとりでスーパーマーケットにも出かけた。レジの店員がポルトガル語がわからない筆者に丁寧に料金を教えてくれるなど、危険より逆に人の温かさを感じたものだ(もちろん、これは筆者の体験談で、W杯期間中に日本人がブラジルで犯罪に遭ったことは遺憾である)。

 レシフェでは現地の少年たちとのビーチサッカーも経験した。日本人5人対ブラジル人5人の構図になると、ある少年は「ブラジル、ジャポン!(ブラジル対日本だ!)」と楽しそうに言っていた。しかし、いざ試合が始まると、さすがはサッカー王国の少年たち。真剣な眼差しでボールを追いかけ、ボディコンタクトも厭わない。“日本代表”がゴールを決めた後には、ミスをした少年に仲間が激しく指示を出す。どんな時でも勝負事には全力で臨む――ブラジルが強い理由を垣間見た気がした。

 そしてスタジアムでは、国籍も人種も本当に多種多様な人々と触れ合うことができている。それを可能にしているのは、他ならぬサッカーという共通言語だ。サッカーを通じてだからこそ、その人の言語が理解できなくても、ハグし、握手し、笑い合える。前述したショッピングモールでの日本好きな女の子とも、筆者がサッカーの取材でブラジルを訪れていたから出会えた。日本国内でも、様々な場所でW杯の話題が交わされていることだろう。
(写真:日本戦では多くの外国人が日の丸ハチマキを巻いてくれている)

 スポーツは人と人をつないでくれる重要なツールである。今日もこれからも、サッカー、スポーツによって新たな“つながり”ができていく。ブラジルの地でそう確信している。

(文/写真・鈴木友多)