8日、ヤマザキナビスコカップ決勝が埼玉スタジアムで行なわれ、ガンバ大阪がサンフレッチェ広島を3−2で下し、7年ぶり、2度目の優勝を果たした。試合は前半20分、広島がFW佐藤寿人のPK弾で先制し、35分にも佐藤が決めてリードを広げた。しかし、G大阪も38分にFWパトリックのゴールで1点を返す。すると後半5分、再びパトリックが決めて同点。さらに26分、後半から出場したMF大森晃太郎が逆転弾を奪った。MVPには2ゴールを挙げたパトリックが選ばれた。

  大森、途中出場から千金決勝ヘディング弾!(埼玉)
サンフレッチェ広島 2−3 ガンバ大阪
【得点】
[広島] 佐藤寿人(20分、35分)
[G大阪] パトリック(38分、54分)、大森晃太郎(71分)
 前代未聞のJ1昇格即3冠へまずは1冠だ。2点差を跳ね返しての戴冠劇。チームを勝利に導いたのは、司令塔・MF遠藤保仁だった。

 G大阪にとっては苦しい試合展開だった。前半20分、FW石原直樹にPA内で仕掛けられると、対応したDF岩下敬輔の右腕に浮いたボールが接触し、ハンドの判定でPKを与えてしまう。これを佐藤にゴール右下へ沈められた。失点後に踏ん張りたいところだったが、波に乗った広島に押し込まれる時間帯が続いた。すると35分、PA内で石原に打たれたシュートがゴール左ポストを直撃。跳ね返ったボールを佐藤に拾われ、ゴールに流し込まれた。瞬く間に広がった点差にFW宇佐美貴史は「正直、もう無理やと思った」という。

 しかし、遠藤は淡々とゲームの流れを変える方法を考えていた。2列目で先発した遠藤は前半中盤までは広島のCBとボランチの間にポジションをとり、味方からのパスを呼び込もうとしていた。だが、広島の厳しいプレッシングになかなかボールが出てこなかった。「何かしら打開策を考えていた」遠藤は、30分を過ぎた頃から左サイドに大きく開くようになった。選手が密集している中央ではなく、比較的プレッシャーの少ないサイドで起点になろうとしたのだ。

 38分、この遠藤のアイデアが奏功した。自陣からのロングパスが左サイドに開いていた遠藤へ。背番号7は完璧なトラップでマークについていたMF柏好文に飛び込ませるスキを与えない。少し中央へ持ち込んでから右足でアーリークロス。これをゴール前に走り込んだパトリックが頭でゴール右に突き刺した。

「前半で1点返せたのは大きかった。精神的にも1点差と2点差ではまったく違う。後半は必ずチャンスがあると思っていた」
 遠藤の予想どおりだった。後半5分、G大阪にチャンス到来。左サイドでボールを持った宇佐美が、中へ切れ込んでから右足でゴール前へ送った。待ち構えたいたパトリックが、再びヘディングでゴールネットを揺らした。

 勢いづいたG大阪は26分、ついに逆転弾を奪った。ゴールに導いたのはまたも遠藤だ。遠藤はフォーメーション変更に伴って後半からボランチに移っていた。ピッチ中央左サイドでボールを持つと、右サイドへ展開。遠藤は長い距離を走ってPA手前でパスを呼び込むと、DFと交錯してボールがこぼれた。混戦からMF阿部浩之が放った左足シュートは一度GKに弾かれたものの、詰めていた大森が頭で押し込んだ。ゴール裏で逆転の瞬間を見守ったG大阪サポーターは大歓声。起点、そしてつぶれ役をこなした遠藤も両手を広げて大森のゴールを祝福した。

 その後、G大阪は攻勢を強めてきた広島に対し、ボールを奪ってからのカウンターで対抗。パトリック、宇佐美と交代で入ったFWリンスというスピードある選手が広島の最終ラインを牽制し続けた。結局、4分のアディショナルタイムもしのぎ切ったG大阪が、歓喜の瞬間を迎えた。

「ナビスコ杯は代表(に参加する選手)が抜けたり、連戦のなかで入ってくる大会。全員がいいパフォーマンスで予選からここまで勝ち上がってきた。トーナメントになっても厳しい戦いがあったので、その中でチームが一体としてやれた。特に若い選手はいい経験を積んだと思う。やはり優勝の喜びは知れば知るほどまた優勝したい。今回の優勝はチームにとっても、僕自身にとっても非常に嬉しい」

 遠藤はこのようにタイトル獲得を喜んだ。MVPは2ゴールのパトリックに譲ったが、自身がアシストしたG大阪の1点目で試合の流れが変わった。その意味で試合を決めたのは遠藤だった。宇佐美が「(1点が入ったことで)絶対に同点にできるし、勢いで勝てると思った」というように味方に勇気を与え、広島のMF青山敏弘が「あの1点ですべてが変わった。その1点をつくりだしたのは遠藤さん。チームとして(遠藤を)抑えきれなかった」と悔やんだように相手のリズムを狂わせた。

 遠藤は10日からキリンチャレンジカップ(14日・ホンジュラス戦、18日・オーストラリア戦)に臨む日本代表の合宿に参加する。ここまで若手が多く起用されてきたアギーレジャパンの中盤で、果たして34歳のベテランはどのような“違い”を生み出せるか。ナビスコ杯のタイトルを引っさげ、遠藤は再びサムライブルーのユニフォームに袖を通す。

(文・鈴木友多)