18日、全日本卓球選手権最終日が東京体育館で行われ、女子シングルス決勝は石川佳純(全農)が森薗美咲(日立化成)を4−1で破り、2年連続3度目の優勝を達成した。石川は混合ダブルス、女子ダブルスと合わせ、今大会3種目で優勝。女子選手としては、54大会ぶり2人目の3冠の快挙を成し遂げた。男子シングルス決勝は水谷隼(becon.LAB)が神巧也(明治大)にストレート勝ちし、2年連続7度目の優勝を収めた。石川と水谷は世界選手権(4月、中国・蘇州)の代表に内定。2人と昨年12月の選考会を勝ち抜いた吉田雅巳(愛知工業大)と平野早矢香(ミキハウス)を含めた代表選手は明日19日に発表される。
(写真:3度目の皇后杯獲得。カップを掲げ、笑顔を見せる石川)

 

 重圧はねのけ、涙の3冠 〜女子シングルス〜

「苦しい1週間だった」。優勝インタビューで3冠を達成した石川は、今大会を振り返りながら言葉を詰まらせた。21歳の石川はシングルスで4回戦から準決勝までは17歳の安藤みなみ(熊本・慶誠高)、19歳の宋恵佳(中国電力)、15歳の加藤美優(JOCエリートアカデミー)、14歳の伊藤美誠(スターツ)、18歳の前田と、全て年下と対戦してきた。向かってくる相手に、何度も苦しめられた。それでも乗り越えることで自らの強さを証明してきた。

 決勝は同学年の森薗と対戦した。第1ゲームは連続ポイントで流れを掴み、11−7で競り勝つ。しかし、第2ゲームは森薗が立ててきた戦術にはまり、2−11であっさり落としてしまう。ここで石川は「自分のペースでやっていけば大丈夫」と自身に言い聞かせた。準決勝では、さらに連続でセットを失い1−3と追い込まれた。その時は“ここからが勝負”と開き直り、大逆転勝ちを収めることができた。

 守りに入るのではなく、1本ずつポイントを取に行く――。石川は相手がいいボールを打ってきても、焦らなかった。気持ちを落ち着けて臨んだことで、第3ゲームは序盤から3連続得点で優位に進める。勢いに乗ってきた石川に、森薗は焦ったのか、サーブミスを連発した。このゲームは11−8で石川が取り、ゲームカウント2−1と、再びリードを奪った。

 得意のフォアハンドだけでなく、バックでも強打を放つ。3球目攻撃も次々決まり、主導権を握った。石川は一昨年から男子代表の国内合宿に積極的に参加し、フィジカルは格段に上がった。日本代表の村上恭和監督は「台から遠くても、打ち抜けるようになった」と、パワーアップのほどを語る。
(写真:「思い通りの試合はできなかった」と語るが、それでも勝ち切れる強さがある)

 石川は第4ゲームを11−5で取ると、5ゲーム目は4連続ポイントで先手を奪う。中盤からで粘られるも、着実に得点を重ねた。最後は森薗の返球が台をオーバーし、11−7で取った。ゲームカウント4−1で石川の勝利。伊藤(旧姓山泉)和子以来、54大会ぶり2人目の女子3冠を手にした。陳莉利コーチと抱き合い喜びを分かち合った。

 かつて「天才少女」と騒がれた石川は、13歳で全日本のベスト4に入った。「楽しくて仕方がなかった。思い切ってぶつかっていくだけだった」頃から8年、石川は今や日本のエースに成長した。オリンピック、世界選手権でメダリストとなるなど、ITTF世界ランキングは4位と追われる立場となった。それでも彼女は後ろを振り返らない。石川は「ついてくるプレッシャーは勝ち取ってきたもの、自信に変えていきたい」と前を向いている。

 昨年は充実した1年だった。全日本の女子シングルスを3年ぶりに制し、2冠を達成した石川は、その後、世界選手権、アジア競技大会の団体でメダルを獲った。12月のITTFツアーグランドファイナルではシングルスで優勝。「引き出しが多くなった」と大きな自信を手にした。

「みんなが目標にする大会。簡単に勝てることはない」と石川が語る全日本で、昨年を上回る3冠を手にした。「本当に自信になる。大きな一歩を踏み出せた。世界選手権、オリンピックに向けて、世界に挑戦していきたい」と今後の抱負を語った。新たに積み上げた3つの優勝カップ。その重みは、更なるプレッシャーとなって、のしかかることになるだろう。それに石川が打ち克つことは、卓球王国の中国に勝つための必要な試練なのかもしれない。

 王者が魅せた圧巻の“水谷劇場” 〜男子シングルス〜

 東京体育館に集まった5200人の観衆は、王者のプレーに酔いしれた。何度も食らいつくレシーブ、強烈なカウンター、水谷のプレーに対し、感嘆の声が何度も漏れた。「まさに“水谷劇場”」。男子代表の倉嶋洋介監督が語ったように、その強さは圧倒的だった。準決勝では経験豊富な岸川聖也(ファースト)をストレートで下し、9年連続の決勝進出。決勝では丹羽孝希(明大)を倒して勢いに乗る神を全く寄せ付けなかった。
(写真:この日はサーブに変化を加えることで対戦相手を苦しめた水谷)

 第1ゲームで4−8とリードされても「かなり攻められている。このままでは負けてしまう。自分から仕掛けていこう」と冷静だった。そこから7連続ポイントで11−7と逆転し、このゲームを取った。対戦相手の神が強烈なドライブを打っても、拾い続ける。いつのまにか形勢は入れ替わり、ポイントは水谷が奪っている。

 つづくゲームは序盤はシーソーゲーム。ここでも水谷は4−6から6連続ポイントでひっくり返す。神に粘られ、3点を返されたものの、11−9で取ると、第3ゲームもレシーブ、速攻が冴え、11−6で連取した。第4ゲームは0−2から3連続、4−5から6連続ポイントと、取られたら倍以上返す展開。最後は神のフォアハンドが枠を外れると、両手でガッツポーズを作り、雄叫びを上げた。

 倉嶋監督も「打って良し、守って良し。最高のオールラウンダーに近づいてきたなという印象」と称賛した。「速さが出てきた。前までは台から下がってのプレーが多かった。速攻が点数の取り方がプラスアルファされ、(戦い方が)楽になってきた。“何をやっても勝てないな”と思わせる内容だった」。一昨年からロシアのチームに所属し、プレーしている。「いろいろな選手とやり、いろいろな試合を経験してきた。その中で取り組んでいく中で自然と成長していった」と戦術の幅は広がった。

 父としての意地もあった。5月には第一子が誕生。主に欧州で過ごすため、“単身赴任”状態だが、こまめに連絡を取り合い、我が子の成長を実感している。「より卓球を頑張ろうという思いが強くなった」。この日は妻子が会場に訪れており、「絶対に負けられない、勝ちたいという気持ちが強かった」と秘めたる面があったことを明かした。
(写真:「日本のレベルは非常に高くなってきている」と口にしながらも、王座は揺るがなかった)

「毎回苦しい。不安で不安でしょうがない」という全日本での7回目の優勝は、斎藤清の8回に次ぐ記録である。水谷は「初優勝した頃から、周りに言われてきた。超えたい気持ちは強い」と最多記録更新への意欲は十分。年齢はまだ25歳。この日の圧倒的な強さを見る限り、記録を塗り替える可能性は高い。初優勝からの連覇は5で一度途絶えたが、再び王者の道を歩み始めた。

 今回の優勝により、水谷は4月の世界選手権蘇州大会の代表に内定した。2年前のパリ大会では初戦敗退し、その雪辱に燃えている。バージョンアップした日本のエースが、世界に挑む。来年にはリオデジャネイロ五輪が控え、「オリンピックは過去2回出場し、いずれも満足できない結果だった。リオでは東京に向けて、いい色のメダルを獲りたい」と意気込む水谷にとっては、蘇州は大きな試金石となる。

(文/杉浦泰介、写真提供:日本卓球協会)