22日、東京・駒沢体育館で「ANA CUP 第39回日本ハンドボールリーグプレーオフ」の決勝が行われ、大同特殊鋼フェニックス(レギュラーシーズン3位)と大崎電気オーソル(同1位)を23−19で下した。大同特殊鋼は4年連続18度目の優勝。敗れた大崎電気は国民体育大会、全日本総合に続く今シーズン3冠はならなかった。最高殊勲選手賞には、好セーブを連発したGK久保侑生(大同特殊鋼)が2年ぶり2度目で選ばれた。殊勲選手賞は決勝で久保以上のセーブ率を木村昌丈(大崎電気)が受賞した。大同特殊鋼は、女子優勝チームの北國銀行と共に東アジアクラブ選手権(4月・大分)に出場する。
(写真:4連覇を喜ぶ大同特殊鋼のメンバー)


 大同特殊鋼が組織力で個の力を押し切った。相手はレギュラーシーズン無敗の大崎電気。日本代表に名を連ねる宮崎大輔、小室大地、信太弘樹、元木博紀ら攻撃陣のタレントは豊富だ。大同特殊鋼の末松誠監督も「どこからでもやってくるメンツ」と警戒するほど多彩な攻撃パターンを持ち、リーグ戦16試合で524得点をあげている。大同特殊鋼にとっては、12月の全日本総合決勝では36失点を喫し、完敗している難敵だ。リーグ戦1試合平均23.3点と、ナンバーワンの守備力で対抗した。

 いわば最強の矛と盾の戦い。決勝戦にふさわしい好カードは締まった試合となった。まず熱戦の号砲を鳴らしたのは、大同特殊鋼。35秒、野村喜亮が右サイドからカットインし、ジャンプシュート。長身レフティーはゴール左に突き刺した。すると、大崎電気も反撃。1分38秒に小室、4分6秒には元木が決めて逆転した。

 そこからは得点の奪い合い。大同特殊鋼は6−4から3連続得点を許し、6−7とリードを許す。22分31秒、10分以上得点のない大同特殊鋼の末松監督は1分間のタイムアウトを要求。選手たちの攻撃パターンが内に偏る傾向にあったため修正を指示した。すると指揮官の策は功を奏す。タイムアウトから約2分30秒間、キャプテンの岸川英誉の同点弾を皮切りに、武田亨の連続ゴールで2点のリードを奪った。その後、大崎電気に1点を返されたが、27分43秒には岸川が7メートルスローを「外してもいいから思い切り打ってやろう」と豪快にネットへ叩き込んだ。
(写真:レギュラーシーズンは1度しか経験していない7メートルスローを任された岸川)

 前半は10−8で終了し、ハーフタイムに入った。末松監督は「簡単に勝たせてくれるチームではない。誰が出てきても代表クラス。個人技のすごさ、必ず流れを持ってかれる」と選手たちの気を引き締める。「逃げずにボールを持ったら前を狙う」との意識付けを徹底させた。

 指揮官が植え付けた攻撃の姿勢で後半は相手を圧倒する。10−9から5連続得点。守っても守護神の久保が元木、宮崎のシュートをファインセーブした。しかし大同特殊鋼は大崎電気の反撃に遭い、3点差に迫られた。すると16-13の場面で、ルーキー藤江恭輔がカットインからシュートを決めるなど、3連続得点で再び突き放す。久保はその後も宮崎のシュートを連続でストップするなど、大当たり。MVPに相応しい活躍を見せた。
(写真:「DFとGKが約束事を守り、やられた時も声をかけて修正できた」と好守備に胸を張る久保<左>)

 焦った大崎電気にパスミスやハンドリングエラーが目立つようになる。それでも大同特殊鋼は元木、信太の個人技により反撃を許した。22-19でタイムアップ。なんとか3点差までで食い止めた。試合終了のホイッスルと共に4連覇達成が決まり、大同特殊鋼のメンバーは抱き合って喜んだ。末松監督は「素晴らしい選手たちが力を発揮してくれた」と選手を称えた。

 開幕戦を落とすなど、順風満帆なシーズンだったわけではない。レギュラーシーズンは10勝5敗1分けで3位通過。それでも、ここ4シーズンのプレーオフはすべて3位以下からの勝ち上がりで制している。大舞台の勝負強さは「勝負をする気持ちを持っている選手がコートに立っている。ベンチも含めて、そういう選手を揃えている」と末松監督は自信を持つ。大同特殊鋼の武器はチームワーク。コートもベンチでも声を掛け合い、一丸となって戦った。「飛び抜けた選手がいない」(末松監督)という選手層でもリーグ戦1試合平均32.8得点の攻撃力を誇るスター軍団を19点に抑えた。

 チームワークを一番体現しているのは末松監督だ。タッチライン際を走り回り、大きなアクションで声を張り上げる姿は、まさに“8人目のプレーヤー”と言っていい。「監督が一番戦えば、選手も自ずとついてくる。ベンチも含めてみんなでハンドボール。監督が先頭に立って、一緒にやらないといけない」。監督に就任してからずっと心掛けている姿勢である。キャプテンの岸川は「ああやって動いて、自分の体で表現してくれる方が一緒に戦っている感がある。心強いですね」と語る。
(写真:闘志剥き出しの姿でチームを鼓舞する末松監督)

 選手兼任時代を含めて、末松監督が就任してからは3連覇。戦う集団が目指す次のステージは、東アジアクラブ選手権だ。ここ2年は3位と韓国のチームに後塵を拝している。「日本一のハンドボールチームとして恥ずかしくない試合をしたい」と末松監督。今年はリオデジャネイロ五輪の予選もある。日本チームとして初の優勝を手にし、弾みをつけたい。

(文・写真/杉浦泰介)