J1リーグ・ファーストステージで3位(6月23日現在)と好調のFC東京。チームを牽引するのは左サイドバックで攻守に躍動する太田宏介である。ここまでリーグ戦全試合に出場。左足から放たれるプレースキックはチームの得点源となっている。日本代表でもセットプレーを任されることもある国内屈指のキッカーに、二宮清純がその極意を訊いた。
二宮: プロ生活をスタートしたのは、J2の横浜FCです。最も影響を受けたのは?
太田: 僕、個人としては、中でも三浦淳寛さんと、都並(敏史)さんにお世話になりました。

二宮: 三浦さんはフリーキック(FK)の名手として知られています。やはり教わったのはキックですか?
太田: はい。アツさんには「まず最初は俺の真似をしろ」と言われました。しかし、あんなボールは蹴れない。無回転のままで、急に落ちるんですから。だから教わりながらも“これは無理だな”と思っていました。

二宮: 確かに三浦さんのFKといえば、無回転シュートが印象的です。
太田: アツさんのFKは内転筋をバリバリに使う。やってみるとわかりますが(股関節への)負担がハンパじゃないんです。アツさんが無回転で落とすボールだったら、僕はクロスだったり曲げるボールを磨こうと、自分なりのやり方を追求していくしかないと思いましたね。

二宮: なるほどね。そこで自分の生きる道を知ったと。都並さんからはどんなことを教わりましたか?
太田: 1、2年目はチーム事情もあって、センターバックで試合に出ていたんです。都並さんは僕が3年目の時に、横浜FCの監督に就任されました。そこでサイドバックだけで使ってくれた。ポジショニングのことや守備のことをチームの中で一番指導してもらいました。一番怒られたと思いますし、常に気にかけて指導していただきました。

二宮: 一番教わったのは?
太田: キックですね。「とにかく良いものを持っているから、それを磨くためにまずは1対1になったら、とにかく縦に仕掛けて、クロスを上げきれ」ということを言われましたね。ポールやコーンを(ボールの直線上)に立てて、蹴る練習をしました。まずは、ライン上のところから巻くようなボールを蹴っていく。それから少しずつ角度をつけていきました。これを同じキックモーションから、どれだけ曲げられるようなボールを蹴れるか。練習が終わった後、ずっとやっていましたね。めちゃめちゃ基礎的な練習なので、全然面白くはないんですが、そういうのを繰り返した結果が、今は少しずつ武器になりつつなっているのかなと。

二宮: 精度の高いFKは、チームにとって、いい“飛び道具”になっています。
太田: 実は横浜FCの時も、その後に移籍した清水エスパルスでもそんなに蹴っていなかったんです。むしろエスパルスの時は一回も蹴っていなかった。2012年に東京へ移籍してきて、ランコ・ポポヴィッチ監督(当時)から「そのクロスが蹴れるならFKも蹴ってみろ」と言われたんです。その次の週に多摩川クラシコがあって、等々力競技場で直接FKを決めた。そこから乗っていったというか。本格的に練習をするようになりました。

二宮: コツを掴んだんでしょうね。
太田: そうですね。僕の中で意識しているのが、同じキックモーションでニアとファーを蹴り分ける。あとはボールの強弱も、同じモーションや助走のスピードで蹴れるようにまずは意識しました。ゴールキーパー(GK)からすれば“どっちにくるんだろう”と、モーションに差がないから分かりづらいと思うんですよね。

二宮: 中村俊輔選手はボールをこすり上げるようなな蹴り方をしますよね。やはりキッカーにもそれぞれ独自のやり方があるんでしょうね。
太田: そうですね。僕のキックも曲がりますが、そんなには落ちない。GKのポジショニングや壁の位置を見ていますね。あとはGKの目線と自分の目線で、駆け引きして勝負するのが僕のやり方です。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(7月5日号)に太田選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>