安倍晋三首相は17日、2019年5月完成で建設予定だった新国立競技場について、「白紙で見直し、ゼロベースで検討する」と表明した。この日、安倍首相は首相官邸で、東京五輪・パラリンピック組織委員会会長でラグビーW杯2019推進会議の森喜朗議長、下村博文文部科学大臣、遠藤利明東京五輪・パラリンピック担当大臣と会談。建設計画の見直しを伝え、下村、遠藤両大臣に早急に新たなプラン策定にとりかかるよう指示を出した。これにより、新競技場完成はメイン会場として使用する20年の東京五輪・パラリンピック前にずれ込む見込みだ。19年秋に日本で開催されるラグビーW杯は「残念ながら間に合わすことができない」と安倍首相は別会場での実施になることを明らかにした。
 高まる批判を無視することはできなかった。
 新国立競技場に関しては、この6月に下村大臣が東京五輪・パラリンピックの関係機関が集まる調整会議で総工費が2520億円になることを報告。デザイン公募時に想定していた1300億円や、基本設計時の1625億円を大幅に上回る費用へ、世論の反発が強まっていた。

 当初、政府では、現行案をもとに五輪・パラリンピックやラグビーW杯開催を進めてきた国際社会との関係、工期の問題などを考慮し、プラン変更に前向きではなかった。しかし、世論調査では計画に大多数が「反対」という結果を突きつけられ、アスリートからも見直しを希望する意見が相次いだ。それらの意見に押されるように、政権与党や政府内でも疑問の声があがっていた。安全保障法制を巡る採決強行もあって内閣支持率が低下傾向にある中、安倍首相も計画見直しへ舵を切った格好だ。 

 安倍首相は「五輪は国民の皆さんの祭典。主役は国民ひとりひとりであり、アスリートの皆さんです」と前置きした上で、「皆さんの声に耳を傾け、1カ月前から計画を見直すことができないか検討を進めてきた」と経緯を説明。建設工事が「東京五輪・パラリンピックまでに間に合うとの確信を得た」と決断の理由を語った。

 会談に参加した下村大臣によると、計画変更に伴い、新競技場の完成は20年春となる予定。19年のラグビーW杯は開幕戦と決勝の会場として新競技場を設定しており、代替地を探す必要がある。安倍首相は「(新競技場を)会場として使うことはできないが、国として支援していくことに変わりはない」と引き続き、大会成功へサポートする考えを強調した。

「世界の人々に感動を与える場に新しい競技場をしなくてはいけない。その大前提の下、コストを抑制し、現実的にベストな計画をつくっていく」
 安倍首相ははっきりと決意を口にした。新競技場問題がここまで迷走したのは、誰が責任を持って取り組むのかガバメントがしっかりできていなかった面が大きい。東京五輪・パラリンピックまでは、あと5年。安倍首相の言う「すべての国民から祝福され、世界の方々から称賛される大会」へ、もうゴタゴタは許されない。