決して満足できない結果でしたね。中国の重慶で行われた東アジア選手権、日本は1勝2分けの2位で大会初優勝を逃しました。十分に優勝するチャンスがあっただけに、タイトルを獲れなかったことは本当に残念でした。


 岡田武史監督はFW高原直泰ら離脱者が多かったこともあり、今大会を南アフリカW予選に向けたテストの場と捉えていたと思います。FW田代有三、MF羽生直剛、MF安田理大など数多くの選手が初先発を果たしました。ただし、そのテストの結果は決して満足のいくものではなかった。若さや勢いがあることは良いのですが、経験不足が目に付きました。

 特に気になったのは試合の入り方ですね。北朝鮮戦は前半6分、韓国戦は前半15分に先制点を許しています。試合開始直後の隙を突かれているんですね。初めて一緒にプレーする選手が多く、選手間でしっかりコミュニケーションがとれていないことが大きな理由でしょう。

 相互理解ができていないから思い切ったプレーが見られない。例えば、DF中澤佑二がDF水本裕貴やDF今野泰幸と初めて組んだセンターバックです。前に出るべき場面で思い切りよく出ることができていなかった。それに、個人でボールを奪うことはありましたが、組織的に獲りにいくプレーは少なかった。

 初めて組むのだから、コンビネーションに難があるのはわかる。監督が交代し、ゲームプランなどに変更があり、戸惑いもあったでしょう。時間をかければ解決する問題だとは思います。
 だが、今後もケガなどで主力選手が大量に離脱するような状況は起こりうる。その時に今回のような試合をやってしまっては、W杯最終予選などの大舞台では取り返しがつかない。やはり常日頃コミュニケーションを密にするなど、選手1人1人の意識改革が求められるでしょうね。

 この大会では東アジア各国の日本に対するモチベーションの高さを感じました。『アジアでトップレベルの日本を倒してやろう』という気迫があった。それは切磋琢磨という意味でアジアのサッカー界にとって素晴らしいことですが、日本にとってW杯への道が険しくなっているのも事実です。
 今回、MF山瀬功治やDF内田篤人など目立った選手もいましたが、それも数えるほどでした。逆に、チームの完成度の低さが目につきましたね。W杯最終予選を戦い抜くには、海外組などを含めて選手の入れ替えも必要ではないでしょうか。

 また、荒れに荒れた中国戦についても触れておきましょう。日本の選手はあれだけのラフプレーを受けたにもかかわらず、よく自制心を持って戦い抜いたと思います。試合終了のホイッスルが鳴り、中澤が他の選手とハイタッチをしているシーンを見て、「チームのために戦い抜いた」という選手たちの意地を感じましたね。この経験は、日本の選手にとって大きな自信になったと思います。

 逆に、あれだけのラフプレーを許してしまった中国に苦言をていしたい。東アジア選手権は世界中に映像や情報が流れています。サッカーのみならず、北京五輪を初めとする中国のスポーツ界全体が世界に悪印象を持たれてしまったことは間違いないでしょうね。

<今季のG大阪は侮れない>

 Jリーグに目を移すと、ガンバ大阪がパンパシフィック選手権の初代王者に輝きました。MFデビッド・ベッカム率いるLAギャラクシーを破り、決勝のヒューストン・ダイナモ戦は6ゴールを奪う圧勝。この快挙は他のJクラブにとっても良い刺激になると思いますね。

 G大阪は育成組織が整っていて、DF宮本恒靖、MF稲本潤一、MF橋本英郎など優秀な生え抜き選手を数多く輩出しているチーム。この優勝がJリーグへの勢いになることは間違いないでしょう。今季のG大阪は侮れないですよ。

 さて、わが鹿島アントラーズは目前に迫ったJリーグの開幕に向けて一抹の不安が残ります。2月24日の水戸ホーリーホックとのプレシーズンマッチでは3−0で勝ち、持ち味の堅守は十分に発揮できました。ただし、水戸からは鋭いカウンターを受けることもなく、個人の力でボールを奪えた。だから、今回の結果を、そのままJ1にあてはめることはできないんですね。

 それに、FWの得点力には不安が残ります。信頼が置けるのはFWマルキーニョス、田代の2トップぐらいのもの。最終ラインから中盤にかけて優秀なタレントが揃っているし、長年、同じメンバーでプレーしているために連係もしっかりしている。それだけに、最後のゴール前の部分が今季の大きな課題となりそうです。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


◎バックナンバーはこちらから