秋山成勲をマットに沈めた三崎和雄の右の蹴りが反則だったのではないか、とFEGの谷川貞治氏が口にし、そのことがスポーツ紙でも報じられた。三崎が蹴った時点で、秋山は4点ポジションにあった……そこを蹴撃したのだから「反則だ」というわけだ。

※年末年始の更新スケジュールにともない、毎月第1木曜更新の連載・近藤隆夫「INSIDE格闘技」は、今月に限り4日(金)更新とさせていただきます。
 大晦日の夜、さいたまスーパーアリーナで観ていた私には、そんな風には見えなかった。左のパンチでグラついた秋山は体勢を立て直そうと起き上がり、そこで鼻っ柱に蹴りを喰らったのではなかったか。秋山が亀の状態になったシーンは一度も無かったように思い早速、ビデオテープを再生し見直してみた。

 リモコンを手にKOシーンを見ながら「こういうことか」と気付く。フィニッシュキックを浴びる瞬間の秋山の両グローブがマットに触れているようにも見えなくはない。別角度からのスローで見ると、蹴られた瞬間には、秋山の左手はマットから離れているようにも見えるし微妙なところだ。

 しかし、と私は考えてしまった。
 今回のこの状態を「4点ポジション」と規定すべきなのだろうかと。
 もう8年余りも前のことになるが、1999年9月に横浜アリーナで行われた『PRIDE.7』でのイゴール・ボブチャンチン×マーク・ケアー戦。一度はボブチャンチンのKO勝利が宣せられるも、この試合は後に「無効試合」となった。KOに直結したボブチャンチンの蹴りが、ケアーが4点ポジションにある時に見舞われていたからだ。当時のPRIDEルールは、4点ポジションにある相手の顔面への蹴りを禁じており、マットにうつ伏せていたところをボブチャンチンが蹴り上げたのだから、それは明らかな反則だった。

 今回の場合は、どうだろう。秋山は重心を落としてマットにうつ伏せていたわけではないし、相手の攻撃から身を守ろうと四つん這いの形でいたのでもない。体勢を立て直し反撃に転じようとしたところへ、カウンターでキックをもらったのだ。あの場面で、三崎に、打撃を躊躇する必要があっただろうか。三崎のキックは試合の流れの中で見舞われたものであり、そこに「4点ポジション」の定義を当てはめる必要があるとは私には思えない。むしろ、三崎が打撃で畳み込まなかった時の方が不自然である。

 今後のことも考えてみる。同様のケースが、これから生じないとも限らない。この際、4点ポジションに対する定義を次のように明文化してみてはどうだろう。「両手両足がマットについた状態」ではなく、「両手両足がマットにつき、なお且つ、肘、膝の2カ所がマットに触れている場合」と。しっかりと視線を向けて反撃に転じてくる相手へのカウンター攻撃が反則というのでは納得がいかない。まあ、秋山が提訴することは無いだろう。また、一度下された裁定が覆ることも無いと信じたい。6月に韓国で再戦を行うというのなら、それは「リベンジマッチ」と位置付ければよいことである。


----------------------------------------
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
◎バックナンバーはこちらから