世界との差は大きいと痛感させられましたね。12月13日に行なわれたクラブW杯の準決勝、日本の浦和レッズはミラン(イタリア)と戦い、0−1で敗れました。結果こそ1点差でしたが、内容的には完敗です。日本のクラブはJリーグ発足以来、レベルが飛躍的に上がっているのは事実ですが、まだまだ世界基準に達していないことがよくわかりました。


 レッズは素晴らしい試合の入り方をしたと思います。人数をかけた素早いアプローチでミランのボールホルダーにプレッシャーをかけていた。ミランは、レッズが開始から激しく寄せてくることは、ある程度予想していたでしょう。ただ、あそこまで積極的にボールを奪いにくるとは思ってなかったはずですよ。

 しかし、それでもミランは余裕を失わなかった。激しく寄せられても、戸惑うことなく冷静にパスを回していた。個の能力の高さを感じましたね。一方、レッズは選手同士が声をかけあって、必死にプレーしていましたが、焦りが隠せなかった。

 前半20分過ぎ、浦和の足が止まり始めると、ミランがスペースを生かして、主導権を握りましたね。後半になると、それが顕著になりました。自陣で防戦一方のレッズを見ていて、私は試合が決まったなと思いました。

 さて、ミランとの差ですが、戦術的な部分ではそれほど感じませんでした。問題は、やはり個人の部分ですよ。ファーストタッチの正確さ、トップギアに入る早さ、トップスピードでのプレーの精度……。レッズに足りないものをミランの選手は持っていました。

 特に私が元ディフェンダーとして驚いたところがあります。坪井がカカに抜かれた失点の場面ですね。あの場面、カカの一瞬のスピードはもちろんですが、坪井の重心の逆を突いた点は特筆すべきですよ。柔道では、相手の体重を一方の足にかけておいて、その足を払うでしょう。それとよく似ている。恐らく本能的なものだと思いますが、DFが足を出せない微妙な間合いを保ち、その体重移動の逆を突く。だから、坪井はあっさりとかわされてしまったんですね。

 それにしても、レッズは素晴らしい経験ができました。ミランは500万ドル(5億6000億円)という賞金もあり、本気で大会に臨んできた。当然、レッズ戦も負けられないゲームだった。レッズにしてみれば、結果的に力の差を見せ付けられたとはいえ、そのミランと真剣勝負ができたのは、かけがえのない経験です。日本のクラブシーンは大きな一歩を踏み出したといえるでしょうね。

<初招集の岩政、資質は中澤より上>

 日本代表の話題にも触れましょう。過日、来年1月15日から始まる短期合宿の代表候補32名が発表されました。
 私が注目している選手は鹿島アントラーズの岩政大樹です。岡田監督になって、A代表初招集。選ばれるべくして選ばれたなという印象があります。代表のセンターバックには素晴らしい選手が揃っていますが、持ち味の空中戦の強さを発揮すればチャンスはあるはずですよ。個人的には、中澤より上のレベルにいける選手だと思っています。

 彼は今季、鹿島のリーグ優勝に大きく貢献した。1人の選手として大きく成長した1年だったと思います。強調したいのは、DFラインの統率力ですね。相手の攻撃を予測して、周囲への的確な指示ができるようになった。今までは周囲に遠慮していたわけではないのでしょうが、どこか自分のことで精一杯な印象がありましたからね。

 それに、不用意なファウルを犯す場面も減ったと思います。カードの枚数が少なかった。カードをもらうということは相手との駆け引きに負けているということなんです。飛び込むタイミングが遅れるから、ファウルになる。今の岩政は、余裕を持って守れているから、ファウルも少ない。

 ただ、もう一段階上に行くためには、もっと経験を積まなければならないでしょうね。Jリーグにはジュニーニョなど素晴らしいFWはいるが、それだけでは足りない。海外には様々なタイプのフォワードがいる。できる限り多くの選手と対峙して、選手としての幅を広げなくてはいけない。来年、鹿島として出場するアジアチャンピオンズリーグをはじめ、国際経験をいかに積んでいくか。それが今後の躍進の鍵となるでしょうね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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