ご存知の方も多いと思うが、私は現役のトライアスリートである。それも一応、人様から多少注目を集めるプロとして活動している。なので、どんなに他の仕事が忙しくとも、アスリートとしてパフォーマンスを維持すべく努力するのが当然の義務。もちろん繁忙期には練習から遠ざかり、少々厳しい状態にはなるが、それでも一般の人から見ると明らかにアスリートしての風貌を保っているつもりである。なので、どこへ行っても「40歳には見えない素晴らしい身体ですね」という言葉を頂き、ちょっと嬉しくなることが珍しくない。人間というのは誉められることに弱いものだ!?
(写真:筆者もレースでがんばりました!?)
 ところがそんな私が肩身を狭くし、逆に感心しなければならないときが年に1回ある。それは「ハワイアイアンマン・ワールドチャンピオンシップ」というトライアスロンの祭典。トライアスロンには大きく分けて2通りの競技距離があり、1つはオリンピックに採用されているオリンピック・ディスタンス(スイム1.5k、バイク40k、ラン10k)。もう一つはアイアンマン・ディスタンス(スイム3.8k、バイク180k、ラン42.195k)と呼ばれるロングバージョンだ。もちろんこれ以外に、もっと短いものも、その中間の距離などもあるが、大きく分けるとこの2つになる。そしてハワイのアイアンマンは、ロングバージョンにおける実質上の世界の頂点に存在する大会で、世界中にある予選大会から選ばれた者のみが出場を許される憧れの大会でもあるのだ。

(写真:このフィニッシュに向かって世界中のアスリートが走る)
 アイアンマンは年齢別の戦い、表彰があるので様々な世代のトップアスリート達が集う。そして、ここに出場している人たちは年齢にかかわらず日頃の鍛錬が違う。私のように40歳でグットシェイプなんて当たり前どころか、参加者の義務のようなもの。60歳代の選手さえ話題にもならない。今回の出場者の最高齢は79歳だし、女性でも77歳。70歳を越えないと人々から賞賛を浴びる事などないのだ。この年齢でアイアンマンディスタンスをこなすのだから、私でさえ想像を絶する。75歳以上のカテゴリー表彰で並ぶ人のカッコイイこと……。一般的な老人を想像すると失礼なくらい、元気なおじいちゃんが並んでいる。その脚をみると、間違いなく30代のもの。人間は鍛えればこのくらい出来るのだという可能性を示してくれているようだ。

(写真:練習風景。カッコいいおじさんとおばさんががんがん泳いでいる)
 79歳のアスリートいわく、「私がトライアスロンを始めたのは20年前、そしてアイアンマンを始めたのが65歳の時。まだまだ挑戦は始まったばかり」とか!? この人が特別だとしても、他のアスリートもなかなかのもの。60代のアスリートとお話させて頂いても我々とスポーツに臨む姿勢は変わらないのに驚く。常に最高のパフォーマンスを追求しているのだ。年寄りの健康スポーツなんて思っていたら大間違い。もっともそんな気持ちではこのスポーツは出来ないか!? それにしても、年齢別表彰のため「歳だから」という言い訳が通用しないのは分かるが、その熱い気持ちは、モチベーションはどこからくるのだろうか。最近はついつい年齢を言い訳にしている自分が恥ずかしくなる。
英語に「Age is just number.」という言葉がある。「年齢なんてただの数字」という意味だが、要は本人がどう考え、どう生きるかだということを、身をもって示されているようだ。

「〜歳だからではなく、今何をしたい、どうしたいからこれをする」
――これが彼らの生き方。我々も周りの目にぶれることなく、自分の生きる道を決められる大人になりたいものだ。そう、年齢なんてただの数字なのだから……。


白戸太朗オフィシャルサイト

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。
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