不動の4番バッターである。
 プロ入り2年目、巨人の和田恋はファームの主軸を開幕から任されている。ここまで全96試合に出場。打率こそ.214ながら、チームトップの8本塁打と右へ左へ放物線を描く。成績が認められ、6月に開催された侍ジャパン大学代表とのユニバーシアード壮行試合ではNPB選抜に選出され、3番スタメンで出場した。台風で中止になった7月のフレッシュオールスターゲームでも、イースタンリーグ選抜に選ばれている。
 魅力は逆方向へ伸びる打球

「体は決して大きくないけど、当たったら飛ぶ。4番らしい雰囲気のあるバッターですね」
 実際に対戦した相手ピッチャーは“巨人の4番”をそう評する。180センチ、84キロとプロ野球選手では普通の体型ながら、右打席から放たれる打球には目を見張るものがある。

 指導する内田順三2軍打撃コーチは「清原(和博)や二岡(智宏)のように逆方向に打てるところが長所」と、そのバッティングを解説する。
「ポイントが近くてたまたま逆方向に打球が飛ぶのではなく、彼の場合は、しっかりとしたゾーンを持っている。これから体の軸回転でインサイドのボールも対処できるようになると、打球に逆スピンをかけてレフト方向に、もっと飛ばせるようになるはずです」

 8月1日、ジャイアンツ球場での東北楽天戦では、1点リードの5回、ドラフト1位ルーキー・安樂智大の速球を弾き返し、右中間への一発を見舞った。
「真っすぐをいい感じで打てました」
 そう納得の表情をみせた和田本人も、ライト方向への伸びる打球はセールスポイントととらえている。

「今年は逆方向にホームランが出ている。それは自分の持ち味だと思っていますね。逆方向へのヒットも多いので、そっちの打球は継続して打てたらいいのかなと思っています」

 開幕から約4カ月半、4番の座り心地はどんなものか。
「最初は自分なんかに務まるのかなというものがありました。でも徐々に慣れてきましたね。4番の仕事はどんなものなのか、考えて試合に臨めています」
 落ち着いた表情で答える19歳は、4番の仕事を「ランナーを還すこと」と考えている。事実、40打点はチームトップ。有言実行で責任を果たしてきた。

 憧れの坂本と同じ背番号

 高知高でも4番を経験し、通算55本塁打をマーク。甲子園にも2度出場し、3年春のセンバツではベスト4にチームを牽引した。その長打力を評価され、一昨年のドラフト会議では1位の即戦力捕手・小林誠司に次ぐ2位で巨人から指名を受けた。

「巨人は小さい頃から好きなチームで、テレビでは巨人の試合ばかり見ていました。家族も巨人ファンで家にはカレンダーもあったんです。だから、2位という上位で呼んでいただいて本当にうれしかったですね」

 内野手の和田には巨人の中で目標とする存在がいる。それが同じ右打者でショートの坂本勇人だ。高校時代には、「坂本さんのバッティングフォームを参考にして、足を上げるようにしました」と語るほど憧れていた。

 坂本も高卒でプロ入りし、2年目に大ブレイク。セ・リーグ初となる高卒2年目での全試合でのスタメン出場を果たし、巨人の主力へとのし上がった。今や巨人のみならず、日本を代表するショートストップが入団時に背負っていた番号が「61」である。その「61」を現在、つけているのが和田だ。ゆくゆくは坂本のようなチームの主力に――。球団の大きな期待が背番号には込められている。

「61番には特別な思い入れがあります。期待して61をもらったとの思うので、自分もああいう選手にならなくてはいけない。期待に応えられたらなと感じています」

 その坂本は今季、4月に第82代の4番を託された。12球団で、4番に座ると第◯代とカウントされるのは巨人だけである。歴代の4番には川上哲治、長嶋茂雄、王貞治、原辰徳、松井秀喜……とそうそうたるメンバーが並ぶ。それだけ、巨人の4番には伝統がつくりあげた重みがあるということだろう。

 その歴史に、いつか名を連ねる。和田は強い決意でファームの4番を務めている。
「将来的な話ですけど、1軍でも4番を打ちたいですね。1軍に行ったら、最初はバントをしたり、そういう役割から始まるでしょうが、ゆくゆくはランナーを還す立場を任せられるようになりたい」

 東京ドームで「4番、和田恋」のアナウンスに大歓声を浴びながら打席に入り、試合を決めるアーチをスタンドに描く。そんな日を夢見て、未来の長距離砲はジャイアンツ球場でバットを振りこんでいる。

(第2回へつづく)
  
和田恋(わだ・れん)プロフィール>
 1995年9月26日、高知県土佐郡土佐町出身。父と兄の影響で野球を始め、小学時代は軟式野球の嶺北ジュニアに所属。高知中ではショート兼ピッチャー。高知高では1年夏からレギュラーに。サード兼ピッチャーで2年春、3年春と甲子園に出場。3年時はベスト4に進出し、準決勝で済美高の安樂智大(現東北楽天)からホームランを放つ。高校時代は通算55本塁打。13年のドラフト会議で巨人から2位指名を受けて入団。将来の中軸として期待され、1年目の昨季は2軍で78試合に出場し、打率.200、1本塁打、15打点。今季は開幕から2軍の4番を務める。サードに加え、ショート、セカンド、ファーストと内野ならどこでも守る。180センチ、84キロ。右投右打。背番号61。




(文・写真:石田洋之)


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