チャンピオンシップは2勝3敗。年間優勝に一歩届きませんでした。先発陣は試合をほぼつくり、合格点を与えられる内容だったと思います。残念だったのはピンチで登板したリリーフ陣。不用意な1球で失点をしてしまい、それが命取りになりました。

 たとえば、初戦に勝利して迎えた第2戦。4-2とリードした5回、1死一、二塁の場面で先発の川崎貴弘から、田村雅樹にスイッチしました。その初球、様子を見て外すはずのツーシームが甘く入り、櫟浦大亮に右中間二塁打を許しました。2者が還り、4-4の同点。これで相手が勢いづき、試合を落としてしまいました。短期決戦では1球で流れが変わる。そのことを選手たちは肌で感じたことでしょう。

 第1戦、第3戦と先発を任せたウェスリー・エドワーズはこの1年で確かな成長を見せました。入団当初は荒れ球で苦労したものの、まじめな性格でアドバイスを受け入れ、制球力に磨きをかけました。バランスが良くなり、自信を持って腕を振れるようになりましたね。安心して試合を任せられる存在に進化しました。

 ドリュー・ネイラーが中日に移籍し、後期は投手の頭数が限られていた中、投手陣はよく投げてくれたと感謝しています。試合をこなすうちに、個々がレベルアップしてくれたこともうれしかったですね。中3日、中4日の先発や連投は大変だったでしょうが、「いつでも行ける」とタフさも増しました。

 このオフも選手たちにとっては能力を高めるチャンスです。ドラフト候補に挙がっている松本直晃は、走りこみを含め、ピッチャーとしての筋力をつけることに重点を置きたいと考えています。彼は硬式でのピッチャー経験は1年足らずながら、探求心があり、他の選手からも話を聞いてスポンジのように吸収しています。

 課題だったフォークボールも良くなり、ストレートの回転数、キレが上がれば、ピッチャーとして一段階ステップアップすることでしょう。MAX150キロ超えも充分狙えるとみています。後期からチャンピオンシップにかけて連投の疲れがありましたから、少し休ませて、みやざきフェニックス・リーグでドラフト会議に向けて最後のアピールをさせる予定です。

 またサイド右腕の原田宥希は球の質だけみれば、同じサイドスローの中日・又吉克樹(元香川)に似てきました。来季以降、楽しみな素材です。このオフの課題は、まず体力強化。お尻から内転筋を鍛え、140キロそこそこの球速をもっと上げることが求められます。

 スライダー、ツーシームといった変化球も精度を高めることが重要です。スライダーは現状、曲がりが大きすぎるため、バッターの手元で変化するように工夫すれば、より効果的に使えるでしょう。

 さて、僕が2年間、在籍した東京ヤクルトが14年ぶりにセ・リーグを制しました。2軍で一緒に汗を流した同学年の畠山和洋や松岡健一が優勝に貢献したのはうれしかったですね。また、サヨナラ打を放った雄平は当時、ピッチャーでした。思うようなピッチングができず、苦しんでいた姿を見ていただけに、野手になって開花し、本当に良かったと感じました。

 ヤクルトにとって大きいのは石川雅規さんと館山昌平さんの存在です。石川さんも館山さんも、困っている選手に気軽に声をかけ、アドバイスをしてくれます。若手が伸び伸びとプレーできる環境をつくっているのは、あの2人のおかげでしょう。

 もちろん、そのピッチングも若い選手にとってはお手本です。石川さんはケガをすることなく、1軍でローテーションを守り続け、館山さんは大きな手術を乗り越えて何度もカムバックしてくる。その姿から学ぶことは少なくありません。今季は2人が揃って投手陣を牽引したことが優勝の大きな要因となったのではないでしょうか。

 オフに入り、来季に向けたチームづくりも既に始まっています。有望な選手も何人かリストアップしていますので、ファンの方は楽しみにしていてください。トライアウトでチェックしたいのは左投手。サウスポーはNPBも含め、どのチームも獲得を希望しています。左で、ぜひ挑戦してみたいというピッチャーがいれば、エントリーを待っています。

伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)
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