2二宮: まずは現在イングランドで開催中のW杯についてお伺いしたいと思います。エディー・ジョーンズHC率いる日本は、ここまで予選プールBを2勝1敗と快進撃を見せています。初戦の南アフリカとのゲームはラグビーW杯史上に残る「グレートアップセット」となりました。

村田: 試合はこちらの夜中だったんですが、“本当にやってくれたな”と、とても感動しました。“もう天地がひっくりかえるようなことをやってのけたな”と。ニュージーランドや南アフリカといえば、「未来永劫勝てない」と言われていた相手でしたから。



 光ったジャパンウェイ

 

二宮: どれだけ善戦できるかというのが大方の予想でした。前半は2点差で折り返しましたよね。2点差だったら日本はスタミナがありますから、“ひょっとすると……”の思いもありました。後半22分に22対29と離されました。ここで、よく食らいついていきましたね。

村田: そうですね。7点差は大きいように見えて実は、ラグビーでは1トライ1ゴールで十分返せるんです。29分にはサインプレーからフルバック(FB)五郎丸(歩)のトライが決まりました。コンバージョンも自ら決めて同点に追いつきました。

 

二宮: 左サイドでボールを持ったスクラムハーフ(SH)日和佐篤選手が右に展開し、センター(CTB)立川理道選手からスタンドオフ(SO)小野晃征選手、ウイング(WTB)松島幸太朗選手と素早いパス交換をしました。松島選手が斜めに走って、ラインを破り相手ディフェンスを引き付けたところで、外から走りこんだ五郎丸選手にパスを送りました。内と外と切り返しの連続でしたね。

村田: しっかり準備していたサインプレーですよね。とはいえ練習でやっていたからといっても、実際に試合で出来るとは限らない。ラグビーはサイン通りいかないスポーツですから……。

 

二宮: 絵に描いたような美しいパスワークでした。一方、ディフェンスも良かったですね。相手の下に突き刺さるような低いタックルですよね。あれが比較的小柄な日本人が大柄な外国の選手とやる時に倒す見本と言えるのではないでしょうか。

村田: ローファーストタックルは世界的にも主流になって来ているんです。1人目が下から行って、2人目がボールに絡む。最初のタックルを上から行ってしまうと、相手が強い場合は5メートルくらい前進される可能性があります。そうすると、バックスのラインは10メートルくらい下がった感じになります。そこで止めておけば、バックスを下げずに、次のセットも早く準備できる。1人目がまず下で止め、そこでブレークダウンを作る。2人目がダブルタックルでボールに絡む。それで、少しでも遅らせる。

 

二宮: 前半からターンオーバーが多かったじゃないですか。これにより南アフリカはリズムに乗ることができなかった。

村田: 日本はタックルをした後のリアクションが早かった。そこで相手ボールを奪うことができました。とにかくしつこく強い選手を当てて、その繰り返しでしたね。相手が攻撃しながら消耗していった。

 

二宮: なるほど。徐々に相手のスタミナを奪っていったんですね。

村田: 本来だったら、ディフェンスしている方が疲れるんです。受けに回ると、どんどんタックルをしても、パスを繋がれる。それで神経がだいぶ疲れてくるんですね。日本はタックルの強い選手がしっかりと身体を当ててタックルし、相手をゲインライン付近で寸断できていたことも大きかったと思います。

 

 スーパーラグビー効果

 

二宮: 村田さんの本職SH田中史朗選手の動きはどう映りましたか?

村田: フランス風に言うとパトロンなんですよね。彼がパトロンとなって、フォワード(FW)の猛獣たちを使いながら、良い球をバックスに供給する。彼を中心にゲームを組み立てている。大きな男たちが言うことを聞いて、動かせるSHの醍醐味があるんです。いざという時には自分が突破を仕掛ける。次は誘っておいて、またパスを出すと。

 

二宮: 身長は166センチと小柄ですが、フィジカルは強い印象があります。

村田: はい。やはりスーパーリーグを2年経験したことで、ディフェンスが強くなりましたね。

 

二宮: 村田さんも現役時代はフランスに渡って、日本人で最初のプロになりました。やはり海外に行ってみないと、本場の当たりの強さとかはわからないと?

村田: やはり日本よりもフランスリーグのレベルの方が高かったですから。選手の体格も全然大きかった。そこに慣れて当たり前のように感じれるようになったことで自信とプライドに繋がっていきました。

 

二宮: FWで気になった選手はいましたか?

村田: プロップ(PR)は本当によくやっていますね。特に堀江(翔太)もスーパーラグビーを経験してプレーの幅が広がりましたね。

 

二宮: 彼は攻撃に関し、いろいろなオプションを持っていますね。

村田: そうですね。器用にパスもできるし、ランもできる。FWの前3人が仕事できると、ラグビーは面白くなるんです。

 

 冷静沈着な最後の砦

 

二宮: キッカーの五郎丸選手は、2本のコンバージョンを確実に決め、PGも5本入れました。計24得点の大活躍でした。

村田: 五郎丸とはヤマハでも一緒でしたが、37歳の時に代表に返り咲いてフランスで合流した時に彼が19歳で初めてジャパンに選ばれていたんです。37歳と19歳で倍の年の差でしたね。

 

3二宮: 彼と最初に会った時はどんな印象でしたか?

村田: すごく冷静沈着というか。決して喜怒哀楽を表に出さない。常に冷静で練習を黙々とやっていました。トレーニングでも真剣にぶつかって来た。当たりも“強いな”と思いました。

 

二宮: 五郎丸選手は今大会で男を上げた1人です。これまでは代表を外された時期もありました。

村田: 結局、07年、11年と2回出場するチャンスがあったのに、選ばれませんでした。そこは当時のジョン・カーワンHCが、ディフェンスができないからという理由はあったとは思うんです。

 

二宮: 今回は本当に良いディフェンスしていますよね。スコットランド戦での前半終了間際に相手のトライを阻止したタックルは語り継がれるでしょう。

村田: 試合には敗れてしまいましたが、あれを止めたのは本当に大きかった。またあそこで、淡々と当たり前のように帰ってくるところが五郎丸らしいですね。彼はヤマハというチームで結果を出したのが大きかった。エディーがHCになってからは、ほとんどの試合に出続けるなど信頼を勝ち取っています。

 

 勝つか、引き分けるか。主将の英断

 

二宮: 南アフリカ戦の最大のハイライトは逆転のトライですよね。トライか、PGを狙うのか。あれは現場で決めるわけですよね。もし村田さんだったら、どう判断しましたか?

村田: いやぁ、本当に難しい選択です。あと1プレーですから。本来、日本が南アフリカとやって、あそこまでで十分に善戦なんです。もし負けたとしても「すごい試合できるじゃないか!」と称賛されるゲームでした。それが同点の大チャンスを得た。五郎丸が調子良かったので、ショットを選択すれば、同点で終わっていたと思います。でも、それ以上にすごいことが起こった。

 

二宮: あそこで勝ちを狙いに行ったことが素晴らしいですよね。

村田: キャプテンのフランカー(FL)リーチ・マイケルが“絶対勝てる”という確信があったんでしょう。エディーは、マイケルには「PGを狙っていいぞ」と指示していたと聞きました。ただラグビーの場合、ピッチではキャプテンが仕切る。基本的には、ヘッドコーチからはアドバイス程度なんです。

 

二宮: リーチ選手のキャプテンシーは?

村田: 素晴らしいです。僕が7人制日本代表の監督を務めていた時に、東海大学1年だった彼を代表に呼びました。まだ大学に入ったばっかりで身体もヒョロヒョロでした。その頃から、既に能力は高かった。まず7人制を経験させて、いずれ15人の方に行くだろうなと思ったら、すぐに呼ばれましたね。

 

二宮: 走れるし、当たりも強い。度胸もありますよね。

村田: 日本の高校を出ていますし、日本語も達者です。いずれ彼が日本代表のキャプテンになるんだろうなぁと思っていました。

 

 誰もが予想しなかった結末

 

二宮: 最後の1プレーは、おそらく日本ラグビー史上に残る数分間でした。反則1つとられても終わり。見ていても本当にハラハラドキドキでした。

村田: マイケルがあそこでスクラムを選んだのは相手がペナルティを受け、1人少なくなっていたこともあったと思います。相手が14人だったので、マイケルはスクラムを選んだんですね。ただスクラムを選んだら、相手は交代でもっと強いヤツが出て来た。そこで一瞬、押されたんですよ。その時は“あぁやっぱり間違えたんじゃねえか”と思いました(笑)。

 

二宮: 途中出場のNO.8アナマキ・レレィ・マフィの突破もすごかった。

村田: 最後も彼が3対3のところを1人ハンドオフでちょっとかわした。マークをずらして、WTBカーン・ヘスケスにパスですからね。マフィの突破がなかったら、たぶん止められていたと思います。またエディーがすごいのは、最後にWTB山田章仁に代えてヘスケスというフィジカルの一番強いBKを入れてきた。それがたった2分であの大仕事をやってのけたんです。

 

二宮: 山田選手も決して悪くなかった。ディフェンスでの貢献も大きかったと思います。あそこで替えるのはギャンブルですか?

村田: 山田よりヘスケスの方がトライは取れる。彼は強靭な体を持っていますから。“たられば”ですが、最後のシーン、山田だったらタッチに押し出されていた可能性もあったと思います。ヘスケスだったから、あの低い姿勢で相手のタックルをかいくぐって、トライできた。本当にギリギリの勝負でした。

 

二宮: ハリー・ポッターの作者JK・ローリングが「私だってこんな筋書きは書けない」と言ったそうです。

村田: もう本当そうです。日本はほとんどミスがなかった。ノーサイドの瞬間は本当に感動しました。いや、感動を越えましたね。ちょっと興奮して寝れませんでした。まるで自分も戦っていたかのような昂揚感がありました。選手たちには“本当にありがとう”という気持ちでいっぱいです。

 

二宮: ところで、お酒に対する思い出は?

村田: フランスにいた時は必ずホームゲームが終わった後、グラウンドの裏で1杯か2杯ファンと飲みました。自分たちのクラブハウスに戻ると、選手用が用意されている。そこに家族も入ってきました。

 

二宮: ヨーロッパはクラブハウスが充実していて、いい環境ですよね。

村田: はい。必ず敵チームを招待して一緒に食事をするんです。我々がアウェーで行くと、向こうで食事をして帰る。いわゆるアフターマッチファンクションが充実していました。

 

二宮: 今回のようにそば焼酎をソーダで割って飲んだことは?

村田: ソーダは低カロリーで、疲れをとると言いますからね。非常に新鮮でした。

 

二宮: 今でも健康には気を遣っていると?

村田: 特に気を遣っているわけではありません。体重は現役時代とあまり変わらないです。体脂肪率も12%くらいですよ。

 

(後編につづく)

 

<村田亙(むらた・わたる)>
 1968年1月25日、福岡県生まれ。東福岡高を経て、専修大に進学。90年に東芝府中に入社。96年度からの日本選手権3連覇に貢献した。日本代表のSHとして、3度のW杯に出場。99年にはフランス2部リーグのバイヨンヌに移籍し、日本人初のプロラグビー選手として活躍する。帰国後はヤマハ発動機でプレー。04年度にチームをトップリーグ準優勝に導いた。日本代表キャップ数は41。08年の現役引退後は7人制日本代表の監督に就任。12年からは母校・専修大ラグビー部の監督を務め、14年度には13年ぶりの1部復帰を果たした。

 

 今回、村田さんと楽しんだお酒は本格そば焼酎「雲海」。厳選されたそばと、宮崎最北・五ヶ瀬の豊かな自然が育んだ清冽な水で丁寧に造りあげた深い味わい、すっきりとした甘さと爽やかな香りが特徴の本格そば焼酎です。ソーダで割ることで華やかな甘い香りが際立ちます。
提供/雲海酒造株式会社

 

<対談協力>
鉄板 かわなか
東京都渋谷区宇田川町34-6
TEL:03-3463-5318

ランチ 土曜日をのぞく毎日12時~14時半

ディナー 毎日夕方17時~23時半(日曜日のみ21時)

 

☆プレゼント☆
1 村田さんの直筆サイン色紙を本格そば焼酎「雲海」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はこちらより、本文の最初に「村田亙さんのサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は11月12日(木)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。

 

◎クイズ◎

 今回、村田亙さんと楽しんだお酒の名前は?


 お酒は20歳になってから。

 お酒は楽しく適量を。

 飲酒運転は絶対にやめましょう。

 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

 

(構成・写真/杉浦泰介)


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