世界レベルの実力を持ちながら資金難のために競技の継続が難しいマイナースポーツのアスリートを支援するプロジェクト「マルハンWorld Challengers」は27日、都内ホテルで第3回の最終審査を実施し、10名(組)のアスリートたちが総額1000万円の協賛金をかけて公開オーディションに臨んだ。その結果、当HP編集長・二宮清純ら7名の審査員と来場者の投票により、5名のWorld Challengersが選ばれ、アルティメット女子日本代表の池治ちあき(HUCK)がグランプリに輝き、協賛金200万円を獲得した。また準グランプリには4名が選ばれ、スキークロスの梅原玲奈(クラブワン)、車椅子卓球の土井健太郎、康太郎兄弟(静岡県身体障害者卓球協会)に200万円が贈られた。
(写真:審査員の貴乃花親方から表彰を受ける池治)
 同プロジェクトは一昨年よりスタートし、今年が3回目。2年前の第1回はトランポリンの伊藤正樹が300万円、近代五種の黒須成美が200万円の協賛金を得て、昨年のロンドン五輪にも出場した(協賛金獲得者ではライフル射撃・小西ゆかりも出場)。昨年の第2回は当時高校3年の小橋勇利(自転車ロードレース)が300万円をゲットし、プロロード―レーサーを目指してフランスに渡っている。

 今回は270名(チーム)が応募。書類審査を経て、10名(組)がこの日の最終オーディションに参加した。オーディションではMCのますだおかだが各アスリートから話を聞くスタイルで、競技の魅力や今後の夢を審査員や参加者にアピールした。

 登場したアスリートは、いずれも日本ではトップクラスの実力を持ち、世界の舞台で活躍したい気持ちを人一倍抱いている。直径122cmの巨大ボールを用いるキンボール日本代表の奥田慎司(Shutorutu_kobe)は10月のベルギーでのW杯で優勝を狙っている。2年前のW杯では5連覇中のカナダに1点及ばず、銀メダルだった。それだけに「金メダルを獲得して、本場のカナダに留学してプレーしたい」と目標を語った。
(写真:実際に使う用具などを持参。審査員にも体験してもらいながら競技を紹介した)

 フィンスイミング・谷川哲朗(God Phoenix)は50メートルアプニア(潜行)で14秒93の日本記録を持つ。同種目の世界記録は13秒89。「スタートの15メートルで0.8秒遅れている。そこを改善すれば上位が見える」とワールドレコード更新を誓った。

 一方で世界にチャレンジするには遠征費はもちろん、環境面の充実などにお金がかかる。オーディションの最後は各アスリートが必要な活動資金をボードに記し、苦しい実情を訴えた。凧のついたボードに乗り、水上でアクロバティックな動きをみせるカイトボーディングの中野広宣(NAISH JAPAN)は、19歳ながら国内はもとよりアジアで向かうところ敵なしの状態。だが、遠征費が賄えないため出場大会を絞らざるを得ず、練習場も風の吹く海岸を求めて、国内を転々としている。「祖父が“家を売る”と言い出した」と明かすほど資金繰りは大変だ。

 スキーモーグルの岩本憧子(中京大)は来年のソチ五輪に向けて大事な時期にもかかわらず、資金不足で海外での合宿に参加できなかった。自転車BMXの朝比奈綾香(関西BMX競技連盟)は3年後のリオデジャネイロ五輪出場を視野に入れるも、世界で実績を積むための費用は自己負担だ。まだ高校生で家族の負担は大きく、「昨年の世界選手権は祖父に全額出してもらった」と語る。
(写真:ビーチバレーの大山未希は海外遠征費などで500万円の資金を要望した)

 それぞれの大きな夢と厳しい現実を目の前にして、審査員を務めた当HP編集長の二宮清純が「こんなに審査が難しかったのは初めて」と漏らすほどの選考を経て、グランプリを獲得し、必要資金の全額となる200万円を手にしたのは、アルティメットの池治だ。

 フライングディスクをパスでつないで得点を争うアルティメットを始めたのは大学に入ってから。中学ではバレーボール、高校ではバスケットボールに取り組んだ経験を生かし、わずか3年で日本代表入りを果たす。そして昨年は世界選手権で優勝を収めた。しかし、世界一の代表メンバーでもバイトを3つ掛け持ちしたり、高校の保健体育講師をして生計を立てなくては競技を続けられない。母からも仕送りを受けており、オーディションでは「本当は世界選手権の金メダルで恩返しするだけでなく、お金も返したかった」と涙ながらに現状を話した。受賞が決まり、再びうれし涙を流した22歳は、「尊敬するお母さんに近づけるような強い女性になって、アスリートして金メダルをかけたい」と決意を新たにしていた。

 協賛金の多寡はあれど、今回も各アスリートの訴えは甲乙つけがたいものがあった。審査員の貴乃花親方は「皆さんがグランプリだと思って自分の道を突き進んでもらいたい」とエールを送る。同じく審査員を務めた魔裟斗氏も「可能性のない人は、このオーディションに出てこられない。だからチャンスはある」と激励した。同プロジェクトを主催する株式会社マルハンの韓裕代表取締役社長は「受賞した方も、惜しくも漏れた方も競技への情熱は変わらない。アスリートへの熱い支援をお願いしたい」と来場者に語りかけた。

 マイナー競技に取り組むアスリートには、資金獲得はもちろん、その存在を認知してもらうことも大切だ。参加したあるアスリートは「協賛金は希望額に届かなかったが、競技を知ってもらえる場を設けてもらったことはありがたかった」とオーディションを振り返った。

 会場には第1回、第2回のWorld ChallengersやFinalistも駆けつけた。審査中には壇上に上がり、協賛金を得ての成果を発表。また会場内に各自のブースを設け、競技PRにも努めていた。このプロジェクトでは回を重ねるうちに、出場アスリート間の交流が生まれている。互いの活躍が刺激になるだけでなく、トレーニングなどの情報交換ができ、「競技活動において大きくプラスになっている」とアスリートたちは口を揃える。今回のオーディションに参加したアスリートも含め、今後も横の連携が広がっていけば、日本のスポーツ界に新風を起こすムーブメントとなるに違いない。

 その他の協賛金を得たアスリートは以下の通り。

・World Challengers
150万円 スキーモーグル・岩本憧子(中京大)
100万円 自転車BMX・朝比奈綾香(関西BMX競技連盟)

・Finalist(各30万円)
ビーチバレー・大山未希(Rebirth Model Agency)
キンボール・奥田慎司(Shutorutu_kobe)
女子ボクシング・黒木優子(YuKOフィットネスボクシングジム)
フィンスイミング・谷川哲朗(God Phoenix)
カイトボーディング・中野広宣(NAISH JAPAN)

※なお当サイトではコーナー「マイナースポーツのヒーローたち」を設け、第2回の最終オーディション出場者のその後の活躍を順番に紹介しています。