9シーズン目を終えた四国アイランドリーグPlusから、今年は2選手が10月のドラフト会議で指名を受け、NPB行きの夢を叶えた。中日2位の又吉克樹(香川)と、オリックス育成1位の東弘明(徳島)である。特に又吉は独立リーグの選手としては史上最高の指名順位(これまでは2009年オリックス4位の前田祐二(BCリーグ・福井)が最高)で高評価を受けた。NPBでのさらなる飛躍が望まれる指名選手から、今回は又吉のアイランドリーグでの成長ぶりを紹介する。
(写真:中日の担当スカウトは「クロスファイアのボールに威力があり、即戦力」と期待している)
 ドラフト会議当日、指名されるかどうかドキドキする間もなく自らの名前が呼ばれた。
「“えっ、もう出たの?”とビックリしました。あまりにも驚いたので、うれしくて涙が出るとか、そういった感情になれなくて、ただただ笑ってしまいました」

 順位は本人の想定以上だったかもしれない。だが、ドラフト会議を前にして指名は確実とみられていた。サイド気味のフォームからキレのある速球とスライダー、フォーク、チェンジアップを投げ込む。コントロールもよく、前期だけで7勝。最終的には13勝をあげ、最多勝に輝いた。

 NPB各球団のスカウトがこぞって熱視線を送り、指名の検討材料となる調査書は11球団から送られた。1年前、岡山のIPU環太平洋大時代は無名だった沖縄出身の右腕が、アイランドリーグでの1年でまばゆい光を放ったのだ。
「開幕前のオープン戦で広島2軍相手に好投して、NPBのスカウトに注目され始めたのですが、まさか、ここまでのピッチャーになるとは思いもしませんでした」
 西田真二監督も目を丸くする成長曲線を描いた。

 又吉のピッチャー歴は浅い。高校時代は内野手で、バッティングピッチャーで投げていた程度。練習でたくさん放るため、本人曰く「ラクに投げられるところを探していた」結果、今のフォームにたどりついた。大学入学後にピッチャーに取り組んで今年がまだ5年目である。最初は球速が110キロ台しか出なかったのが、今やMAX148キロになった。即戦力の力を有しながら、さらなる伸びしろを感じさせるところも高い順位につながった。

 身長は180センチ、体重74キロと体格は決して大きくない。「投げ方が独特なので、フォームや変化球の握りも自分で考えないといけない」と貪欲にピッチングを追求する姿勢が急成長につながっている。腕だけでなく、頭もフル回転して投げる。そんなクレバーさもサイド右腕の強みだ。

 この1年でも、又吉は自ら試行錯誤を繰り返し、進化していった。前期では空振りをとるスライダーと、カウントをとるスライダーの2種類を投げ分けられるようになった。後期に入ってからは縦の変化をつけるべくフォークボールの習得に励み、緩急をつけようとオリジナルのチェンジアップを覚えようとした。

「チェンジアップはツーシームの握りから、人差し指を外して投げるんです。中指、薬指、小指で放ることになるので回転がかかりにくくストンと落ちる。7月の試合で試しに腕を思い切り振って投げたら、うまく落ちたので、“これは使えるようになりたい”と思って投げ込みました」
 慣れない変化球の連投で投げ込みで指のマメを潰し、2週間ほど戦線を離脱したものの、「もっとNPBで追求して行けば良くなる」と一定の手ごたえをつかんだ。

 NPBでルーキーイヤーから活躍するための準備も着々と進んでいる。四国での1年間を踏まえ、課題は「1年戦える体づくり」とはっきり自覚した。又吉にとって長いシーズンを投げたのは初めての経験。「前期はウエイトトレーニングをそれほどしていなかったので夏場に調子が落ちました」と反省を口にする。クリアすべきハードルが明確なら、そこまでの道のりもはっきりする。この秋は「食事も練習のうち」と栄養学を勉強し、食生活も見直した。1月の合同自主トレまでの過ごし方もプランは既に決まっている。

「この11月はウエイトトレーニングも含めて、一度、体重を増やし、12月に入ってからは走り込みを増やして体にキレを出す。それで年末年始に地元の沖縄に帰って、少し投げ込みができればと考えています」

 どんなに力があっても、チームの求めるイメージとずれれば働き場所はない。ドラフト指名を受け、中日の投手陣を選手名鑑でリサーチし、同期入団のピッチャーの映像はインターネットを通じて見た。
「今回、指名されたピッチャーは僕以外、右の本格派でしたね。中日にいるピッチャーの方々をみても、右のサイドスローは少ない。だからこそ、僕を指名していただいたのでしょう。この特徴をもっと伸ばしていくことが自分にとってもチームにとってもプラスになると感じました」

 その上で中日でどんなピッチャーになりたいか――。この答えも又吉は持っている。
「いい意味での便利屋ですね」
 そのココロを問うと、「チームの中で“困った時には又吉”と頼られる存在です」と明かした。
「先発で又吉、浅尾、岩瀬とつないで勝利に貢献するのが一番でしょうけど、中継ぎになってもフル回転できるピッチャーになりたいんです」

 中日は落合博満GM、谷繁元信プレーイングマネジャーによる新体制で変革の時を迎えている。新しい組織には新しい力が不可欠だ。西田監督も「新人はアピールできるチャンス。新生ドラゴンズの象徴になってほしい」とエールを送る。 
 
 独立リーグ出身選手が中日からドラフト指名されるのは初めてである。2位という順位もあり、又吉の成否は独立リーグ全体の評価に関わってくる。
「しっかり1軍で投げて、他球団のファンからも名前を知られるピッチャーになりたいですね。そうすれば自分ももっと成長できるし、アイランドリーグのことを知ってもらうことにもつながると思います」

 名字が人気お笑い芸人と一緒のため、指名直後から名古屋を中心にメディアで話題を呼んだ。ツカミは上々だ。次はナゴヤドームのマウンドをステージにファンの心をガッチリとつかむ。

(Vol.2につづく)

(石田洋之)