15日、世界陸上競技選手権モスクワ大会6日目が行われ、男子やり投げは、メダル獲得を期待されていた村上幸史(スズキ浜松AC)が77メートル75でまさかの予選落ちだった。テロ・ピトカマキ(フィンランド)ら今シーズン世界ランクトップ3は順当に決勝進出する一方で、ロンドン五輪金メダリストのキショーン・ウォルコット(トリニダード・トバコ)は予選敗退。女子200メートル予選は福島千里(北海道ハイテクAC)が4組に出場。23秒85で6位に終わり、前回大邱大会に続く準決勝進出はならなかった。同走り高跳びは、3大会ぶり2回目の出場の福本幸(甲南学園AC)は全体最下位で、決勝に進めなかった。男子1600メートルリレーで日本代表は山崎謙吾(日本大)、金丸祐三(大塚製薬)、廣瀬英行(富士通)、中野弘幸(愛知陸協)のメンバーで予選に臨み、3分2秒43の全体10位。10年ぶりの予選突破はならなかった。この日は、6種目で金メダリストが決まった。そのうち5種目が初優勝。女子1500メートルはアベバ・アレガウィ(スウェーデン)、同三段跳びはカタリーネ・イバルグエン(コロンビア)と、今シーズン好調の2人が初の金メダルを手中に収めた。男女400メートルハードルは、ジェヒュー・ゴードン(トリダード・トバゴ)とズザナ・ヘイノバ(チェコ)が優勝し、男子走り高跳びでは、ボーダン・ボンダレンコ(ウクライナ)が2メートル41の大会新記録で初制覇した。同3000メートル障害は、エゼキエル・ケンボイ(ケニア)が同種目初の3連覇を成し遂げた。
 描けなかったリオへのアーチ

 昨夏のロンドン五輪に続いて、まさかの予選落ち。男子やり投げの村上は、ロンドン後、失意から引退も考えたというが、家族の後押しなどもあって、現役続行を決めた。今大会は4年ぶりの表彰台も視界に入っていたはずだった。4月の織田幹雄記念国際陸上競技会では自己ベストを2メートル以上も更新する85メートル96のビッグスロー。日本歴代2位で、今シーズンでは世界ランク4位の記録だった。

 予選Bグループに入った村上。82メートル50が自動通過ラインだが、上位12人までは決勝に進める。先に試技を終えたAグループは8人が80メートルを超えていた。このグループ12位の記録は76メートル93だったが、同組のことを考慮すれば、まず80メートル台の投てきが、予選突破のおおよその目安となった。織田記念をはじめ、6月の日本選手権を含めた国内大会3戦では、すべて80メートル台を記録し、優勝している。決してクリアできない壁ではない、はずだった。

 しかし、1投目は助走がうまく合わなかったのか、77メートル75。村上の表情からしても会心の投てきとは程遠かった。2投目はファール。予選は3投しかチャンスはない。2投目の終え、Bグループでは3人が80メートル超えの投てきをしていた。この時点での12番目の記録は79メートル93。これが決勝へのボーダーラインとなった。

 そして、村上の前の試技者であるリスト・マタス(エトアニア)が3投目で80メートル18の投てきを見せた。決勝進出へのハードルは80メートル02と、さらに上がった。

 最後の投てき、モスクワの空を斬り裂くようなビッグスローは生まれるのか。ラストチャンスにかけた村上は、やりへ思いを乗せるように投げた直後、叫んだ。だが、飛距離は伸びなかった。80メートルのラインには明らかに届かない。76メートル74――。銅メダルを獲得した2009年ベルリン大会以来、4年ぶりの決勝進出はならなかった。

 長く日本のやり投げ界を引っ張ってきた第一人者。ディーン元気(早稲田大)、新井涼平(日本大)ら若い世代も台頭してきている。だが、2人はモスクワの舞台へは立てなかった。その分、背負うものは大きかった。「若い選手に言葉じゃなくても、試合で見せていければ」と、村上自身が語っていたように、道標のようなものをモスクワの地に突き刺したかった。しかし、それは叶わなかった。

 ロンドン五輪金のウォルコットが敗退したとはいえ、今シーズンの世界ランクベスト3のピトカマキは1投目、ヴィテセラブ・ヴェゼリー(チェコ)、ドミトル・タラビン(ロシア)は2投目で81メートル超えの投てきをし、決勝へとコマを進めている。「まだまだ未熟だと思い知らされた」。予選で敗退し、表彰台に上がるチャンスすら掴めず村上は肩を落とした。3年後のリオデジャネイロ五輪へ向けてのアーチを、モスクワでは描けなかった。33歳と、競技者としては決して若くない。だが「未熟」との言葉を口にしたように、“まだやれる”という思いもあるはずだ。村上の逆襲に期待したい。

 苦悩のエース、霧晴れぬまま

「なんでこのくらいしか出ないのかな」。福島は表情を曇らせた。結果(タイム)が出ず答えが見つからない。霧の中でもがいているようだった。今シーズン、度々見受けられてきた場面だった。

 日本女子陸上界短距離のエース。これはまごうことなき事実である。6月の日本選手権では100メートルを4連覇し、200メートルと合わせて短距離2冠。しかも3年連続の2冠という独壇場である。しかし世界を相手にすると、そうはいかない。福島は200メートル予選4組に登場した。

 スタートの反応速度は0秒146と、この組の誰よりも速かった。だが、隣のレーンを走るシェリーアン・フレイザー・プライス(ジャマイカ)があっという間に先を行った。今大会、既に100メートルを制している短距離の女王だ。

 ピンクのエクステをつけ、ピンクのスパイクを履くド派手なスプリンターは、福島に影を踏ませる隙も与えない。どんどん突き放されていった。福島も必死に追いすがり、カーブを曲がって最後の直線へ。この時点で先頭とは2、3メートル離されていた。それは絶望的な距離だった。ただ、それが世界との差だった。

 23秒85で6位――。トップとは1秒以上も差をつけられた。順位ではもちろんのこと、タイムで拾われることもなかった。前回の大邱大会では、日本人初の準決勝進出を果たした福島。2年後の世界選手権では、それに続くことはできなかった。

 順風満帆に来ていた成長曲線も陰りが見え始めてきた。「リラックスしてポンポン(記録が)出ていた」というように日本記録を連発していた時は、颯爽と駆け抜けていく軽快さがあった気がする。「まずはどこをどうしたらいいのか、ウーン……」と、言葉を詰まらせた。彼女は壁にぶつかっているのか、それとも限界という名のゴールテープを切ってしまったのか。

 モスクワで福島の迷いが晴れることはなかった。それでも彼女は下を向いてはいない。「ここからはじまりですね」。すべては自らの脚で証明するしかない。それがスプリンターの宿命なのだから。

 主な結果は次の通り。

<男子1600メートルリレー・予選>
【1組】
1位 ジャマイカ 3分0秒41
4位 日本(山崎、金丸、廣瀬、中野) 3分2秒43
※日本は予選敗退

<男子400メートルハードル・決勝>
1位 ジェヒュー・ゴードン(トリダード・トバゴ) 47秒69
2位 マイケル・ティンズリー(米国) 47秒70
3位 エミール・ベクリック(セルビア) 48秒05
岸本鷹幸(富士通)は準決勝、笛木靖宏(チームアイマ)、安部孝駿(中京大)は予選敗退。

<男子3000メートル障害・決勝>
1位 エゼキエル・ケンボイ(ケニア) 8分6秒01
2位 コンセスラス・キプルト(ケニア) 8分6秒37
3位 マヒダイン・メキッシ・ベナバッド(フランス) 8分7秒86

<男子走り高跳び・決勝>
1位 ボーダン・ボンダレンコ(ウクライナ) 2メートル41 ※大会新
2位 ムタズ・エッサ・バーシム(カタール) 2メートル38 ※試技数による
3位 デレク・ドルーイン(カナダ) 2メートル38

<男子やり投げ・予選>
1位 テロ・ピトカマキ(フィンランド) 84メートル39
22位 村上幸史(スズキ浜松AC) 77メートル75
※村上は予選敗退

<女子200メートル・予選>
【4組】
1位 シェリーアン・フレイザー・プライス(ジャマイカ) 22秒78 
6位 福島千里(北海道ハイテクAC) 23秒85
※福島は予選敗退

<女子400メートルハードル・決勝>
1位 ズザナ・ヘイノバ(チェコ) 52秒83
2位 ダリラー・ムハンマド(米国) 54秒09
3位 ラシンダ・デマス(米国) 54秒27
久保倉里美(新潟アルビレックスAC)は予選敗退

<女子走り高跳び・予選>
1位 イリーナ・ゴルデバ(ロシア) 1メートル92
   アンナ・チチェロア(ロシア)
   アリシア・トロスト(イタリア)
   エマ・グリーン(スウェーデン)
   アリーネ・パルシィテ(リトアニア)
   ラス・べイティア(スペイン)
27位 福本幸(甲南学園AC) 1メートル78
※福本は予選敗退

(杉浦泰介)