fujimoto23 1921年創部の明治大学体育会サッカー部。今季は5名のJリーグ内定者を揃えるタレント集団において、大きな存在感を放つのが、FW藤本佳希(4年)である。94年の歴史を誇る伝統校で、背番号11を付けるストライカーは1日現在、JR東日本カップ関東大学サッカーリーグで10得点を挙げている。藤本は馬力のある縦の推進力と決定力で首位・早稲田大と勝ち点1差の3位につける明大を牽引している。

 

 状況を嗅ぎ分ける力

 

 藤本の特長はスピードとパワーを兼備したストライカーであることだ。来季からはJ2リーグのファジアーノ岡山への入団が内定している。明大サッカー部の栗田大輔監督の評価も非常に高い。

「彼の良さは身体が強く、前へ行く推進力がある。後は得点が取れること。その3つが揃っている選手ですね」

 

 10月25日、関東大学サッカーリーグの第19節の流通経済大戦で、藤本の持ち味は如何なく発揮された。試合前の時点で明大は首位と勝ち点3の4位。残りは4節、負ければ優勝が遠のく重要な一戦だった。

 

 茨城県の古河市サッカー場で行われたゲームは、強風が吹き荒れていた。ハイボールは風に煽られ、伸びたり、止まったりと予測ができない。また荒れたピッチコンディションのグラウンドはボールコントロールを困難にさせた。つなぐサッカーを身上とする明大サッカーとしては“二重苦”だった。

 

 苦しい条件下の中、藤本はピッチを猟犬の如く走り回りながら、ゴールの匂いを嗅ぎ分けていた。

「最初の何プレーかで、相手の連携があまり良くないのは、すぐに感じました。ボールに対して誰か食いついたら、その裏が空く。4バックのラインのデコボコを狙えるなと。ラインも高かったので、パス1本でいけるなと思っていました」

 ただ感覚だけに頼るストライカーではない。冷静に状況を見極められるクレバーさも持ち合わせている。

 

 持ち味が凝縮されたゴール

 

 ストライカーにとって、ゴールとは評価の物差しである。チームに対する忠誠心を持ち、献身的にプレーする藤本にとっても、何にも代え難いものなのだ。

「ゴールを決めた時の感覚は、ほかでは味わえないです。サッカー以外の何と比べても、それは特別ですね。毎回味わいたいとは思っています」

 

 前半23分、その瞬間は訪れた。流経大DFの裏へMF差波優人(4年)のスルーパスを呼び込んだのは、再三スペースを狙っていた藤本だった。

「まず優人が前向いた時に、右の裏に出て、ロングボールを貰おうと思ったんですが、そこでは出てこなかった。そのまま右サイドに流れていたので、4バック全員を見ながら、優人がドリブルで運んできている時に、オフサイドにならないように、最終ラインに気をつけていました。ギリギリで出てオフサイドを取られたら嫌なので、少し余裕があるくらいで出ようと」

 

 差波からのパスが出る直前、藤本はラインを突き破るように、横切って裏へと飛び出した。

「オフサイドは絶対ない」。確信を持って抜け出した藤本はスピードに乗る。ただスタートを慎重にした分だけ、マーカーを完全には振り切れなかった。DFがプレッシャーをかけてくる。

 

fujimoto19 ただ速いだけのFWであるならば、身体を当てられてスピードを殺されてしまう。だが藤本は違う。「スペースに抜けた時、五分五分だったらだいたい勝てるという自信はあります。スピートとパワーは僕の持ち味ですから」。プレッシャーを受けながらも、身体をうまく入れて優位な体勢を保つ。並走しながらもボールは藤本がコントロールできる距離間にあり、そこで勝負はほぼ決まっていた。

 

 藤本はペナルティエリア内に入ると、体勢を崩しながらもゴール左へシュートを放った。ジャストミートはしなかったが、シュートはゴールネットを揺らす。明大にとって貴重な先制点が生まれた。ゴール裏で盛り上がる応援団に向かって、藤本は親指を立てて声援に応える。彼のスピード、パワー、そしてインテリジェンスが凝縮されたゴールだった。

 

 大学界屈指の2トップ

 

 押し気味に試合を進めた明大は、追加点こそ奪えなかったものの、1-0で流経大を下した。勝ち点3を積み上げた明大は3位に浮上。10月31日の第20節も勝利し、首位とは勝ち点差1まで詰め寄った。勝ち点1差の中に早大、慶應義塾大、明大とひしめき合う。優勝争いも混とんとしてきている。

 

 チームを引っ張っているのは、2トップの藤本と和泉竜司(4年)だ。2人で21ゴールと、チームの総得点の約3分の2を挙げている。スピードとパワーの藤本、テクニックの和泉と、持ち味の違う両者は認め合いながら、刺激し合う仲だ。J1の名古屋グランパス入団が内定している相棒の和泉は、時にアシスト役にも回る。「常に佳希の動きを見ています。佳希の強みが一番活きるように、DFの裏にボールを流す。自分が前を向いた時は、佳希の背後を狙っていますし、さっしー(差波)もそこは見ている。それぞれ長所が色々あるので、僕たちの代はずっと2年生の頃からやってきているので、わかり合えていると思います」

 

 2人の主なパスの供給源となるのは、中盤でゲームメイクを担当する差波だ。来季J1のベガルタ仙台入りが内定している司令塔は「間違いなく、大学サッカー界ナンバーワンのコンビです。もう存在だけで相手に脅威を与えられると思う」と、2トップに絶大なる信頼を置いている。明大のホットセットは、チーム自慢の武器となっている。

 

 サッカーを始めた小学2年から、FWをやってきた。今でこそ大学サッカー界屈指のストライカーに成長したが、最初から全国大会で、その名を轟かせるような存在ではなかった。スピードはあったが、上背もなく当たり負けも多かった。強さと速さを兼ね備えたストライカーの鋳型は、課題と真摯に向き合い、地道に積み重ねてきた努力で作られていった――。

 

(第2回につづく)

 

fujimoto3藤本佳希(ふじもと・よしき)プロフィール>

 1994年2月3日、愛媛県西条市生まれ、松山市出身。小学2年からサッカーを始める。麻生FC-久米中学校-済美高。済美高3年時にはプリンスリーグ四国18試合で32得点を挙げ、得点王に輝いた。全国高校選手権にも出場し、3ゴールをマーク。同校のベスト16入りに貢献した。明治大進学後は2年時の後期から主力の座を掴む。3年時から関東大学リーグ戦で2年連続2ケタ得点を挙げている。来季からはJ2岡山への入団が内定。身長178センチ、体重76キロ。背番号11。

 

(取材/大木雄貴、文・写真/杉浦泰介)


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