細貝野乃花は仙台市立八乙女中学に進学した。ここでの3年間を細貝は「人生で一番、しんどかったかもしれないです」と振り返る。
(2018年5月の原稿を再掲載しています)
何がしんどかったのか。細貝は「部活の練習のウォーミングアップが一番、きつい」と言い、こう続けた。
「ウォーミングアップでシャトルランをしていたんです。タイムが決められていて、その設定タイム内にゴールしないともう一回やるんです。その設定タイムがすごいギリギリなんです。全員でやるんですけど、タイム内にゴールできるか、できないか毎日ドキドキしながらウォーミングアップをしていました」
細貝は1年生の時にチャンスを掴んだ。対戦相手はインターハイ1位の強豪校だった。そんな強敵相手の試合でいきなり「スタートでいく」と顧問に告げられた。その時のことは鮮明に覚えていた。
「とても緊張しました。“え、なんで?”という思いが強かった。その試合には、勝てたので良かったですが、かなり動揺しました」
このチャンスをものにした細貝はこれ以降の試合もほとんどスタートからの出場となった。1年生の頃は先輩のフォローもあり、のびのびと自分のプレーを発揮できた。しかし、2年生になると、チームの中心は当然、細貝になる。少しずつ彼女の負担と責任が大きくなっていった。
両親がここまでやってくれなかったら……
この時期からシュートを外すたびに顧問から叱咤されるようになった。期待の裏返しだったのだろう。「決めるべき人が決めないで、誰が決めるのか」と声をかけられるようになったのだ。
彼女はチームの期待に応えるために、一念発起、自主練習を開始する。試合の後は、近所の開放されている体育館のゴールに向かってシュートを打った。それだけでなく、早朝練習も欠かさずに行った。
当然、部活の朝練習もあるため、それよりも早く練習をする。6時20分に部活で集合する際には5時半にはバスケットゴールのある公園で自主練習をしていた。
その公園は、車で10分ほどかかるところにある。基本は母が、そして出張から帰ってきて家に父がいる時は父に車で送ってもらった。そこで彼女は繰り返しシュートを放った。両親は彼女のためにボール拾いやボール出しも行った。
両親の協力に細貝は感謝を述べる。
「自分がやりたくて、早朝練習をしていました。両親がここまでやってくれなかったら今の自分はいないと思います」
母・亜砂子も早起きして娘に付き合った日々を懐かしそうに語った。
「当時は体の線が細かったんです。先輩たちは体格は良いし。あの子も何か武器を見つけて自信を付けたかったんじゃないでしょうか。あの中学の部活は先生も他の親も含めて、みんなが一生懸命でした(笑)。娘もみんなの期待に応えたいみたいでした。それに人と同じ練習量ではうまくならないじゃないですか。スポーツは突き詰めてやらないとうまくなりません。私はバスケットは素人なので、簡単なことしか手伝えなかったです」
このバスケットゴールは外にあった。風が強ければ、当然、ボールはあおられる。そこで彼女はシュートの微調整の技術を習得したのだ。「風が強い日はシュートを打ってもボールが曲がってしまう。風の強さと方向を考えて調整して打つようになりました。それでシュートを微調整する感覚に磨きがかかったんだと思います」
「中学時代、印象に残っている試合は」と聞くと「練習試合で栃木県の学校と対戦した試合ですね」と答え、こう続けた。
「3クォーターの8分ゲームでした。63対57で私たちが勝ちましたが、63点のうち、私が57点も取ったんです。スリーポイントも13本くらい決めた気がします。自分でもびっくりです。“ゾーン”に入っていたんだと思います」
ゾーンとは、極限の集中状態の入り、ハイパフォーマンスを披露することである。打てば入る――。そんな感覚だったと言う。
自主練習の甲斐があってシュートの技術が上がった細貝。進路を決める中学3年の時期になると、県内の複数の高校から誘いを受ける。高校まで出向き、練習に参加したが進学先を決められずに中学3年の秋を迎えた。「行きたい高校がないのなら、勉強して県立に行くべきだ」と両親に言われたこともあった。
進路で悩んでいた細貝は、バスケット雑誌を開いた。その雑誌に載っていた愛媛県の聖カタリナ女子高校に興味を示す。彼女がカタリナに惹かれたのは意外な理由だった――。
(最終回につづく)
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<細貝野乃花(ほそかい・ののか)プロフィール>
1997年8月26日、宮城県仙台市生まれ。小学2年からミニバスケットボールを始める。松陵ドリーム-仙台市立八乙女中学-聖カタリナ女子高校(現聖カタリナ学園高校)。シューティングガード。スリーポイントシュートが最大の武器。聖カタリナでは2年時からレギュラーの座を掴む。2014年度のインターハイとウィンターカップでチームを3位に導いた。高校時代には年代別の日本代表にも選出された。早稲田大学女子バスケットボール部入部後、2年生からレギュラーとして活躍。身長169センチ。
(文・写真/大木雄貴)

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