
「ショートはフィールドのキャプテン」
そう断言するのは福岡ソフトバンクの今宮健太だ。昨季は初のゴールデングラブ賞を受賞。今季も好プレーを連発し、首位を走るチームを守りの面で牽引している。
「ショートは特別なポジションだととらえています。144試合フル出場してチームを引っ張る。そういう選手にならないとチームは強くならないと思っています」
23歳にして、この自覚、この覚悟。短い一言に彼が名手の道を歩み始めている理由が凝縮されている気がした。
(写真:8月26日の広島戦ではプロ初ホームランをマークした谷内) 現状の東京ヤクルトに残念ながら、フィールドのキャプテンと誰もが認める存在はまだ出てきていない。ショートは今季、森岡良介の63試合を筆頭に、荒木貴裕=29試合、谷内亮太=23試合、川島慶三=19試合、今浪隆博=13試合、西浦直亨=13試合と固定できないでいる。10試合以上守った選手が6人もいるのは12球団最多だ。ソフトバンク(今宮)、巨人(坂本勇人)、オリックス(安達了一)と、10試合以上ショートを守った選手がひとりだけのチームが上位に来ているのは偶然ではあるまい。
後半戦に入って、左ピッチャーが先発の際にスタメンを張っているのが2年目の谷内亮太だ。同じ右打者の川島がソフトバンクに移籍したことに伴い、1軍に上がってきた。
「開幕1軍のチャンスをケガ(3月に右足首捻挫)で逃して悔しい思いをしました。ファームでも1軍で絶対に結果を残すつもりでやってきました。このチャンスは逃したくありません」
強い決意の下、ここまで24試合に出場。既に3失策を喫しているものの、堅実な守備が持ち味だ。
「試合に続けて出していただけているのが、いい経験になっていますね。エラーもありますが、同じミスを繰り返さないように意識しています」
同じ失敗を何度もする人間は周囲の信頼を得られない。失敗から何を学び、どう挽回するか。肝心なのは、ミスをした後の立ち居振る舞いである。
谷内が1軍に上がって間もない7月31日、甲子園での阪神戦。3−0とリードした7回、先頭の鳥谷敬が放ったゴロをファンブルしたあげくに悪送球で出塁を許した。このエラーをきっかけに阪神が1点を返して試合の行方はわからなくなりかけていた。
しかし、守りのミスをバットで取り戻した。9回、1死一、二塁のチャンス。阪神3番手の歳内宏明からセンター左への2点タイムリー二塁打を放つ。これがダメ押し打となり、結果的には8−1と快勝した。谷内はプロ初となる4安打(3打点)をマークしたた。
「初めての甲子園は独特の緊張感がありました。でも、守りやすかったですよ。2軍で西武第2や、ロッテ浦和、鎌ヶ谷と土のグラウンドでやってきましたが、そこよりは整備されていて守りやすい。確かにエラーをしましたけど、“ここは苦手だなぁ”と思うのではなく、“ここは守りやすい球場なんだ”と思いこんで、目の前のプレーに集中しました」
たとえ転んでも、ただでは起きない。ミスは必ず取り返す――。「それが谷内の強み」と証言するのは國学院大時代に指導した上月健太コーチだ。
「試合を落とす致命的なエラーをすることもありましたが、次の試合で同じような打球が来たら、きっちり処理して、打つ方でも貢献していました。ミスをただのミスで終わらせず、うまくいくように練習して挽回する。そうやって谷内は成長していったんです」
大学1、2年時はサードだった谷内は、2学年上の先輩ショートの卒業にあたって自ら後継に名乗りを上げた。ショートの動きを体で覚えるべく、授業や全体練習の合間を縫って上月コーチとマンツーマンで連日100本の個人ノックを受けた。
「プロなら、それこそ宮本慎也さんとか、他の大学のショートも含めて、いいものはどんどんマネをしていましたね。こうなりたいという理想があって、そこから逆算して何をすべきかを考え、工夫する。谷内は人よりズバ抜けてパワーがあるわけでも足が速いわけでもない。それでもプロ野球選手になれたのは学びとる力が優れていたからだと感じます」
こう述懐する上月によると、独特なバッティングフォームも大学時代に自ら試行錯誤したものだという。オープンスタンスで上段に構え、軸足を折るスタイルは、トップの位置を決め、ボールをしっかり呼び込んでスイングするにはどうしたらよいかを考え抜いた末に編み出された。軸足を曲げるのは本人曰く、「ヒザに力感を持たせ、軸足に溜めた力をバットに乗せたい」との意図がある。
高校(金沢西)、大学とキャプテンを務め、リーダーとしての資質もある。大学時代はチームをまとめ、4年春に東都リーグ1部復帰へと導いた。「やはりショートが安定するとチームが安定する。それを谷内が改めて証明してくれました」と上月コーチは明かす。名実ともに谷内はフィールドのキャプテンだった。
「チームの大黒柱になりたい」
2年前、ドラフト6位で入団した際のお披露目の席で、谷内は力強く宣言していた。プロのショートとして、フィールドのキャプテンとなり、チームの大黒柱になるには勉強すべき点はいくつもある。守備の安定感はもとより、打撃面でも、あるコーチは「構えが大きすぎてプロレベルの速球には差し込まれる。ゆくゆくは修正が必要」と指摘する。ただ、「同じミスを繰り返さない」との意識の高さと、良いものを貪欲に吸収する学習能力はプロで成功する上での必要条件だ。
ファンの方ならご存知だろうが、谷内は「ヤチ」と読む。入団発表の際には司会者から「タニウチ」と呼ばれ、本人は「ヤチです」と強調していた。今季もテレビ中継で「タニウチ」と紹介されていた。「谷内=ヤチ」をプロ野球ファンに浸透させるには、それこそレギュラーに定着するような活躍が求められる。
今季、完全にセカンドのポジションを獲得した山田哲人とともに、「アライバ」のごとく、「ヤチヤマ」とニックネームがつくような名コンビでチームを攻守に引っ張る。近い将来、それが実現すれば、ヤクルトも再び優勝を争える強いチームになっているはずである。
(石田洋之)
(次回は9月15日に更新します)
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