二宮: 本日は政治評論家の有馬晴海さんにお越し頂きました。内閣改造後も揺れ続ける安倍内閣を中心に、様々な政治の話をうかがいたいと思います。
有馬: 二宮さんとお話できる機会を楽しみにしていました。よろしくお願いします。
(※この対談は9月12日の安倍首相辞任表明前に行われました)
<提供:アサヒビール株式会社>二宮: まず、おうかがいしたいのですが、9月9日に安倍晋三首相がテロ特措法について「(成立に)職責を賭す」と発言した。これはどういう意味があるのでしょう?
有馬: 色々な見方はありますが、私は「もしかすると安倍さんは辞めたくなったのではないか」と考えています。人心一新を図ったはずの新内閣も、わずか8日で遠藤武彦農相が辞任した。「政治とカネ」の問題は毎日のように報じられています。それで首相は疲れがきたのではないでしょうか。民主党の小沢さんはテロ特措法反対の姿勢を変えないから、成立する可能性は低い。そのことは、安倍さんも十分にわかっています。テロ特措法が通らなければ内閣総辞職をすることになる。それで辞めてしまおうと。もともと身体も丈夫な方ではないし、最近は体調も悪いようにみえますからね。もちろん、本人の真意はわかりませんが。
二宮: あの発言は各方面に波紋を投げかけています。私は破れかぶれ解散という大博打を打つのではないかと見ていますが……。ところで、改造後、安倍内閣の支持率が上がりました。7月は2割台でしたが、改造直後は4割を超えた。
有馬: 内閣が新人事を組むと“ご祝儀”がありますからね。国民も「とりあえずは期待をしてみよう」と考えたのでしょう。ただ、安倍内閣は、発足した06年9月、支持率が7割超もあった。それを考えると、回復具合がいいとは言えない。前の内閣の失敗が大きすぎましたからね。「やっぱり安倍さんにはあまり期待できないかな」という部分も国民の中には根強いのかなと。ご祝儀のあとに、また農水大臣の辞任やおカネの話が出て、支持率も少し下がってしまいました。
二宮: 改造した内閣で「これはおもしろい」と思った人選はありましたか?
有馬: ウーン、舛添厚相ぐらいでしょうか。内閣経験者が数多く入っていて、安定感はありますが、あまり面白みがない。僕は今回の内閣を“先祖帰り内閣”と言っています。
二宮: なんだか縁起が悪い内閣ですね(笑)。そう言われてみれば、第2次森改造内閣で額賀さんは経済財政政策担当大臣だったし、高村さんも法務大臣を務めていた。
有馬: 「昔の名前で出ています」という感が強いですよね。前の内閣に比べたら、確かに安定はしている。安倍首相も人選には苦労したでしょう。ただ、その割にはイマイチ面白味がない。女性や民間から登用しなくてはいけないとまでは言いませんが、優秀な人材を外部から連れてこないと駄目ですよ。
二宮: サプライズのある人選といえば、元岩手県知事の増田さんぐらいでしょうか。
有馬: そうですね。でも、全体的に驚きはありませんでしたね。「1ヶ月考えて、この範囲か……」というのが正直な感想です。何度も言いますが、前の内閣がよくなかったわけだから「今度は何かやってくれるかもしれない」「何をやるんだろう」とワクワクさせるような布陣じゃないと国民は目を向けてくれませんし、信頼は回復しないでしょうね。
二宮: 辞任した遠藤さんなんて農相に就任した時に「ここだけは来ない方がよかった」と言っていたでしょう。だったら、なぜ大臣になったのかと(笑)。
有馬: 本当にそうだとしても、あんな言い方をしちゃいけませんね(笑)。安倍さんが舐められている証拠です。僕はね、橋本聖子さん、馳浩さんあたりを思い切って使ったら、面白いと思うんですよ。
二宮: なるほど、体育会系の方を登用しろと。
有馬: そう。今の内閣は安倍さんの姿が見えたら、全員が立って挨拶するところから始めなければいけない。この2月に中川秀直前幹事長が「閣議などで安倍首相の入室時に起立せず、私語を続ける官僚がいる」と指摘したでしょう。礼に始まって礼に終わることを国のトップがやらなくて誰がやるんだと私は思うんです。安倍さんは教育について口酸っぱく言っていますが、それが教育の第一歩ですよ。
二宮: 教育といえば、安倍さんの引き際が美しくなかったことは致命傷だと思うんです。参院選前の党首討論で「小沢さんと私のどちらが首相にふさわしいか。国民の皆さんの考えをうかがう」と言っておきながら、選挙で負けた後も居座っていた。親が教育で子供に対して「自分が言ったことは守りなさい」と言っても、「総理が守っていないじゃないか」と反論されたら、言い返す言葉がありません。その総理が教育と言っても、何の説得力もない。
有馬: 安倍さんには、もう少し物事に真剣に取り組んでほしいですね。自分の発言に責任を持たなければ、国民は信用しない。
二宮: それに、安倍さんは閣僚を守りすぎるところがあるでしょう。赤城徳彦元農相の事務所費問題で「光熱費800円で大臣を辞めさせるんですか」と発言した。開き直るのもいいですが、それが悪い方向に出ている気がしますよね。
有馬: たとえば、前内閣では首相補佐官を5人もつけましたよね。自民党のある議員が私に言っていましたよ。「自己顕示欲の強い人ばかりだから、うまくいっている時はいいが、悪くなれば『オマエのせいだ』といがみ合いになって大変だよ」と。この点でも悪い方向に行ってしまった気がしますね。
<菅義偉さんは今では珍しい野武士タイプ>
二宮: 与謝野馨さんが官房長官になりましたが、元々は菅義偉さんが就任するはずだったと。事務所費問題が明るみに出て、安倍さんも代えざるを得なかったのでしょう。
有馬: そうでしょうね。菅さんは、安倍さんが誰よりも信頼している人です。私は3ヵ月前から次の内閣は菅さんが官房長官だと聞いていました。直前まで所信表明の原稿をつくっていたようですし。年金問題が出て、このままでは自民党は参院選で戦えないという時に、菅さんが中心になって、同問題を追及する『第三者委員会』『検証委員会』といった機関を総務省に設置したんです。そうして、年金問題をなるべく争点から外す形で選挙に臨めるようにした。縁の下の力持ちというか、黒子役というか、とにかく裏方の役割をこなせる人ですよ。
二宮: そうですね。“お友だち内閣”の中では珍しくパンチ力がある。昔でいったら、梶山静六さんみたいな野武士っぽいイメージがあります。
有馬: 実は、菅さんは梶山静六さんを尊敬していて、相当影響を受けている。「梶山静六が総理になっていたら、今の日本は大きく変わっていた」という考えをお持ちで、梶山さんを強く支持した人なんです。
二宮: やっぱりそうか。梶山さんと同じ匂いがしますからね。二世三世のボンボンで自己顕示欲が強い議員が多い中で、黒子役に徹することができて、官僚ともしっかり渡り合える人材というのは貴重ですね。
有馬: 本当に、今の政治家の中では珍しいタイプですよ。野球でいえば、送りバントを確実にやる。隠し球もやる。汚れ役もいとわない。チームに1人は絶対に必要な存在ですね。
<安倍内閣は構造改革より人気回復> 二宮: 安倍さんは小泉さんから引き継いだ構造改革路線を進めていく気はあるのでしょうか。与謝野さんが官房長官に就任したことで、改革路線を捨てて財政再建の方に行くのかなと。僕は小泉さんの改革路線を支持していたのですが、今回の内閣はどうも違うなという感じがします。
有馬: 恐らく、二宮さんが心配されているとおりだと思いますね。菅さんに官房長官を任せようと思ったが、2000万円の事務所経費問題が出たため、できなかった。そこで、他の人材を探すという手もあったと思うんです。例えばね、町村さんを官房長官に置くといったこともできた。でも、結局、空いた穴を麻生太郎幹事長の強い推薦で与謝野さんで埋めてしまった。結局、安倍さんにとっては構造改革は大して重要じゃなかったとしか思えない。以前の内閣が“お友達内閣”が揶揄されたので、それとは違う内閣をつくるということしか考えられなかったんでしょう。「人気の回復をしたい」「選挙対策もしなければいけない」と。そのために手堅い人材を登用して、官房長官は与謝野さんに落ち着いたのかなと。
二宮: 与謝野さんは非常に優等生的な方だから、不祥事は出てこないでしょう。確かに安定感はあるかもしれない。ただ、改革の火は完全に消えましたね。安倍さんは先の参院選で地方で負けたことがショックで、今回の人事を行なったのでしょうが、与謝野さんが官房長官となれば、今度は都会の人が逃げるでしょう。「改革を続行しないのであれば、もう自民党に用はない」とね。
有馬: 都会と地方、どっちつかずになる可能性は高いでしょうね。例えば、小泉内閣の前までは約82兆の本予算の約10兆が公共事業予算だったのですが、小泉さんが首相在任中の5年半で7兆にまで減らした。で、その7兆を向こう5年間で3%ずつ減らして、5年後には6兆になる予定だった。それが安倍さんに代わった途端、「公共事業予算を3%ずつ減らすと地域が干上がる」と。結局、削減幅を3%から1%に転換した。そういうところひとつとっても、安倍さんがどういう考えを持っている人か、よくわかりません。
二宮: 言い方は悪いですが、安倍さんは本音の部分では構造改革に興味がない人だったのかなと。
有馬: もっと意地悪く言えば、安倍さんにとっては憲法改正など首相として大きな実績を残すことが重要で、景気上昇や地方の活性化はどうなってもいいんじゃないかと思えますね。「政策よりも、俺は大きなことをやりたいんだ」という印象を受けてしまう。
二宮: 大きなことをやろうと思ったら、小さな実績を積み重ねていかないと。
有馬: 大きなことを達成し、実績を残せば、支持率は上がると思ったんでしょう。ただ、二宮さんがおっしゃるように、やっぱり日銭を稼ぎながら大きいことをやらないと……。日銭がないのに大きいことばかりを狙うから、息切れしてしまう。それは、安倍首相がまだ50代前半で政治家として修羅場を経験していないということだけで片付けていいものかどうか……。
二宮: 今の政府は民の竈(かまど)ではありませんが、パンを提供するから、国民は支持してくれるわけでね。「俺は立派な竈をつくってやるぞ!」と言っても、「それよりもパンを先にくれ」となってしまう。
有馬: 僕は「政治というのは国民以上でも国民以下でもない」とよく言うんです。国民が望むような政治が理想なんですね。ただ、安倍さんは自分のやりたいことを一生懸命に押し付けているような感がある。それが国民に拒絶されて、先の参院選はうまくいかなかったと私は思っています。もう少し、国民の意を汲まなきゃいけない。与謝野さんによって、安倍政権がどう変わるかはわかりません。「前の内閣は失敗したから、今回は失敗だけはしたくない。人気は回復したい」という強い意気込みは見えます。ただ、安倍政権の浮沈はこれから何ができるかにかかってくるでしょうね。
<自民党には不満がある、民主党には不安がある> 二宮: 有馬さんの言葉を聞いていて「なるほど」と思ったのが、「自民党には不満がある、民主党には不安がある」という言葉です。これは言い得て妙ですね。
有馬: そう言うと民主党で「どこが不安だ」と怒る人がいますよ。でも、国民からすれば、やっぱり民主党に政権を渡すというのはどこか不安な部分があるんですよ。右にいくのか、左にいくのか。国民にいいことを本当にしてくれるのか、そうじゃないのか。果たして、どんな日本にするつもりなのか。どうもわからないんですよね。
二宮: 今の民主党って10年前の自民党だと思うんです。小沢さんが党首になってから、よくわかったのですが、民主党って経世会なんだなと。右から左まで色々な人が党内にいる。寄り合い状態で、アメーバみたいに増殖していく。良くも悪くも昔の自民党に見えてしょうがない
有馬: そうなんですよ。特に小沢さんが民主党に参加してからというもの、民主党は内部に様々な勢力があって、互いが一生懸命に自分の縄張りを増やそうとしているところがある。でも、そのエネルギーが今回の選挙ではうまく働いたような気がする。一方で、自民党は安倍さんがどっちつかず、そして派閥が形骸化してしまった。だから、競争心がなくなっちゃったんじゃないかな。
二宮: なるほどね。昔は、自民党も色々な派閥があって、派閥が張り合うことによって、党勢を拡大していったと。
有馬: そう。「あいつらには負けるか」と党内で争うことで、エネルギーが湧いていった。今は、小沢さんが入ったことで、民主党がそういう状態になっているんじゃないかと思いますね。自民党は選挙の顔として安倍さんを選んだけれど、こけてしまった。安倍さんは、もう少し毒を持った人物をそばに置かないと。結局、麻生さんや石原さんなど仲のよい人物を残している。それでは、民主党のようなエネルギーは湧いてきませんよ。スポーツだってそうでしょう。チーム内で競争があるのとないのとでは全く違う。
二宮: V9時代の巨人だって、長嶋派と王派があった。だから、グラウンドの外ではあまり話さない。ご飯は一緒に食べない。しかし、試合になると一致団結して一生懸命にやる。
有馬: そう。いざとなれば、一つにまとまらないと。同じユニフォームを身にまとっているんですからね。
二宮: そこなんですよ。民主党のある議員にそれを言ったことがあるんですよ。「同じユニフォームをつけているんだから、いろいろと考えは違っていても一つにまとまらないといけないんじゃない」と。議論がオープンなのはいいが、党内で足を引っ張り合うべきではない。少なくとも政権をとるまでは……。
有馬: 「民主党はよせ集め」とよく言われていましたからね。参院選ではそれぞれのエネルギーが結果的に一つに凝縮されて勝つことができたという気がします。ただ、政権をとった時、本当に一つになれるのか。つまり、政権をとるまではユニフォームが1種類でまとまっていても、与党になった瞬間に党内がバラバラに割れてしまうのが民主党かなと。そのあたりをどう乗り越えるか。参院選で勝ったからといって、民主党も安心できませんよ。
(後編に続く)
有馬晴海(ありま・はるみ)<政治評論家>1958年、長崎県出身。立教大学を卒業した後、(株)リクルート社、国会議員秘書を経て、96年に政治評論家として独立。現在はテレビ、新聞、雑誌などの評論活動を中心に講演会活動を行っている。また、政治研究会「隗始塾」を主催している。著作に『政治家の禊』『議員秘書の打ち明け話』などがある。
★本日の対談で飲んだお酒★[/color]
日本のウイスキーの父・竹鶴政孝。今から90年も前に単身スコットランドに渡り、日本人として初めて本格ウイスキーづくりを体得した男。竹鶴という名こそ、日本のウイスキーの原点なのです。
▼詳細は画像をクリック!
・竹鶴17年ピュアモルト
容量:700ml
アルコール度数:43度
円熟した旨みと沸き立つ香りのモルトを厳選。まろやかな口当たりと爽やかな余韻が特徴です。
提供/アサヒビール株式会社 商品のご注文はこちらからも可能です>>>
<対談協力>
〜ウイスキーの美味しさ、楽しさ、奥深さを感じるバー〜
ニッカ ブレンダーズ・バー〒107-0062 東京都港区南青山5−4−31 ニッカウヰスキー本社ビルB1 TEL:03-3498-3338
>>HPはこちら
◎バックナンバーはこちらから