二宮: 現在、ブレンダーの方はニッカにどのくらいいらっしゃるのですか。
久光: 私の下で一緒にやっているのは、自分も含めて6人ですね。原酒と同じでひとりひとり個性があるので、おもしろいですよ。彼らの個性をどうバッティングさせて、おいしい商品をつくっていくか。みんなで一生懸命やっているところです。
<提供:アサヒビール株式会社> 日本ウイスキー界のパイオニア――竹鶴政孝二宮: ニッカウヰスキーの創業者といえば竹鶴政孝さん。今から90年前に単身でスコットランドに渡り、ウイスキー修行をしたと伺っています。その点では日本のウイスキー界のパイオニアですよね。僕も野茂英雄がメジャーに挑戦する際に、ずっと密着していましたが、パイオニアというのは本当に大変で、かつ偉大だなと感じました。
久光: そうですね。竹鶴政孝さんは決して夢を捨てなかった。竹鶴政孝さんがいたからこそ、僕たちは信念をもってウイスキーづくりに専念できるんです。竹鶴政孝さんのウイスキーにかける情熱、スピリッツが我々の精神的支柱になっています。
二宮: 夢を具現化するポイントは計画的かつ大胆であること。大胆すぎても後が続かないし、計画性ばかりを追い求めるとチャンスを逃してしまう。まさに竹鶴政孝さんは、その両方を持ち合わせていたということでしょう。まずウイスキーづくりの資金を集めるために、大日本果汁株式会社を立ち上げてリンゴジュースをつくりましたね。その一方で休日には熊狩りに出かけるような豪快さもありました。
久光: 夢を実現するためには時間がかかります。1934年に余市工場を立ち上げた後、グレーンウイスキーを製造するための西宮工場が完成したのは1959年。35年もの歳月を必要としました。さらにはウイスキーのバリエーションを広げるため、複数の蒸溜所をつくりたいとの夢が叶ったのが1969年でした(宮城峡蒸溜所の完成)。それでも生涯をかけて夢を追い続けた先人の思いを受け継がなくてはいけないと感じています。
そろそろ、次のお酒にうつりますか?
二宮: ええ、ぜひお願いします。今度はどんなウイスキーでしょう?
久光: こちらも賞をいただいたウイスキーで「フロム・ザ・バレル」。アルコール分が51.4%で、濃厚な味わいが特徴です。
二宮: 確かに濃くておいしいですね。最初はザラッとワイルドで、その後はとろけるような感覚。いや〜、これは本当にうまい! こんなウイスキーがあったなんて驚きです。
久光: こちらは比較的新しい原酒を使いますので、元気な感じがしますよね。にもかかわらず、口の中ではなめらかになる。ウイスキーの深みが充分に表現された一品です。しかもボトル(500ml)でおよそ2,000円ですから、価格的にも非常にお手軽な値段になっています。
二宮: 「フロム・ザ・バレル」を飲むのは初めてです。新しい商品なんですか?
久光: いえ。僕が入社して、ピュアモルトの後に佐藤茂生マスターブレンダーと手がけた商品です。もう発売されて20年以上はたっています。前回お話したように、20年間、同じ商品として変わらぬ味わいをキープしていくこと。これが僕たちの大切な仕事のひとつになっているわけです。
(写真:フロム・ザ・バレル(右)とピュアモルト) ウイスキーでロマンを味わう二宮: 楽しい時間も終わりに近づいてきました。あらためてウイスキーの魅力を聞かせてください。
久光: ウイスキーは一言で言えば時間のお酒。ひとつここでクイズを出しましょう。ウイスキーを眠らせておく樽の材料はホワイトオークが使われています。このオーク材の樹齢は何年でしょうか?
二宮: 欧米の大自然の中で育っていますからねぇ。かなり古いでしょう。もしかして500年くらい?
久光: さすがにそこまでのものはありません(笑)。100年以上のものが使われています。となるとウイスキーを眠らせている間に100年モノの樹木エキスが出てくる。その中で15年とか20年、お酒を熟成させていくわけですから、100年+20年。人の一生の時間を越えたロマンを味わえるのがウイスキーなのかなと考えています。
二宮: なるほど。歴史を味わえるお酒ということですね。しかも保存がきくし、自分の時間軸の中で楽しめる点も魅力ではないでしょうか。
久光: そうですね。ウイスキーはゆとりを与えてくれます。1度にガバガバ飲めませんから、グラスを片手にひとりでもの思いにふけったり、人とゆったり話ができる。時間を満喫できる点は捨てがたい魅力ですよね。
ウイスキーの復権=父親の復権?二宮: 最近は焼酎やカクテル、ワインなどいろんなお酒が増えましたし、ウイスキーのグラスを傾けるゆとりが人々から失われてきている面は否めませんね。
久光: だからこそウイスキーの文化を復活させたい。これが今の夢です。どうしてもウイスキーには、ある一定の年齢層の大人の飲み物というイメージがある。でも、ウイスキーは老若男女楽しめるし、お酒の強い人も弱い人もおいしくいただけると思っています。飲めば飲むほどハマるお酒。ですから、まずはひとりでも多くの方に飲んでいただきたい。
二宮: ウイスキーといえば、昔は父親の代名詞でした。家には洋酒棚があって、そこにウイスキーが並んでいた。父が黙ってウイスキーをたしなむ姿に“大人”を感じたものです。今はマンション住まいが多くなって洋酒棚のある家が少なくなりました。父親の威厳が失われたのも、このせいではないかという気がしています。「ウイスキーの復権=父親の復権」かもしれない。「大人ならウイスキーを飲め」。そう言いたい気分ですよ。
久光: 飲みやすく飲み飽きないウイスキー。これが今後のテーマです。飲みやすいというのは、味はもちろん価格も含まれます。安くてもおいしい。竹鶴政孝さんが目指していた理想を体現するのが僕たちの役割です。
二宮: 最後に、ブレンダーの仕事をされていて良かったと思う瞬間は?
久光: 賞をいただくことはもちろんうれしいのですが、こういう一緒にお酒を楽しんでいる場で、直接「おいしいね」と言っていただけることが何よりの喜びです。今回、いろいろなウイスキーを楽しんでいただきましたが、どのお酒も満足していただいたようで、本当にうれしいですね。
二宮: あらためてブレンダーとは職人なのだとの思いを強くしました。これからもウイスキー党として、おいしく楽しく飲み続けていきたいと思います。次の新作を楽しみにしています。
(おわり)
久光哲司(ひさみつ・てつじ)1983年、ニッカウヰスキー株式会社にブレンダーとして入社。その後、マーケティング、生産管理、原料調達、営業など幅広い部門を歴任。2006年1月よりブレンダー室長兼チーフブレンダーとなる。2007ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)で世界最優秀賞「アワード」を受賞した「竹鶴21年ピュアモルト」、「ベスト・ジャパニーズ・シングルモルト」を受賞した「シングルモルト余市1986」のチーフブレンダーでもある。
★本日の対談で飲んだお酒★[/color]
日本のウイスキーの父・竹鶴政孝。今から90年も前に単身スコットランドに渡り、日本人として初めて本格ウイスキーづくりを体得した男。竹鶴という名こそ、日本のウイスキーの原点なのです。
・フロム・ザ・バレル容量:500ml/アルコール度数:51.4度
熟成されたモルトウイスキーとグレーンウイスキーは、ブレンドの後、再貯蔵(マリッジ)されることで、異なるウイスキー同士が深く馴染み合います。フロム・ザ・バレルは、再貯蔵の後、割り水をせずにそのままボトルに詰められた個性豊かなウイスキー。重厚な味わいとコク、豊かに広がる香りが特徴です。[/color]
提供/アサヒビール株式会社 商品のご注文はこちらからも可能です>>>
<対談協力>
〜ウイスキーの美味しさ、楽しさ、奥深さを感じるバー〜
ニッカ ブレンダーズ・バー〒107-0062 東京都港区南青山5−4−31 ニッカウヰスキー本社ビルB1 TEL:03-3498-3338
>>HPはこちら
◎バックナンバーはこちらから