二宮: 吉永さんは、お酒にまつわる面白いエピソードはいろいろとお持ちでしょう。
吉永: モンゴルに馬乳酒を飲みに行ったことがあるのよ。あれは面白い経験だった。
<提供:アサヒビール株式会社>二宮: ほう、馬乳酒ですか。
吉永: 私は、馬と酒のおかげでここまで生きてこられたようなものだから(笑)。馬乳酒を飲みたいと思ったのは、トルストイが本の中で「世界で最高の癒しの酒」と書いていたのを読んでからですね。どうしても飲みたい、と思ったけど、日本のどこかで売っているわけじゃないから、モンゴルに行って飲むしかない。かといって、モンゴルの首都ウランバートルでも売っていない。「どうしたら飲めるんだろう」とずっと言い続けていたら、酒文化に造詣が深い玉村豊男さんたちと行こうという話になった。モンゴルの研究している人を紹介してもらって、そこでなんとかツテを探そう、と。それで、国立民族博物館が取り組んでいた馬乳酒の研究の被験者として行かせてもらえることになったの。
二宮: 馬乳酒は身体に良いんですか?
吉永: 中性脂肪とかコレステロールを下げる効果があるらしい。モンゴルには「赤いご馳走」と「白いご馳走」があって、冬場は雪に覆われるから干し肉――つまり「赤いご馳走」で生きていく。野菜もなくて干し肉だけを食べるから、身体がどんどん酸性に傾いていくの。それで夏場には「白いご馳走」の馬乳酒を飲んで、酸性になった身体をアルカリ性に戻す、と。1年のうちでそうやって、赤いご馳走と白いご馳走でバランスを整えるのね。でも、牛はたくさん乳がとれるけど、馬はAカップだから(笑)、そんなに乳がとれるものではない。子馬も育てないといけないでしょう。子馬の授乳が終わって草を食べ始めるころ、人間に分けてもらったものが馬乳酒になる。だから貴重なものなのよ。
二宮: 馬の乳から酒になる工程は?
吉永: まず馬の乳を桶のような入れ物に絞って、専用の道具を使って4千回くらい、一晩中、かき混ぜ続けると酸っぱくなる。それが馬乳酒になる。
二宮: モンゴルではすぐに飲めたんですか?
吉永: そう簡単にはいかなかった。ウランバートルから西に300キロくらいの距離を車で走って、裕福な遊牧民のゲル(モンゴルの遊牧民が暮らす住居)の隣にゲルを張って、一種のホームステイさせてもらう形。そこで余った馬乳酒を分けていただくんだけど、そこはもう、一面の大草原で、本当に何もなかった(笑)。道路の舗装もされてないから、向かう道もずっとボコボコ。夏だからすごく暑いのに、窓を開けると、ほこりがバーッと入ってくる。
二宮: それは大変な旅でしたね。現地についてからは?
吉永: ついてからも大変だった。ホームステイといっても、自分たちのゲルはつくらないといけないのよ。トイレなんてないから、自分でシャベルを使って、穴を掘る(笑)。もちろん電気も水もない。
二宮: すごい環境ですねぇ。星はきれいだったのでは?
吉永: ぞっとするくらいの美しさでした。それで、ホストファミリーのゲルにおじゃまして、憧れの馬乳酒と対面したわけ。汚い桶からひしゃくですくって大きな器についでくれたの。そうしたら、表面にゴマみたいなものがいっぱい浮かんでいる。「何だろう?」と思ったら、虫とかゴミとかいろんなものが浮いていた(笑)。通訳の女の子が「ふーっと息を吹きかけ、お祈りしながら飲んでくさい」と言うの。「息を吹きかけたら虫がむこうにいきますから、そのすきに飲んでください」と(笑)。それでも飲んだ瞬間、黒いのを何個か飲み込んでしまった。何が「癒しの酒」よ(笑)。
二宮: うわぁ…すごいですね。それで、馬乳酒のお味は?
吉永: 全員絶句(笑)。モンゴルの子どもも飲むくらいだから、アルコールは3%くらいでそんなに強くないのね。でも、何ともいえない酸っぱさと、“獣フレーバー”がすごい(笑)。桶もずっと洗っていなから、いろんなものが混ざった匂いがすべてそこにしみついている。馬乳酒の被験者として行っているわけだから、これを朝昼晩、飲まないといけないと思ったら、目がうつろになりましたよ(笑)。「馬乳酒が飲みたい」なんて言わなきゃよかった、と後悔したりして(笑)。
二宮: ハハハ。そこまで苦労したのに…。おなかは大丈夫でした?
吉永: 私は大丈夫だったけど、男性陣はみんなお腹を下していたね。女の方が丈夫みたいで、女性は3人いたけど、みんな平気だった。男はみんなシャベル持って、外にとんでいったわよ(笑)。
二宮: その馬乳酒を朝昼晩と飲んだわけですね。
吉永: そう。でも面白いことに、海外に行っても、日本を出て2、3日すると、日本で食べたものが全部身体の外に出る。そうなったときにはじめて「美味しいかも…」と感じ始めるのね。その土地のものを受け入れられるニュートラルな私になる気がするのよ。目にしている風景と自分の身体が馴染むことも大事なんでしょうね。
二宮: 身体もその土地に慣れていくんでしょうね。馬乳酒を飲んで、何か検査をしたんですか?
吉永: 行く前に日本のクリニックで、さらに1週間滞在してからモンゴルのベースキャンプまで車で行って、採血、採尿。毎日、暇でやることないから、日本からたくさん酒を持っていって、飲んでばかりいたのよ。だから、「最低の被験者だ」と怒られましたね。「馬乳酒の何倍の酒を飲んでいるんだ」と(笑)。
羊が1頭、食卓に…二宮: ハッハッハ。ほかにモンゴルで印象に残っている食べものは?
吉永: 滞在していたときは料理人がついてくれて、食材をベースキャンプまで買いにいって、食事をつくってくれるんだけど、なぜか羊の料理が出ない。日本人が嫌いだと思っているのかもしれないから「羊が食べたい」と伝えたの。そうしたらなんと、たくさんのヤギ、牛、馬、羊を所有しているホストファミリーから生きた羊が1匹来ちゃった。一頭丸ごと。みんなビックリ。確かに食べたいとは言ったけど、まさか生前の姿のまま来るとは思わなかったから、焦っちゃって(笑)。
二宮: 羊1頭ですか!? まず食べきれないでしょう。
吉永: 小さい羊だったし、私たちは10人いたから、食べられるんだけど、これをいったいどう調理するの!? と。「可愛いね」なんて言っていたら食べられなくなっちゃうから、あまり見ないようにして…。それで、ホストファミリーの息子が、テーブルに羊をのせて、ナイフでおなかの一部を切ったの。それで切ったところからパッと手を入れて、血管か何かをキュッとつまんだら、鳴き声一つ出さずに、ご昇天。切ると血が出るでしょう。その血も全部桶で取るのね。命を犠牲にする以上、血の一滴たりとも、大地に落してはいけない。皮も毛皮にするし、骨の髄液まで残さない。
二宮: 肉はどうやって調理して食べるんですか?
吉永: 調味液にしばらくつけて、焼いて、さらにじっくりと蒸しました。すごく美味しかった。あんなに美味しい羊は食べたことがなかった。
二宮: 骨の髄はどのように?
吉永: 骨の髄液を吸うのね。最高のお酒を飲もうということで、日本から持って行って、とっておいたアルマニャックをちょっとずつみんなで分けて飲みました。同時に、命のために命をいただく尊さもずっしり感じて、みんな真剣な顔で食卓に向かいました。
二宮: 馬乳酒はともかく、羊は美味しそうですね。
吉永: 馬乳酒も慣れれば美味しかった。それにしても、モンゴルは面白くて貴重な経験ができましたね。
(続く)
吉永みち子(よしなが・みちこ)プロフィールノンフィクション作家。1950年生まれ、東京外語大学卒。競馬新聞記者、日刊ゲンダイ記者を経て1977年騎手の吉永正人氏(故人)と結婚(後に離婚)。「気がつけば騎手の女房」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。テレビコメンテーターなどとしても活躍。
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