二宮: 核や拉致をはじめとする北朝鮮問題を解決させる方法があるとすれば、もはや内部クーデターによる政権交代しかないように思います。経済状態が危機に瀕している割にクーデターが起きないのは、やはり金正日ら上層部の締め付けが強いからでしょうか。
辺: クーデターが起きない一番の理由は何か。あまり語られていないことですが、北朝鮮ではトップが金日成から金正日に世襲されただけでなく、体制そのものが世襲の固まりなんです。金正日に使える若手の軍幹部人たちの父親は金日成政権下の軍幹部。カエルの子はカエルということですね。外部から人間を入れていないためクーデターや反乱が起こり得ない体制なんですよ。
<提供:アサヒビール株式会社>二宮: 今後も起こる可能性は低いと?
辺: 米国では「金正日政権はきわめて安定している」という分析があります。これはその通りです。周辺からは不安定だとささやかれながら、政権交代は父から息子への1回のみ。しかも政情不安は起こらず、スムーズに引き継がれています。クーデターも人民蜂起も起きない稀にみる安定した政権構造。これが金正日体制だということができるかもしれません。
<後継者は次男が有力?>二宮: となると金正日の後継は誰かという点が重要になりますね。世襲で考えると当然、長男の正男(ジョンナム)、次男・正哲(ジョンチョル)が有力候補になります。
辺: 金正日が急死するとか、政権が転覆しない限り、息子以外の人間が上に立つことはありません。金正日は死ぬまで総書記に座ってワンマン体制をとるでしょう。あるとすれば金日成と金正日がとったような息子との親子体制しかない。
二宮: その息子たちですが、夫人の遺言で長男の正男ではなく、正哲が有力な後継者との説があります。
辺: 年長を尊ぶ儒教の教えからいけば、後継は長男です。ただ、日本の戦国時代の家督相続がそうだったように先妻や側室、愛人の息子には後を継がせないというケースがあります。
二宮: 正男の母親は先妻の成恵琳(ソンヘリム)。そして正哲の母親は最も金正日の寵愛を受けたといわれる高英姫(コヨンヒ)夫人。だから次男が有力というわけですね。
辺: ええ。わかりやすいといえばわかりやすい理由です。成恵琳は日本でいえば原節子のような北朝鮮ナンバーワンの映画女優でした。金正日は彼女に一目ぼれをして一緒になったそうですが、同棲生活は4年間しか続きませんでした。一方の高英姫は30年間、ともに連れ添った仲ですからね。
<日本に都合のいい後継者は長男・正男>二宮: 今年に入って正男がマカオに潜伏している様子がたびたび報道されていました。目的は何ですか?
辺: 彼の銀行口座がマカオにあるんですよ。50もある口座の中に資金がプールされている。ただ、彼は非合法的な資金にはタッチしていないはずです。いくら中国政府の庇護があってもマネーロンダリングでたちまち逮捕されてしまいますから。正男を外国に出しているのは、おそらく金正日の指示です。彼は10代の頃からスイスやモスクワで語学を習得し、20代に入ってからは中国各地で経済開放路線をつぶさに見てまわっています。彼ほどの海外通は北朝鮮にはいないと思いますよ。
二宮: 金正男が自由に動き回っているのを中国政府が黙認しているのは、北朝鮮にどこかで“貸し”をつくっておこうという意図ですか?
辺: そうです。中国にとっては北朝鮮政権が親中派であることが望ましい。ところが金正日は言うことを聞かない。だから息子を中国のお庭で遊ばせているんです。
二宮: 正男は日本にも密入国を繰り返していて、成田で拘束された際には「ディズニーランドに行きたかった」と言っていましたね。
辺: 日本のメディアでは正男はドラ息子で風貌もパッとしない、あんなのが後継者かという論調です。一方の正哲は優秀で見た目もスマートで切れる男というイメージですね。ただ、日本にとって後継者はどちらがいいのか。
次男はエリック・クラプトンが大好きでサッカーW杯の期間中、ドイツにも訪れています。ある日本のテレビ局がその様子をキャッチしたんですが、格好はジャンバーにジーパンでした。北朝鮮にしてみれば、ジーパンは憎きアメリカ帝国主義の象徴ですよ。それを穿いているということは、欧米に対する親近感が強いことの証明です。逆に正男は日本に何度も潜入していることからもわかるように日本に対して親近感があるはず。となれば日本にとって、どちらが後継者になった方が組みしやすいか言わなくてもわかるでしょう。
<北朝鮮は日本の落とし子>二宮: 正男を後継者に持ち上げて、うまく利用する。そんな狡猾さも日本には必要だと?
辺: 誤解を恐れずに言うと僕は「北朝鮮は日本の落とし子」だとみています。案外、似た者同士なんですよ。権力の世襲にしても日本だって似たようなことは起こっています。安倍晋三首相にしろ、麻生太郎外相にしろ、二世議員ですから。
二宮: ブッシュ大統領も親子2代(笑)。
辺: もう1点、「北朝鮮は日本の落とし子」と感じるのは北朝鮮の精神構造が日本の戦中のそれに通ずるものがあるからです。あるとき、金正日が「日本はえらい。アメリカは建国以来、1発の爆弾も領土に落とされたことはなかった。唯一、攻撃できたのは真珠湾を爆撃した日本だけだ」と日本を評価したことがあります。
二宮: 真珠湾の奇襲だけでなく、風船爆弾まで飛ばしている。国力の差は歴然としていながら、大国に立ち向かった姿が皮肉なことに北朝鮮のお手本になっているということですか?
辺: さらにいえば特攻隊があります。北朝鮮の特殊部隊のテキストには日本の特攻隊の話が出てきます。「祖国に限りない忠誠を誓い、上司上官の命令に絶対服従し、過酷な拷問にあっても思想転向せず、劣悪な環境下にあっても生き延びていく、この日本軍人の精神を学べ」と。実際に奄美大島沖にやってきた北朝鮮の工作船が銃撃戦の末に自沈したという事件がありましたね。
実は日本の戦中のスパイ機関だった中野学校の生き残りが北朝鮮で終戦を迎え、今も暮らしています。その人物は北朝鮮にしてみれば生きた教科書。日本が救出しようにも元スパイですから誰も本当の名前はわからない。たとえ名前が判明したところで国交がないので迎えにもいけない。日本の戦後はまだ終わっていませんよ。
二宮: 金正日は映画が大好きで、日本の映画もよく見ているとか。
辺: だから市川雷蔵主演の「陸軍中野学校」シリーズは全部見ているんじゃないですか。そこから金正日は特殊部隊のあり方を学習しているのかもしれません。
<南北統一の首都は開城>二宮: さて、韓国も北朝鮮も最終的には祖国統一を目指していますが、今後どのようなシナリオが予想されますか?
辺: やはり最後は北朝鮮の崩壊に伴う統一になるでしょう。東ドイツと西ドイツの統一のときと似ていますが、国がオープンになって外からの情報が流入すると北朝鮮の体制は崩壊します。今は経済が困窮し、生活で精一杯ですが、物資が入り、人が入って暮らしが安定すれば、人間は次に何を求めるか。それは自由です。
二宮: そもそも金正日は統一には乗り気なんでしょうか?
辺: 韓国に吸収されるのではなく、対等に合併したい。これが金正日の考えです。たとえば今度の北京五輪で南北統一チームを作ろうという動きが出ています。そのことに両者の異論はありません。ただ韓国が選考会を行って優秀な選手を五輪に送り出そうと提案しているのに対して、北朝鮮は対等な関係にこだわっています。選手団の人数はあくまでも同数。明らかに韓国の方がレベルの高い競技もあるわけですから、これではまとまりません。
二宮: もし南北統一が実現した場合、首都はどこですか。金正日なら平壌に置けと言いかねませんが……。
辺: いや。ここだけの話、内々では決まっているんですよ。首都は北朝鮮にある開城(ケソン)。朝鮮人参の産地として有名ですが、ここは高麗時代の首都でした。朝鮮戦争でも最後まで激しい争奪戦が繰り広げられたように韓国、朝鮮の人には特別な場所なんです。名山・金剛山と並んで開城が北朝鮮の手に落ちたことを悔しく思っている韓国人は少なくありません。
二宮: なるほど。開城は日本でいえば奈良、京都といった古都ですし、地理的にも半島のほぼ中央に位置しています。ここが首都なら異論は出ないということですね。ただ、一番の問題は統一の日がいつになるのか。何十年単位の話になりそうですね。
辺: 僕は間もなく還暦を迎えますが、正直ここまで統一に時間がかかるとは思っていませんでした。父が「オレの目の黒いうちに統一は実現する」と言っていたくらいですから。父はソウル五輪の年、88年になくなりましたが、それからでも約20年近くの歳月が流れました。僕が「コリア・レポート」を創刊したのが82年。統一となった暁にはやめようと思って始めたのですが、まだやめられません(笑)。
<金正日の野望は日本と米国の電撃訪問>二宮: 辺さんは85年に神戸で行われたユニバーシアードでは南北統一の応援団を結成されたんですよね。
辺: スポーツはやる方はダメですが、見るのは大好きです。神戸のユニバーシアードは初めて韓国と北朝鮮の代表選手が揃って日本にやってきた歴史的な大会だったんです。64年の東京五輪では力道山が北朝鮮の渡航費用を全額みるという話がまとまっていたんのですが、直前でボイコットになりました。だから両選手団が入場する姿に僕は感動しましたよ。
「日本で生まれた僕たちは韓国でもない、北朝鮮でもない。1つの旗の下に応援しましょう」
そう呼びかけて自費で5000本応援旗を作って、応援団を結成しました。ところが朝鮮総連も民団も対立が根深く、趣旨に賛同してくれませんでした。91年に千葉で行われた世界卓球選手権で初めて南北統一チームができたのですが、その時のシンボルマークは85年につくった統一応援旗と似たデザインになっています。
二宮: 総連と民団にしても昨年、和解の動きをみせましたが、すぐに撤回されました。真の統一までにはクリアしなければいけないハードルがたくさんありますね。
辺: 韓国・朝鮮人は基本的に群れない。団結しない。日本人は誰かが「この指とまれ」と言うと、みんなが集まってきます。ところが向こうではみんなが「オレの指に止まれ」と(笑)。
だからこそ北朝鮮は金正日を中心に徹底した体制を敷いているんです。彼らのスローガンは「一心団結」。逆にいえば独裁という形でしか、北朝鮮の人民の心はひとつにならない。
二宮: 最後にひとつだけ、お聞きしたいことがあります。独裁者・金正日の野望は何ですか? 南北統一ですか、それとも……。
辺: ズバリ言いましょう。日本と米国を電撃訪問することです。彼はスポーツや映画といった文化が大好き。それらの中心は米国であり、日本にあります。だから絶対、日本と米国を訪問したいという願望があるはずです。
米国を訪問した際にはブッシュと核問題についてサシで話をする。これは93年にパレスチナのアラファト議長とイスラエルのラビン首相が握手をした以上の衝撃を世界にもたらすでしょう。翌年、両者がノーベル平和賞を獲ったように、トップ会談で話がまとまればブッシュと金正日にも受賞の可能性が出てきます。これは米国にとって悪い話ではない。取り残されるのは日本だけ。ニクソン訪中の際に慌てふためいた歴史を再び繰り返すことになります。日本はもっと歴史に学ばなくてはいけませんね。
(おわり)
辺真一(ぴょん・じんいる) 1947年、東京都生まれ。明治学院大を卒業後、新聞記者を経てフリーのジャーナリストに。1982年に朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」を創刊。新聞、雑誌をはじめ多くのメディアで朝鮮半島問題について発言を行っている。著書に『「金正日」の真実』、『金正日「延命工作」全情報』(以上小学館)など。訳書に『北朝鮮が核を発射する日』(イ・ヨンジュン著、PHP)などがある。
>>編集長を務める「コリア・レポート」のサイトはこちら★本日の対談で飲んだお酒★[/color]
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