北京五輪が8月24日閉幕した。今回の大会には204の国と地域から役員も含めて約1万6000人が参加、17日間にわたって熱戦が繰り広げられた。中国政府が国家の威信をかけて臨んだこの大会から何が見えたのか。上海出身の大学教授兼ジャーナリスト葉千栄氏、金融コンサルタントの木村剛氏、スポーツジャーナリストの二宮清純が討論した。(今回は最終回)
木村: 間違った優越感という観点で申し上げると、アジアの中で業種別の時価総額で見たときに、日本企業でトップなのは自動車産業くらいです。ほかの産業では、中国やインドの会社の時価総額のほうが大きい。しかし、日本はいまだに日本企業がアジアのトップだと思っている。
 日本人は現実を直視できないのです。「負けたけれども、星野ジャパンは強かった」「本当は実力があるんだ」と思っている。

二宮: 北京五輪で明らかになったことは、勝った人は情緒に流されず、きちんと世界に目を向けていた。負けた人は内向きだった。島国野球が負けた。早稲田大学ラグビー部監督の故大西鐡之祐は「勝ってモノ申せ」と言ったといいます。それは正しいと思う。
 負けた人間が何を言ったってしょうがない。日本は国際柔道連盟を脱退できるのかといったら、それはできない。グローバル化に対応しなければならない。競泳の北島康介はライバルに研究されることを知っていた。だから2大会連続で2冠を達成できた。それが、重要なんです。北京五輪の結果は、「内向きの日本では勝てない」というメッセージを国民に送ったと思います。

: 『The World Is Flat』という世界的ベストセラーを書いた米国のコラムニスト、トーマス・フリードマン(Thomas L. Friedman)は、北京五輪を見た後、NYタイムズ紙のコラムにこんなことを書いていました。
「われわれがイラクやアフガニスタンで無人飛行機や巡航ミサイルを飛ばして戦争していたこの7年に、中国が何をしていたかがよく分かった。上海は今や台北をはるかに超える大都市だ。7年前、上海のGDPは1人当たり3000ドルだった。しかし今は9000ドルと3倍に成長させたのだ」

 私は発展した中国の良さばかりを主張するつもりはありません。中国には問題がまだまだたくさんあって、私たちは今後もそうした問題を批判し続けなければならない。それでも、中国はこれからも速いスピードで成長していくでしょう。
 その一方で、今の日本は、世界からたたかれる中国ほどには注目されなくなってしまった。落ち込んだGDP成長率も、政府の巨額な借金も、状況はかなり深刻です。その深刻さから目をそむけ、すべての問題を他国のせいにして隣国の崩壊を叫ぶなら、「失われた10年」に続く、「錯覚の10年」に陥ってしまうでしょう。そして、10年後に気がついたら「もう遅い」ということになるかもしれない。

二宮: 「錯覚の10年」。うまい表現ですね。

木村: 葉さんの言う通りだと思います。負けたのに、現実を見ようとしない。負けたのに「負けていない」と言い張るのは最悪です。スポーツも、経済もそうです。日本が現実を直視できないなら、本当に「錯覚の10年」に陥る可能性が高い。

(終わり)
<この原稿は「Financial Japan」2008年11月号に掲載されたものを元に構成しています>
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