二宮: 宮選手には申し訳ないのですが、ハンドボールには苦い思い出があるんです。体育の授業でキーパーをやらされて、シュートがどんどん飛んでくる。ボールが当たってメチャクチャ痛かった記憶があります。ハンドボールの試合を観るたびに、その痛さを思い出してしまう(笑)。


宮: キーパーから始めるのは良くないですね(笑)。僕もいろいろなポジションを経験しましたが、唯一、キーパーはやったことがありません。キーパー一筋だった姉は「どんなに他のプレーヤーがミスしても、私が止めればチームは負けない。そこがキーパーの快感だよ」と言っていました。でも、正直、自分もキーパーだけはやりたくない(苦笑)。

二宮: ボールが当たるだけでなく、ボディコンタクトも激しいですよね。小さなケガは少なくないのでは?
宮: 疲労が溜まるとケガが増えますよね。でも、その場の傷みより、試合で負けることのほうが痛い。たとえ足をくじいても走って治しますよ。骨が折れていない限りは。「痛い!」と思った瞬間に、痛みが出てくるので、ひねったと思ったら、逆にバーンと踏み込んで走るんです。ケガをするのも実力のうち。それをどれだけカバーするかが本当の実力なんだと思います。

 バレーボールにジャンプを学ぶ

二宮: 宮選手をそこまでひきつけるハンドボールの魅力とは?
宮: ひとつはどんな競技でもそうでしょうが、やればやるほどうまくなるところです。もうひとつは総合力が問われるところ。跳ぶ、投げる、走る、どれもできないといけない。いろいろなスポーツの要素がくっついている感じがします。

二宮: 他のスポーツから吸収することは多いと?
宮: ええ。他の競技を見れば、何かしらヒントが落ちています。だから、スポーツ観戦は好きですね。観てもわからなければ、そのチームにお願いして、実際に体験することもあります。

二宮: 具体的に他から取り入れた技があれば教えてください。
宮: 両足ジャンプして、一番高いところからシュートを打つことがあるのですが、これはバレーボールから取り入れました。きっかけはバレーの試合を観ていて、「なんで、この人たちは、こんなに高く跳べるのか」と思ったこと。背が決して高くない選手でも跳躍力がすごい。調べてみるとバレーの選手たちは基本的に両足で踏み込んで、腕を振って、背中を張って、体の反動を使いながら跳んでいる。「これはボールを持った状態でもできるな」と感じました。実際に練習してみると、ジャンプ力が格段に上がりましたね。垂直跳びの記録も90センチくらいになりました。

二宮: 173センチの身長は決して高いほうではないのに、高さを武器にできる秘密が、そこにあるんですね。
宮: CS放送で夜中にアメリカンフットボールを見ていた時も、「すごい」と思ったことがありましたよ。

二宮: アメフトからも?
宮: アメフトはハンドボールよりもコンタクトが多いのに、当たってもスルスル相手を抜いていきますよね。何で倒れないのか。そのヒントは足の運びにあったんです。

二宮: ハンドボールでは、普通、どうやって相手を抜くんですか?
宮: 1対1で向き合ったら、フェイントして最初にどちらかの肩を相手の裏に入れるようにします。肩さえ入れば、腕を回せるのでそのままシュートが打てますから。ところが肩を入れるためには、まずどちらの足を前に出さなきゃいけない。自然と足が縦にクロスした体勢になってしまうんです。

二宮: それだとバランスが悪くなり、ぶつかった時に倒れやすくなるわけですね。
宮: ところがアメフトでは、足は必ず縦に平行に出していました。絶対にクロスさせることがない。単に肩を相手の裏へ入れるのではなく、まず足を入れる。これだと、たとえ相手とぶつかっても踏ん張れますよね。観ただけではわからない部分もあったので、実際にアメフトの練習に参加して勉強させてもらいました。

二宮: 本当に?
宮: トレーナーさんとつながりがあった、あるチームに「1回、練習をやらせてもらいたい」ってお願いしました。グラウンドに行ってみると、今言ったような足の運びをしっかり練習していました。とても参考になりましたね。

 スパイダーマンになりきる

二宮: 「なぜ?」という疑問をそのままにしない。貪欲に学ぼうとする姿勢が素晴らしい。
宮: ボクシングからはフェイントのコツを教えてもらいました。たまたま、あるテレビ番組で世界チャンピオンの内藤大助さんとスパーリングする機会をいただいたんです。内藤さんは僕より小柄なのですが、フットワークが速い。構えていると、一瞬バーンと視界から消えるんです。

二宮: そして急にパンチが出てくると?
宮: そうなんです。フッと体勢を低くして、目の前からいなくなる。すると素人の僕は、相手に合わせて体を下げる前に、思わず腕だけ下げてしまうんですよ。その瞬間にガーンとパンチが飛んでくる。この動きは、「ハンドボールに使える」と直感しました。シュートを打つ際に、相手のディフェンスがガードしようと手を広げて立ちふさがりますよね。そこで一瞬、ガンって体勢を低くしたら、相手は絶対に腕を下げる。と同時ににスパーンとシュートを打てばいい。

二宮: 実際に試合で使ったことは?
宮: ありますよ。特に海外ではおもしろいように決まりましたね。最近、デンマークに行ったのですが、外国では日本人に対してスピードがあるイメージを持っています。だから、この動きをみせると「やばい!」と思って、条件反射的に腕を下げてしまうんです。そこでステップを踏んで、すかさずシュートを打てば、どんなに背の高いディフェンスでも抜くことができる。内藤選手とのスパーリングで得たものは大きかったですね。まぁ、その時はボコーンときついパンチをくらいましたが(笑)。

二宮: プロで成功するための条件のひとつは、クレーバーさだと思っています。宮選手にはその要素が充分にあると言えますね。
宮: 何するにもハンドボール中心なんですよ。以前、テレビ番組で話したことがあるんですけど、僕が初めて渋谷のスクランブル交差点に行った時に、「今日ってお祭り?」と思うくらい人が多かった。一歩間違うと相手とぶつかってしまいますよね。こちらも道を譲ろうとしたら、相手も同じ方向に動いてぶつかったりする。それをなくそうと思って、地元の大分の商店街を相手にぶつからないように走ったこともあります。

二宮: サッカーの釜本邦茂さんもそうでしたね。新宿の雑踏を走って、相手を抜くトレーニングをしたと言っていました。
宮: 映画を観に行っても、スパイダーマンのステップなんか「すごいな」と思ってしまいますね。あんな低い姿勢でビュンビュン動く。ハンドに応用できないかなと、スパイダーマンになった気分で、実際に試してみたら超キツかった(笑)。映画はアクション系が大好きです。映画を観た後の僕は気をつけたほうがいいかもしれませんね。ヒーローになった気分で動きますから(笑)。

 負けられないスポーツマンNo.1決定戦

二宮: 宮崎選手といえば、お正月のテレビ番組の「スポーツマンNo.1決定戦」で今年も優勝しました。テクニックはもちろん身体能力も高い。
宮: いやー、あれはまぐれですよ(笑)。

二宮: 優勝すると賞金は出るんですか?
宮: 500万円と車がもらえます。もう3回優勝していますし、今までトータルすると3000万円くらいはもらっているかもしれません。車は全部、身内にあげました。1台目が姉、2台目が父、3台目が義理の父。あの番組はハンドボールにとっては本当にいいアピールの場です。ハンドボールはさっきも言ったように総合力が求められるスポーツ。他の競技の選手はいくつかパスする種目もあるんですけど、僕は全部チャレンジするようにしています。最初に優勝した時も個々の種目ではひとつも1位になっていないんですよ。全部のトータルで1位。これは本当にうれしかった。

二宮: 番組用に特別な練習は?
宮: 少しはしますが、基本は日常の練習です。ハンドボールをしっかりやっていれば大丈夫。ハンドボール選手である以上、あの番組では負けられないですね。絶対勝たなきゃいけない。

二宮: バラエティー番組に出演したり、DVDや写真集を出したり、まさにハンドボールの宣伝マンです。
宮: 中には正直、「これはどうだろう?」と思うようなものもありましたけど、どんな内容であれ、積極的にメディアに出て行かないことには次につながらない。僕がいろいろやることで、下の世代が出て行きやすい環境をつくれればと思いながらやっています。ただ、初めてのことをやると、叩かれることも多い……。

二宮: 日本社会が悪いのは“出る杭を打つ”ところ。圧力に屈してしまうと何も変わらない。
宮: サッカーの川淵三郎キャプテンの講演会に行った時に、いい言葉を教えてもらいました。「天井効果」。たとえばバッタが虫かごに入れられると、その天井までしか飛ぶ必要がないので、最終的には天井の高さしか飛べなくなる。だけど、自然の中に出してあげれば最初は飛べなくても、どんどん高く飛ぼうとする。だから、いつも天井、つまり目標を高く持たなきゃならないと。

二宮: その高く掲げる目標とは?
宮: ゆくゆくはサッカーや野球みたいに、ハンドボールといえば、僕以外にもたくさんの選手の名前がスラスラ出るようになってほしいですね。おかげさまでスポーツマンNo.1決定戦で優勝してから、多くの方に会場に来ていただくようになりました。若い子たちに夢を与えることも大切だと思って、優勝した後、すぐに車を買い替えましたよ。だって、「あの宮が軽自動車乗っていた」なんて言われたくないでしょう? 遠征の移動中も服装には気を遣うようになりました。当然、うちの家計はいっぱいいっぱい(笑)。どんなきっかけであれ、実際にハンドボールを観に来てほしいと常に思っています。「宮もいいけど、この選手もかっこいい」と思ってくれたっていい。僕的には悲しいことですけど(苦笑)。

二宮: きっかけづくりが自身の役割だと自覚しているんですね。
宮: ええ。ハンドボールをメジャーにするためには、草の根運動のように徐々にファンを増やしていくしかない。それで「こんな選手もいる」ということが広まれば、メディアも「宮以外に、あと2人くらい呼ぼう」となる。それがまたファンを広げる。少しずつかもしれないけど、地道に活動していくことが土台になると信じています。

 海外でもう一度、戦いたい

二宮: 私もそうですが、ハンドボールをやったことのある人は決して少なくない。そういう人たちをもっと取り込む工夫が必要かもしれません。
宮: テレビに出てから、共演した芸能人の中にもそう言ってくれる人が多いんですよ。「実は私、ハンドボールやっていたんです」「えー、どこやっていたんですか?」「ポスト」とか。ただ、芸能人の方もテレビではその話題を出せない。まだまだ周囲には「ハンドボールって何だ?」って感覚があるので話がつながらないんです。

二宮: 確かに自分から積極的にハンドボール経験を語る人は、まだあまり見かけませんね。
宮: だからこそ、そういう人たちがどんどんハンドボールを語れる環境をつくっていきたいですね。あの“中東の笛”の時に、ある40代のサラリーマンの方から、こんな話を聞きました。その方は学生時代、ずっとハンドボールをしてきたにもかかわらず、社会人になってから、20数年、その話を一切する機会がなかった。ところが、騒動の影響で「ハンドボールってすごいよね」「どっちが勝つんだろうね」と盛り上がって、「オレ、そこで“ハンドボールしていたんだ”って言えたのがすごくうれしかった」と。

二宮: 宮さんには、まだまだ活躍してもらわなくてはいけませんが、今後はどんなプランを描いていますか?
宮: 現役はみんなに「もう引退なの?」って言われるくらいでやめたいです。「宮崎、早くやめろよ」って言われるところまではやりたくない。やはり、プロである以上、見てくれている人たちに「すごいな」とか「いいね」と思わせることが仕事だと思いますから。

二宮: もちろん、2012年ロンドン五輪は目指しますよね。
宮: 代表に選ばれるかどうかは別として、次のオリンピックまでは第一線でできる自信はあります。
 日本のレベルは確実に上がってきています。ひとりひとりの能力を見ると、海外で通用する人もいるし、僕よりうまい選手もたくさんいる。それを協会側は全体の底上げにつなげていかなくてはいけないし、選手側は海外へもっとチャレンジすることも必要だと思います。最終的には五輪や世界選手権に出て、結果を残さない限り、ハンドボール熱は高まらないわけですから。

二宮: 宮選手自身も海外でもう一度、勝負したいと?
宮: 現役中には絶対、一度は海外のコートに立ちたいですね。ハンドボールのうまれた本場で大勢の観客の中でプレーしたい。もちろん、日本で今、プレーを続けるのも大切なので、タイミングが合えばというところです。

 お酒は大切なコミュニケーションツール

二宮: 自分のレベルが上がっている実感はありますか?
宮: 年々、上がっていますね。去年できなかったから、今年はこれをやってみよう、とかいろいろ考えています。だけど毎年、体の状態は違うんで、まず自分を探ることが大切です。先週は体調が良かったのに、今週は調子が悪いって時があれば、それは何なのかを調べないといけない。自分を知らないと相手には勝てません。
 そのために大事なのは「素直さ」でしょう。人から言われたことに対して「すぐ無理」と言っていては何も始まりません。やってみて無理かどうか判断すればいいこと。新しいことにチャレンジすれば、新しい自分を知ることだってあるわけですから。

二宮: 調子を測る一番のバロメーターは?
宮: ランニングです。走れば体全体を使うことになります。足を踏む、腕を振る、腹筋を動かす、顔の筋肉だって使う。呼吸も整えなきゃいけない。そこで足が痛いとかがわかれば、何をしなくてはいけないかを考えることになります。自分の体調がわかる一番の方法じゃないですか。「走る」ことは僕にとって何より大切な作業です。

二宮: 1日、どのくらい走るんですか?
宮: 特に距離や走る時間は決まっていません。ただ、自分で足りないと感じたら、練習後でもジムや家の周りを走ります。

二宮: 飲みすぎたら走る、とかそういうことじゃないんですか(笑)。
宮: 多少はありますよ(笑)。

二宮: もう飲み始めて3時間以上(笑)。
宮: 結構、お酒は飲むんですよ。家に帰っても嫁と一緒に晩酌しながら、その日の出来事を話します。ハンドボールのことはケンカの元になるので話題にしないですね。選手同士の飲み会もよくやります。飲んで変わる人とか性格もわかりますし、ぶっちゃけた話で本音を知ることもできる。飲みニケーションという言葉もありますが、お酒は自分にとって大切なコミュニケーションツール。よく動いて、よく食べて、よく飲む(笑)。これが一番、健康的だと思います。

二宮: 宮選手にお会いして、とても人間的に素敵な方だと感じました。これから、もっとビッグな存在になりそうな気がします。
宮: その点は、否定しませんねぇ(笑)。僕が目標としているのはサッカーのカズさん。だって、コンビニ行くにもスーツですよ。僕の中にもカズさんの魂があるのかわからないですけど、やっぱりハンドボールをメジャーにしたい。ハンドボールがなかったら、僕は今頃、大分で暴走族をしていたかもしれません。ハンドボールのおかげで僕はここまで成長できた。だから僕には、そのハンドボールの地位をもっと築いていきたいし、築いたものを後輩に伝える使命があります。ハンドボールのためなら、最終的に自分はボロボロになってもいい。それくらいの覚悟なんです。

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宮大輔(みやざき・だいすけ)プロフィール>
1981年6月6日、大分県出身。小学校3年生からハンドボールをはじめ、大分国際情報高を経て、日本体育大学へ。在学中にスペインへ渡り、本場のハンドボールに触れる。大学では2年時のインカレで優勝し、MVPを獲得。03年に大学を中退して大崎電気に入社した。同年のアテネ五輪予選や05年の世界選手権、07年の北京五輪予選などで日本代表のエースとして出場。08年11月には日本リーグ通算500得点を達成。09年元旦にTBS系で放送された「スポーツマンNo.1決定戦」で史上初の2連覇を達成するなど、ハンドボール普及のため、メディア出演や講演等でも活躍している。173センチ、74キロ。
>>オフィシャルブログ ハンドボールメジャー化宣言! 革命的プレーヤー「宮大輔」!

★本日の対談で飲んだお酒★[/color]
 
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(構成:石田洋之)
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