二宮: 今回は二人三脚で2012年ロンドン五輪を目指している尾崎好美選手と山下佐知子監督に来ていただきました。まずは8月のベルリン世界陸上では銀メダル獲得、おめでとうございます。
尾崎: ありがとうございます。レースがちょうど日曜日だったので、結構見てくれていた人が多かったようで、今では普通に街を歩いていたり、電車に乗っていたりすると、声をかけられたりするようになりました。
二宮: 世界の舞台の表彰台に上ってからは、人生がかわりましたか?
尾崎: これまでも山下(佐知子)監督をはじめ、世界陸上でメダルをとった日本人選手はいるので、自分としては特にすごいことをしたとは思っていないんです。でも、周りがみんな「すごいね」って言ってくれるので、それはやはり嬉しいですね。
二宮: バルセロナ五輪で有森裕子が日本女子マラソン界では初めてオリンピックの舞台でメダルを獲得しました。アトランタでも有森が銅メダル。そしてシドニー五輪では“Qちゃん”こと高橋尚子が金メダルに輝き、さらにアテネ五輪でも野口みずきが優勝。立て続けに好成績を残し、“女子マラソン王国”とまで言われた日本でしたが、昨年の北京五輪では一人の入賞者も出すことができなかった。そんな中で尾崎さんが銀メダルを獲ったわけですから、感動した人も多かったことと思います。
尾崎: 今回はベルリンでの過ごし方が本当によかったなって思いますね。ベルリンに入るまでにしっかりと身体を仕上げていっていたので、現地では全くストレスを感じることなく、本当にリラックスして過ごすことができました。
二宮: それは非常に大事なことですよね。身体も心もストレスを感じずにスタートラインに立てたことが、本番で力を出し切れたという要因なのかもしれませんね。
ところで、お二人はビールが大好きだとか。ビールの本場ベルリンでは飲まれましたか?
山下: はい、美味しくいただきましたよ。もうドイツって聞いたら、まず最初に「あ、ビールが美味しい国だな」って思うじゃないですか。私も尾崎も大好きなので、美味しいビールが飲めるくらい体調を万全にして行きたいね、と言っていたんです。とはいっても、メチャクチャ飲んだわけじゃないですよ。
実は本番前に私一人で現地を下見に行ったんです。そしたら、やっぱりビールが美味しかった。
二宮: コースだけじゃなく、しっかりとビール調査もしてきたわけですね(笑)。
山下: 選手が一緒ですと、練習させなければいけませんから私も自由には動けないんです。でも、今回は尾崎がケガで行けなかったので、そこら中……。
二宮: そこら中のビールを堪能したと(笑)。
山下: いえいえ(笑)。ビールだけではなく、気分転換できる場所はどこかな、ということでデパートをまわったりとかして、いろいろと見て歩くことができたんです。
二宮: それは大事なことですよね。
山下: 現地でそんな練習って言っても、時間があまりますからね。
二宮: 特にレース後のビールは格別だったんじゃないですか?
尾崎: 最終日だったので、次の日すぐに帰国しなければいけなかったんです。インタビューとかもあって飲む時間はなかったですね。
山下: 逆にメダルを獲らなければ飲めたかもしれないですけど……(笑)。
自然の中で育まれた脚力二宮: 尾崎さんは、マラソンを走ろうと思ったきっかけは何だったんですか?
尾崎: 学校のマラソン大会で上位で走っていることが多かったんです。やっぱり先頭を走るのって楽しいなと思って。とにかく走ることが好きでしたね。
二宮: 短距離の方はどうだったんですか?
尾崎: 結構リレーのメンバーにも選ばれたりして出ていたんですけど、どちらかというと長距離の方が得意でしたね。
二宮: 尾崎さんの出身地は神奈川県とはいっても、山の中なんですよね。
尾崎: はい、そうです(笑)。
山下: 普通、神奈川って言うと、私のような地方出身者から見たら都会って感じがしますよね。でも、全然違う(笑)。私も行って、ビックリしました。
尾崎: 横浜とは別物です(笑)。そこらへんに狸とかサルとか普通にいましたし、中学の時なんか、学校のグラウンドに鹿が走っていました(笑)。それはさすがにビックリしましたけど。
二宮: 山下さんご出身の鳥取には鹿は走ってないですよね(笑)。
山下: いやいや、走ってないですよ。それはすごい! 米国のボルダーならしょっちゅうそういうことはあるけどね。
二宮: ちょっとすごいところですね。
尾崎: はい、ちょっとすごいところです(笑)。
二宮: そういう場所で育ったんですから、子どもの頃から自然と足腰が鍛えられていたんでしょうね。ケガも少ないんじゃないですか?
尾崎: いえ、以前は疲労骨折とか毎年1回はやっちゃってました。
二宮: 疲労骨折するというのは、練習に体がついていっていなかったということですか?
山下: 早い話、そうですよね。回復しなかったということですから。
二宮: 世界陸上から帰国後、ケガをされていたそうですが、最近はどうですか?
尾崎: ベルリンから戻ってきてから、右足の上の部分の痛みがなかなか抜けなかったんです。でも、ようやく痛みがとれて、気持ちよく走れるようになってきました。
二宮: 無理して悪化させるのもよくないですけど、あまりブランクを開けるのもよくないですよね。その辺のさじ加減が難しいですよね。
尾崎: はい。今回も医者には「走っても問題ない」と言われていたんです。でも、痛くて……。痛いまま走っていると、その部分をカバーしようとしてフォームが崩れてしまう。そうすると、また他の部分が痛くなったりしてしまうので。
二宮: 監督としても判断が難しいところですね。
山下: 本当にそうなんですよ。痛みの感度って人それぞれ違いますからね。医者がOKって言っても、本人が痛がっていれば、無理をさせるわけにはいきませんから。だから今度12月13日にある全日本実業団女子駅伝の予選、東日本実業団女子駅伝(11月3日)では尾崎を使うのは諦めざるを得なかったんです。
駅伝をオリンピック競技に!二宮: とはいえ、会社としては尾崎さんが出場できないのは痛かったでしょうね。駅伝は最も力を入れているでしょうから。私はね、柔道、競輪に続く第三の日本発祥のオリンピック種目にしたらいいと思うんですよ。短距離のリレーがあるくらいですから。
山下: 実は私もそう思っているんです。
二宮: 監督や選手の中にはマラソンに力を入れたいって思っている人も少なくないと思うんです。ところが、駅伝は大きなスポンサーがドーンとつくくらい国内では人気がありますから、企業としても大事にしたいんですよね。だったら、オリンピック競技にするくらいの気概を持ってもいいのではないでしょうか。
山下: リレーに100メートル、200メートル、400メートルの選手が出るのと同様に、5000メートルや1万メートルの代表選手が駅伝を走ればいいわけですよね。
尾崎: なるほど。それはいいかもしれないですね。
二宮: オリンピックにはありませんが、世界陸上では団体戦があります。あれは駅伝のオリンピック競技になる素地だと思うんですね。柔道が「JUDO」になって「あんなの柔道じゃない」って否定する人もいますけど、「JUDO」になったおかげで世界に広まったんですよ。だったら駅伝も「EKIDEN」にすればいいんです。尾崎さんはマラソンで世界を目指しているわけですが、駅伝はどうですか?
尾崎: やっぱりチームの仲間と走れるのは楽しいですね。
山下: 監督は駅伝よりもマラソンっていう人が多いと思いますけど、意外に選手はそうでもなかったりするんですよ。「駅伝なら頑張ります」って言う子が結構いるんです。
二宮: チームの一体感を感じられるんでしょうね。それはいいことですよね。それがなかったらみんなバラバラになってしまう。そうなるとチームとしてやっている意味がなくなってきますからね。
山下: 確かにそれはありますね。駅伝がなかったらどんなチームになるのかなと。
尾崎: 駅伝は一人の力だけでは優勝できない。だからチームの団結力みたいなものを感じることができるんです。
二宮: 駅伝は一つの装置なんでしょうね。お金も選手も集められる装置。この不景気の時代にお金を出してくれるなんて、なかなかないわけですから、やっぱりそこは大事にしていかないといけませんよね。
山下: でも、どこかクレイジーだなと思うことがあるんです。こんなドメスティックな競技なのに、なんで日本は「駅伝、駅伝」って言うんだろうって。
二宮: 高校野球も同じですよ。甲子園に出たからって、メジャーリーグにつながっているわけではありません。それでもあれだけのマーケットが出来上がっているわけです。駅伝もマーケットはあるわけですから、使い方次第だと思いますよ。
山下: 私も全くの同感です。
井村、宇津木両監督に見る女性勝負師二宮: 今の日本の陸上界で女性監督は非常に珍しいと思いますが、何人くらいいるんでしょうか。
山下: はっきりとはわかりませんが、東日本実業団の駅伝に出てくるようなチームでは私とスターツの山口千代子監督くらいです。
尾崎: 監督が女性でよかったなと思うことはたくさんあります。特にケガをした時などは男性の監督よりも相談がしやすいので。
二宮: でも、陸上界も男社会ですから大変なこともいろいろとあるんじゃないですか?
山下: そうですね。ただ、そういうものだと思っていますから、特に大変だとは思っていないですね。「あれ、男性の中に女性は一人?」なんて思うこともないですし。
二宮: 陸上界のみならず、日本のスポーツ界は女性の指導者が少ないですよね。代表的な女性指導者といえば、シンクロナイズドスイミングの井村雅代さんと女子ソフトボールの宇津木妙子さん。
山下: 私にとっても井村さんと宇津木さんの存在はとても大きいですね。
二宮: あの二人は勝負していますよね。
山下: そうなんですよ。だから多分、批判もされると思うんです。
二宮: でも、それを怖がっていない。例えば私がインタビューした時に「これはさすがに記事には書かないほうがいいかな」なんて変に気を遣うと、後から「二宮さん、なんであんなに言ったのに手加減するのよ」なんて言われるんですからね。
山下: 井村さんなんかは、自分のクラブチームと代表と混同してないか、っていう批判も受けてますけど、彼女にとっては私利私欲のためになんかやっていないんです。ただ、結果を出すためだけにやっている。
二宮: 要するに勝ちたいんですよね。
山下: そうなんです。勝つことに対して純粋で、誰よりも情熱があるから、周りが理解できないんだと思うんです。
二宮: そういう点では北京五輪で女子ソフトボールを金メダルに導いた斎藤春香監督もすごい人だなと思いますよ。宇津木さんは選手のことを思って指導する教育者タイプ。一方の斎藤さんは勝つための努力を惜しまない勝負師タイプですね。北京では何が何でも金メダルを獲りたかったんでしょうね。どんなリスクが潜んでいるのか、事前に球場中を全部調べ上げたらしいんですよ。それでわかったのが外野がフライを取る際にライトが眩しいということ。それで日本のメーカーに頼んで特注のサングラスをつくらせたんです。
斎藤さんはソフトボールはマイナースポーツだから、負けて帰れば自分たちは終わりだと考えていたんです。だからどうしても金メダルを獲らなければいけなかった。
山下: なるほど。その土台をつくりあげたのが宇津木さんだったんでしょうね。
二宮: はい、その通りです。斎藤さんが天守閣を建てたわけですが、宇津木さんそれを支える城壁をつくったんです。城壁をつくるのは、本当に大変なことだったと思いますよ。要するに日本が金メダルをとるためには、城壁をつくった宇津木さんも天守閣をつくった斎藤さんも、どちらも必要だったということです。でも、どちらもできてしまうのが小出義雄監督。あの人は両方をこなしちゃう。
山下: 確かに両方できる人ですね。
指導者は多重人格であれ!二宮: 僕は指導者の条件って、二重人格だと思いますよ。言ってることと、やってることが違うってことが大事ですよ。
山下: 小出さん、全然違います(笑)。小出監督と話をしていても、理解できないことがよくあるんです。今はこう言っているけど、本音どうなんだろうって。正直に言っているのか、裏をかいて言っているのか……。特に勝負してくるときになると、本当はどう思っているんだろうって考えちゃいますね。
二宮: 多分、全部が本音なんでしょうね。指導者って多重人格であることが重要なんだと思いますよ。さっき言ったことが、次の瞬間には変わるんです。それを嘘だなんて言っちゃ、監督は務まりませんよ。
山下: 私もスタッフから言ってることが違うってよく言われるんです。
尾崎: えっ!? 本当ですか? 選手の私たちからはそんな風に感じたことはなかったですけど。
二宮: 川淵三郎(日本サッカー協会名誉会長)さんなんか、朝と晩で違いますからね。それで「朝令暮改の川渕」って言われていたんです。「いつも朝言ったことと、夜言うことと違うじゃないですか」って言われて、川渕さんはこう答えたんです。「時代は常に動いているんだから、朝と夜とでは違って当然じゃないか。朝と夜とで違うことが同じやつは時代についていけない」と。これを聞いて、「なんてすごいすごい人なんだ」って思いましたよ。
山下: 多分、正直なんですよ。小出監督にしろ川淵さんにしろ、その時の正直な気持ちを言っているだけ。それでいて、勝ちたいというところは全くブレていないんです。
二宮: 結局重要なのは勝つための方法論ですから、極端な話、昨日言っていることと今日言っていることが全く変わっていないという指導者はダメだと思いますよ。それともう一つは何でも面白がれること。小出さんなんかは話をしていて面白いですからね。
山下: 私もそう思います。楽しくないと結果なんか出ないし、そもそも人が集まらない。最近脳の勉強しているんですけど、脳は絶対に嘘はつけませんからね。
二宮: 山下さんも十分に面白いですよ(笑)。
山下: そうですか(笑)? 結果は出したいんですけど、その過程がストレスばっかりになって、本番で疲れてしまっているとイヤなんですよ。
尾崎: 今回のベルリンもレース前にゆとりがあったからよかったんだと思います。ヘトヘトではメダルはなかったかもしれません。
(後編につづく)

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尾崎好美(おざき・よしみ)プロフィール>
1981年7月1日、神奈川県出身。中学時代はバスケットボールに所属していた。4つ上の姉・朱美(セカンドウィンドAC)の影響を受け、相洋高校で陸上を始めた。3年間の最高成績は3年時の県総体800メートル8位。2000年に第一生命に入社。08年3月の名古屋国際女子マラソンでは初マラソンながら2位に入り、同年11月の東京国際女子マラソンで初優勝に輝いた。今年8月のベルリン世界選手権で銀メダルを獲得し、低迷傾向にある日本女子マラソン界の期待の星として注目されている。

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山下佐知子(やました・さちこ)プロフィール>
1964年8月20日、鳥取県出身。鳥取大学卒業後、いったんは中学校教員に就くが、陸上への思いを断ち切れず、87年に京セラに入社。1991年の東京世界選手権で銀メダルを獲得。翌年のバルセロナ五輪では4位入賞を果たした。94年、第一生命に移籍し、選手兼コーチとなる。96年から監督に就任し、2002年には全日本実業団女子駅伝で女性監督としては初めてチームを優勝に導いた。
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(構成:斎藤寿子)
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