二宮: いよいよW杯もあと1カ月に近付きました。名波さんは日本が初めて出場したフランス大会を経験されています。大会の直前というのはどのような心境でしたか?
名波: 僕らの頃は、初めて出場権を得たジョホールバルのゲームが第一関門とすると、W杯出場メンバー(当時22人)に入るという第二関門がありました。あの時は大会直前まで誰が本大会に行けるか、わかりませんでしたから。海外でやっている選手もいなかったので、Jリーグで結果を出すかということが本大会のメンバー選出につながるとだけ考えていました。
二宮: メンバーに選ばれた後で考えたことは?
名波: 岡田さんが4バックから3バックにするという方針を打ち出していましたよね。そういったシステム変更の中で、自分が生き残るためにはどういう風にプレーしなきゃいけないか、どういう風にアピールするかっていう、そういうものばかり考えていましたね。
二宮: フランス大会の初戦の相手はアルゼンチンでした。
名波: アルゼンチン戦のキックオフ前に、ヒデ(中田英寿)と「この11人の中で、誰が普段通りプレーできるかな」と言っていたんです。そんな話をしているくらいだから、自分は普段通りにやるしかないですよね。たしかにアルゼンチンには到底及ばないですが、個人的には普段通りのプレーができたという感覚はあります。
二宮: 得点はバティストゥータの1点だけですからね。
名波: そうですね。結果的に8:2くらいで圧倒されましたけど、日本としてはゲームプラン通りだったんですよ。0対0、0対1というのは最初から考えていた結果でした。岡田さんが掲げた1勝1敗1分けという目標の中で、1敗というのは間違いなくアルゼンチンだったと思うので。
二宮: それは選手たちも考えていたことだったんですね。初戦に負けても2戦目で引き分けて、最後にジャマイカに勝てばいいと。
名波: はい。だからこそ、2戦目でクロアチアに負けた時は本当にショックでした。「こんなショックを受けるのか」というくらい……。
二宮: クロアチア戦は、あの暑さの中で押し気味に試合を進めていましたが……。
名波: 昨年、岡田さんと仕事で一緒になる機会があったんですが、岡田さんは最近になってクロアチア戦をビデオで見直したらしいんです。10何年ぶりに試合を見たと。凄く高い評価をしていましたね。「あれは本当にいい試合だった」って。
二宮: やっている選手たちも手応えがあったと。
名波: ありましたね。
二宮: 後から振り返ると、クロアチアはフランス大会で3位に入ったわけです。その相手に善戦したのだから、中身は評価されてもいい。ただ、ここぞという時にシュートが決まらなかった。僕も現地で観ていましたが、あの暑さは異常でした。バテませんでしたか?
名波: 僕はバテてしまいました。それで途中交代したんです(後半39分に呂比須ワグナーと交代)。しかし、後からデータで貰ったら12.5キロくらい走っているんです。普段ならば90分間で12キロというのが平均的なので、走った距離としてはそれまでの選手生活の中でも自己ベストだったんじゃないかなっていうくらい。ヒデも12.8キロくらい走ってましたからね。
二宮: 惜しいシュートを放ったのはゴン(中山雅史)でしたね。
名波: そうですね。ゴンちゃんにとっても生涯最高のファーストタッチだったんで。
二宮: クロアチアに敗れて決勝トーナメント進出の可能性はなくなった。3戦目のジャマイカ戦は意気消沈した部分がありましたか?
名波: そんなことないですよ。僕は3戦とも楽しんだんですが、悔いが残るとすればジャマイカ戦での2本のシュートですね。普段なら2本とも冷静に枠をとらえられたはずのシュートなんです。でもやっぱりアドレナリンが出ていたんでしょうね。1本は大きくふかしてしまって、もう1本はギリギリのコースだったので惜しかったんですが。2本のうち1本は決めたかったですよね。入れてれば日本人W杯初ゴールだったので……。
二宮: たしかに第1号のチャンスはありました。
名波: でも、W杯初ゴールは名波というより、ゴン中山という方が絵的にはいいですよね。まぁ、それも今にして思えば、ですけど(笑)。
二宮: 残念ながらフランス大会は3戦全敗に終わったんですが、世界を相手に戦って手応えというか、自信みたいなものはつきましたか?
名波: 自信うんぬんというよりも、次も出てみたいなという気持ちが強くなりました。98年は井原(正己)さんや中山さん、秋田(豊)さんがリードしてくれて、僕らみたいな若いやんちゃな人間を包容力を持って迎えてくれたのが非常に印象的だったんです。僕は結果的に2002年には選ばれませんでしたが、日韓大会では自分が中心になってそういうチーム作りをしたいなと思いましたね。
加茂監督“更迭”の裏で二宮: 大会が終わった後に、メンバーでお酒を飲む機会などはありましたか?
名波: フランスではそういうことはありませんでしたが、W杯アジア最終予選の最中、加茂(周)さんが更迭されて、岡田さんが監督になった日がありますよね。あの夜は全員がショックを受けてとても暗い雰囲気になってしまった。そこで選手みんなで話し合いを持とうということになり、年長者の井原さんと小島(伸幸)さんがクーラーボックスいっぱいにビールを買ってきたんです。もしかしたら、あれは協会が用意したのかな。まあ、とりあえずクーラーボックスいっぱいにビールが入っていて……。
二宮: みんなで相当飲んだそうですね。飲んだのはカザフスタンのビールですか?
名波: 向こうのビールで、瓶がたくさん冷やしてありました。最初はもちろんサッカーの話で「これから、俺たちどうする?」というところから始まって、「岡田さんはどういうサッカーするのかな」という話を真剣にしていました。話し合いを進めていくうちにお酒の力もあって、みんなの表情がだんだんと明るくなっていって。いい意味での開き直りですよね。最後は年齢も関係なく非常に盛り上がったのを覚えています。あの会が代表チームを結束させたことは間違いないですね。
二宮: 加茂さんはどうでしたか。そこへ来られたんですか?
名波: いや、僕は加茂さんに会えなかったんです。モト(山口素弘)さんとか何人かは更迭になった後に会って話をしたらしいんですけど。もちろん、後日みんなの前で「これから岡田がやるから、みんながんばれよ」という話はあったんですけど、個人的には会えなかったんです。モトさんは偶然エレベーターで加茂さんと一緒になったらしいんです。そこで加茂さんがモトさんに謝罪をしたと。「申し訳ない」と頭を下げたと聞いたんです。その様子をモトさんが「本当に泣きそうになったよ」と言いながら話していて……。僕らもそれを聞いたものだから、泣きそうになってしまって。僕が初めて代表に入った時も、加茂さんに呼んでもらっていましたから。多くの選手が、加茂さんに申し訳ないと感じていたと思います。
ヒデの思い出二宮: 名波さんにお話を伺うからには、やはり中盤のお話を聞きたい。南アフリカ大会の中盤はどんな組み合わせになるのでしょうか?
名波: まず、ボランチは2枚ですね。そこは遠藤(保仁)、長谷部(誠)は崩れないと思います。
二宮: 前に入るのは、(中村)俊輔や(中村)憲剛、もしくは本田(圭佑)、サイドなら松井(大輔)、大久保(嘉人)の可能性もあります。
名波: ただ、岡田ジャパンの中盤を見ていて気になるのは、守備の時に中盤でコーチング出来る人間が少ないことです。
二宮: 名波さんの時は誰が中盤のリーダー?
名波: モトさんがボランチから声を出してくれました。長谷部はあまりバンバン言うタイプではないですから。彼は自分から動くタイプ。そして遠藤は黙ってそれをフォローするタイプですよね。
二宮: たしかに、連係はとっているけど、それぞれが自由にやっているという感じですね。
名波: モトさんはバンバン言いましたね。これは本人も言っていますが、モトさんは「自分が走れない時に、とりあえず人を動かして美味しいところは自分が摘み取る」というタイプなんです(笑)。そういうタイプで自分はやっているんだって言っていました。そういうことを周りでわかっていたんで、僕らは駒のように動きますよっていうスタンスでしたね(笑)。
二宮: よく議論される俊輔と本田の使い方についてはいかがでしょう?
名波: 3月のアジアカップ予選バーレーン戦では2人が同時に出ましたよね。あれが一番スムーズな方法でしょう。あれからより密にコミュニケーションをとってやれているならば、本田がフォワードのようなトップ下、俊輔が普段通り右サイドという形でいいと思いますよ。俊輔が本田をリスペクトする感じも出てきているので、俊輔は「俺が、俺が」とはならないような気がします。逆に、本田については「俺が、俺が」でやらせてあげる。そちらの方が、彼の持ち味が出ると思います。
二宮: そうなると名波さんの構想では、俊輔と本田を一緒に使って、本田を変則的なツートップの一角かトップ下に、ということですね。
名波: そうなりますね。
二宮: 中盤でのコンビネーションということでいえば、名波さんはヒデと非常にうまくやっていました。やはり相性みたいなのもあるんでしょうか?
名波: 彼は左サイドに流れるクセがありました。僕はその空気を読んで、ちょっとずつ右にポジションを取るようにして、さらに、その空気を読んだモトさんが2人の尻拭いをするという形でした。3人で絶妙なバランスをとっていました。
二宮: 俊輔はもう本田のクセをわかっているのでしょうか?
名波: うーん、お互い一緒にやっている時間がまだ短いのもありますし、これからという所もあるとは思います。ただ、本田がこれだけ短期間で伸びたことに対して、それは岡崎(慎司)にも言えますが、あの2人に対して俊輔は相当評価していますよ。先ほどもいいましたけど、リスペクトしている雰囲気がヒシヒシと伝わってきますから。
二宮: 代表に新参者が来たら、最初はなかなか溶け合わないものなんでしょうね。
名波: そうですね。ヒデが来たときも、プレースタイル自体はリーグ戦で対戦していくので、少しはわかっていましたが、サッカー観ということにまでなると、さすがに時間がかかりました。ただ、ヒデについては最初の練習から「コイツは絶対レギュラーだな」と思いましたよ。それはモトさんも言っていましたね。
二宮: 以前このコーナーに出ていただいた相馬(直樹)さんもおっしゃっていました。
名波: やはり、彼の中の基準が日本代表レベルじゃなくてヨーロッパレベルにありましたから。最初からその精度があったかは別として、判断のスピードだったり、ボールスピードだったり、一つ一つの要素が日本代表レベルから抜けていましたから。ヒデは「俺はここまで行きたい」というプレーではなくて、「ここより上に行きたいんだ」と主張するタイプ。ですからプレーの質も、一日ごととは言わないですけど、その時々でどんどん成長していくのがわかるんです。もちろん、代表の中には「俺はこのチームで試合に出たい」とか、「ただ単にW杯メンバーに入りたい」という選手もいるんです。でも、ヒデは最初から違っていた。「22人に残りたい」とかではなく、それよりも先を見ていて「予選グループ突破」を目標にしていましたよね。
本田は有限実行!?二宮: 本田と飲んだことがあるそうですね。感想は?
名波: 本当に、見た通りの、ああいう若者です(笑)。
二宮: 若い時のヒデみたいな感じですか?
名波: いや、ヒデよりも有言タイプですね。ヒデの方が無口で、不言実行タイプかな。
二宮: 本田は遠慮なくガンガン言ってくるのかな?
名波: はい、言ってきますね。僕が少し離れて飲んでいたら、彼から「名波さん」って声をかけてきたんです。その後、僕が本田の近くに呼ばれて「色々、サッカーの話をしましょう」と、彼から話を切り出すという感じでしたね。
二宮: 結構、親分肌のようですね。
名波: ヒデも食事をしたりお酒を飲んだりすれば明るいんですけど、ピッチ上だったりサッカーに関するオフの部分では、そんなに表立って「中田だ」という感じではないんです。逆に本田は常に「オレは本田だよ」っていう感じで振る舞っていますよね。
二宮: ファッションなんか見ていると、若き日のカズみたいなところもありますね(笑)。
名波: 時計を2つしていたりね。腕時計を2つしていても、決してオランダやロシアの時間ではなくて、両方ともなぜか日本時間なんですよ(笑)。それがちょっと面白いんですけど。
二宮: アハハ。
名波: でも、本人は「これがファッションなんだ」って。俊輔たちは、そこを凄くいじってるらしいですよ。いい関係ができつつあるんじゃないでしょうか。
(後編に続く)
<名波浩(ななみ・ひろし)プロフィール>1972年11月28日、静岡県出身。清水商業時代には高校総体、ユース選手権などを制覇し、第2期黄金時代を築く。順天堂大学を経て95年にジュビロ磐田に入団。ルーキーイヤーから活躍し日本代表にも招集される。左足から繰り出される正確無比なパスやシュートで多くのサポーターを魅了した。長年日本代表の10番を背負い、98年フランスW杯では全3試合に先発出場している。99年にはイタリア・セリエA、ACヴェネツィアに移籍し海外トップリーグを経験。00年にジュビロに復帰し、その後はセレッソ大阪、東京ヴェルディなどでも活躍の場を求めた。08年に古巣の磐田に復帰して現役引退。現在はジュビロ磐田アドバイザーに就任している。Jリーグ通算331試合出場34得点、日本代表67試合出場9得点。1996、97、98、02年Jリーグベストイレブン。
★本日の対談で飲んだお酒★[/color]

世界的な酒類・食品などのコンテスト「モンドセレクション」のビール部門で、3年連続最高金賞(GRAND GOLD MEDAL)を受賞したザ・プレミアム・モルツ。原料と製法に徹底的にこだわり、深いコクとうまみ、華やかな香りを実現しました。
提供/サントリー<対談協力>
六本木 季菜東京都港区六本木3−1−1 六本木ティーキューブビル1階
TEL:03−6229−1789
営業時間:
Lunch 11:30〜15:00
Dinner 17:30〜23:00(いずれも30分前ラストオーダー)
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(構成:大山暁生)
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