
今年1月のアジアカップ。李忠成(広島)の描いた弾道が鮮やかにゴールマウスに吸い込まれ、日本は2大会ぶりの頂点にたどりついた。その歓喜の中に権田もいた。代表に選ばれて最初の国際大会。そこで最高の体験ができた。
ただ、権田個人に関して言えば、彼がアジアカップのピッチに立つことは叶わなかった。日本の正GKはこの大会でも存在感を示した川島永嗣(リールセ)。その川島がまさかの退場で試合に出られなくなった際には、24歳の西川周作(広島)がゴールを守った。権田はあくまでも第3GKという位置付けだった。
「でも、僕はベンチに入った時は第3GKとは思いませんでした。ベンチに入っている以上、試合に出る可能性はありますから」
権田は「第3GK」という表現に反応すると、こう続けた。
「客観的に第3GKなのは分かっていました。でもGKってワンチャンスをモノにしなきゃいけないポジション。ゲーム中は常に状況や相手選手の特徴をみながら、“何かあったら出る”という気持ちでした」
日本代表のグイードGKコーチからも「とにかく気持ちを切らすな」「いつ出番が来てもいいように準備してくれ」と口すっぱく言われていた。それは控えのフィールドプレーヤーも一緒だった。
「サブのみんなもモチベーションが高かったです。(優勝を決めるゴールをあげた)忠成君なんて、それまでほとんど試合に出られなかった。でも、気持ちは切れていなかったんです。あの時、ピッチに出て行く寸前の顔は本当に鬼気迫るものがありました。もう点を獲ることしか考えていないような顔をしていましたから」
スタメンもサブも関係なく、同じ方向を向き、同じ気持ちで戦う。代表の場で、その大切さを改めて知った。
ロンドン五輪出場を目指すU-22代表で権田は最年長となる。この年代は3年前、AFCU-19選手権で宿敵・韓国に敗れ、U-20W杯への出場を逃した過去を持つ。日本がU-20W杯に出られなかったのは8大会ぶりの屈辱だった。主将だった権田も悔し涙を流した。
「あの時に足りなかったこと、あの時に犯したミスをもう一度繰り返さないという思いは当然あります」
雪辱を期しているのは、権田だけではない。この時のU-19代表メンバーだったMF山本康祐(磐田)は自身のスパイクに敗れた韓国戦の日付「2008.11.8」を刺繍している。
「そういう気持ちを康祐が持ってくれていることはうれしいです。悔しさを忘れるんじゃなく乗り越える。やっぱり僕は悔しさを味わった人間は強くなると思っています。だから、あの時も“これでサッカーが終わるわけじゃない”と声をかけたんです」
ロンドン五輪のアジア2次予選は6月、日本は最終予選進出をかけ、クウェートとホーム&アウェーで対戦する。一回り強くなった姿を見せる機会はもう間もなくやってくる。

憧れのGKはドイツ代表のマヌエル・ノイアー(シャルケ04)。先の欧州チャンピオンズリーグ準決勝、マンチェスター・ユナイテッド戦で見せたファインセーブの数々は記憶に新しい。
「ノイアー選手は裏に出たボールに対し、飛び出してヘディングでペナルティエリアの外に出したりします。キーパーって基本的には受け身なんですけど、自分からアクションして守っている。こういうキーパーは好きですね」
GKといえば静のイメージがあるが、権田が目指すのは動のGK。「攻撃は最大の防御」を地で行くスタイルだ。
「普通はゴール前にドンと構えて来たシュートをしっかり止めるのが、一番安定して見えるはずです。でも、それは僕の性格に合わない。アグレッシブに行きながらも、“権田なら安心して見られる”と思われるキーパーが理想です」
攻めながらも守り、積極的に動きつつも安定感がある。一見、矛盾する2つのコンセプトを両立するには、体力や技術といった目に見える部分はもちろん、状況判断や読みといった“無形の力”も高いレベルに押し上げる必要がある。
「40歳まで現役を続けたい」と語る22歳。幼稚園からスタートしたGK人生は、まだ5合目に来たところだ。“究極のGK”という大きな山をいつか登った時、頂上から権田はどんな景色を見るのだろうか。
(おわり)
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権田修一(ごんだ・しゅういち)プロフィール>
1989年3月3日、東京都生まれ。さぎぬまサッカークラブを経て、いくつかのJクラブから声がかかるなか、FC東京U-15へ。03年、日本クラブユースサッカー選手権 (U-15)大会で優勝。各年代の日本代表にも選出される。FC東京U-18時代の06年より第二種登録選手としてトップチームに帯同。07年から正式に昇格する。09年にレギュラーを獲得し、リーグ戦では16試合で無失点に封じるJ1タイ記録を樹立。クラブのヤマザキナビスコカップ制覇にも貢献した。同年には日本代表にも初招集される。11年には代表の一員としてアジアカップ優勝を経験。U-22代表ではロンドン五輪出場、FC東京では副主将としてJ1復帰を目指す。積極的な飛び出しと、長身を活かしたクロスボールの処理が持ち味。身長187cm、体重83kg。
(石田洋之)
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