
組織がうまくいかない時のリーダーの振る舞いや言動には、その人の人間性が反映される。非は我にないとばかりに周囲を責め始めるリーダーもいれば、黙々と立て直し策を練るリーダーもいる。「すべては私のせい」と周囲に謝罪して再出発を図るリーダーもいる。
(写真:常に小川監督は報道陣の質問に誠実に対応する) チームスポーツの世界でも、負けた指揮官の試合後の会見はある意味で興味深い。感情をあらわにしてミスをやり玉に挙げる監督、審判に八つ当たりし始める監督、「今日は何もしゃべりたくない」と会見を拒否する監督、落胆の表情でボヤキまくる監督……。10人の監督がいれば、敗戦後のリアクションは10通りあると言っていい。
さて、小川淳司監督はどうか。敗戦後の様子を一言で表現すると「不変」である。勝っても負けても報道陣への対応にあまり変化を感じない。もちろん勝利後と比べれば表情は暗いが、質問にはきちんと答え、声を荒げたり、感情が表に出ることはほとんどない。
交流戦で連敗を喫した19日のオリックス戦後もそうだった。この試合、ヤクルトにとっては痛恨の敗戦だった。2回に1点を先行するものの、追加点が奪えず、8回に同点に追い付かれる。直後に畠山和洋のタイムリーで勝ち越すが、守護神のトニー・バーネットが、勝利まであと1人の場面で主砲の李大浩に逆転2ランを浴びた。それでもヤクルトは9回に相手のクローザー岸田護を攻め、こちらも2アウトの崖っぷちから代打・藤本敦士の二塁打で追いつく。
ところが3時間30分の時間制限でラストイニングとなった11回表、2死無走者から事態は暗転した。あと1つアウトを取れば、負けが消える場面で打席に迎えたのは9回に本塁打を放っている李大浩。ここでヤクルトベンチはバッテリーに敬遠を指示した。そしてピッチャーを左の日高亮から右の増渕竜義にスイッチ。アーロム・バルディリスに代わって途中出場していた山崎浩司と勝負した。
山崎の当たりはボテボテのショートゴロ。しかし打球を捕った荒木貴裕の送球が遅れ、内野安打にしてしまう。次の打者は後藤光尊だ。打率2割台前半と打撃が不調とはいえ、この日は代打出場から2安打を放っている。ヤクルトベンチは後藤との勝負を避け、あえて押し出しやバッテリーミスのリスクもある満塁策をとった。だが、これは結果的に裏目に出た。この日、2安打を放って乗っていたルーキーの川端崇義に対して、増渕の変化球が高めに浮き、右中間を破られる。走者一掃のタイムリー三塁打。致命的な3点が入り、勝敗は決した。
ヤクルト側からすれば、タラレバを言えばキリがないような試合である。2回、7回と2度あった満塁のチャンスにもう1点取れていれば、9回に李大浩にホームランを打たれなければ、11回に、現時点では増渕よりも安定感のある日高を続投させていれば、山崎のゴロを荒木が素早く処理していれば、満塁にせず後藤と勝負していれば……。
だが、試合後の指揮官はボヤキも嘆きもしなかった。
「オレのミスで試合をぶっ壊した」
キッパリと言い切った。勝敗を分けたポイントについても記者の質問にひとつひとつ答えた。
――まずは李大浩の2ランですが……。
小川: 2−3(現行表現では3−2)になったところで歩かせてもいいと指示できなかった。我々のヘマです。それが失投につながったと思います。バーネットの集中力が切れたらいけないと躊躇してしまった。
――11回に李大浩を歩かせて、増渕に交代した意図は?
小川: 次の山崎で何とかアウトにしたかった。でも、それがヒットになって作戦が狂ってしまいました。
――その内野安打になった荒木の守備については?
小川: 守備力が弱いのを承知で守らせたんだから僕のせいです。(スタメンの)森岡(良介)にピンチヒッターを使って代えた時点で覚悟をして守らせていました。
――後藤を歩かせて、満塁にしたのは?
小川: それは次の川端との打力を比較した、こちらの指示です。選手たちは頑張ってくれました。8回にすぐ勝ち越してくれて、9回は藤本もよく打って同点に追いついてくれた。それなのに僕がヘマばっかりしました。負けるべくして負けました。
就任時から小川監督は選手に敗戦の責任を押し付けないスタンスを貫いている。そして自らの非ははっきりと認める。「リーダーがあっさり“ミスしました”と言っていてはトップの威厳を保てない」との指摘もあるが、この点は全くブレていない。その意味でも“不変”である。
「自分は選手としても指導者としても実績も何もない。2軍監督になったばかりの頃は自信もなかった。とにかく選手にはうまくなってもらいたい。その一心でした」
以前、小川監督はそう語っていたことがある。“不変”のスタンスの根底には、選手に対する、ある種のリスペクトが感じられる。
それは続く次の発言からも明らかだ
「でも勝つためには、申し訳ないけど選手に平等にチャンスを与えるわけにはいかないんですよ。だから能力の見極めをして起用に優先順位をつけなくてはいけない。本当は人間に対して優先順位をつけるなんておこがましいと思うんですけど、それが監督の仕事なんですよね……」
リーダーとして部下の力量を把握し、起用法を考えるのは当然と言えば当然のこと。だが、小川監督はそのことすら選手に対して「申し訳ない」し、「おこがましい」と感じている。“上位下達”の風潮が今なお残るスポーツの現場で、指揮官の口から選手をそこまで尊重する言葉が出てきたのは少々、意外だった。
戦の総大将としては少し謙虚すぎると感じるかもしれない。選手の思いの大きさが時として足かせとなり、大胆な采配を振るえない不安も伴う。しかし、そんな弱さを抱えつつ、チームの指揮を執って3年目の今もスタイルが変化しない。“不変”は“普遍”に通じる。普遍的なものは強い。小川流とも呼べる、そのマネジメントは野球以外の分野でも参考になるはずである。
(次回は6月4日に更新します)
(石田洋之)
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