
人生には勝負をかけなくてはいけない時期が必ずある。先のドラフト会議で東京ヤクルトから5位指名を受けたキャッチャー、星野雄大にとって、この1年がまさにそうだった。社会人の伯和ビクトリーズから今季、独立リーグの四国アイランドリーグPlus、香川オリーブガイナーズに飛び込んだ。安定した社会人生活を捨て、この1年でNPB入りへ勝負をかけたのだ。
「1年間、この日のためやってきたと言っても言い過ぎではないです。だから指名を受けた時はホッとした気持ちでした」
(写真:二塁への送球タイムは2秒0。捕球からの速さ、コントロールの良さが光る) 社会人(日産自動車九州−伯和)時代は、今回、再びチームメイトとなる七條祐樹とバッテリーを組んだ。弟・大地は福岡ソフトバンクのピッチャーだ。NPBへの思いはいやがうえにも高まっていた。実は昨年、星野はドラフト指名を受け、NPB選手の仲間入りをする予定だった。スローイングの正確性、打撃のパンチ力を買われ、ソフトバンクが育成選手として獲得する方向で検討していたのだ。しかし、日本野球連盟が企業所属選手の育成指名に難色を示し、この話は消滅してしまった。
「この1年で勝負をかけたい。1年やって無理なら野球を辞める」
一度は夢破れた星野は会社と話をし、退路を断つ決心をする。それがアイランドリーグ行きだった。今季、創設8年目を迎えた同リーグは今回のドラフトも含め、計35人をNPBに送り出している。同リーグの特徴は年間80試合にNPB球団との交流戦を加えた実戦経験の多さ。アマチュアでは出場機会に恵まれなかった選手たちが、試合を重ねることで眠っていた素質を開花させ、NPBへと巣立っていった。ヤクルトでは俊足と守備のユーテリティさを武器に1軍定着した三輪正義も、そのひとりである。
何より経験が求められるキャッチャーにおいて、1試合でも多くマスクを被ることは絶対にマイナスにはならない。ましてや一発勝負のトーナメントと、同じ相手と何度も対戦するリーグ戦とではリードの仕方も異なってくる。
「社会人時代とはリードの発想が違うので最初は大変でした。基本的にはピッチャーのいいところを引き出しながら、バッターの様子をうかがってタイミングが合わないように気をつけながらサインを出しています。最初は右も左も分からない状況から、試合に出るごとに感覚をつかんでいきました」
星野が扇の要に座った香川は前期シーズンで独走優勝を収める。「試合に出るたびに成長し、チームの大きな戦力になった。優勝の陰の功労者」。香川の西田真二監督は、そうルーキーキャッチャーを称えていた。チームは後期も優勝争いを演じ、リーグチャンピオンシップでは、元ロッテの橋本将らを擁する愛媛マンダリンパイレーツを3連勝。2年ぶりの年間優勝にも貢献した。
その結果が「捕手としてのセンスの良さ(キャッチングを含め、肩の強さ)が特徴の四国アイランドリーグNo.1捕手」とのスカウトの評価を受けてのドラフト指名だ。星野は野球人生を賭けた大きな勝負に勝利した。
「社会人時代からプロ向きの性格だったので、何とかプロに行かせたいと思わせる選手でした」
伯和の東賢孝監督は、そう星野の印象を語る。
「アマチュアの場合、“負けたら終わり”なのでキャッチャーのリードが良く言えば安全策、悪く言えば消極的になりがちなんです。でも星野は強気のリードでどんどん押してくる。七條とのコンビでも持ち味のストレートをうまく使って、好投を引き出していました」
そんな東が最も印象に残っているのは、2年前の都市対抗野球の1回戦だ。伯和はエース七條を擁し、悲願の初勝利を第一の目標に大会へ臨んだ。しかし、大事な一戦を前にアクシデントが襲う。キャッチャー陣にケガが相次いだのだ。星野は股関節を痛め、思うように練習ができていなかった。
「でも、もうひとりのキャッチャーは死球を受けて骨折していました。だから、チームとしては星野しかいないと言える状況だったんです。痛みもあったのでしょうが、本人は“行けます”と試合に出てくれました」
不安を抱えながらの起用だったが、星野は東京ドームで投打に渡って活躍をみせる。初の大舞台にも動じることなく冷静に七條をリードすると、2回の初打席、レフトスタンド中段へ飛び込むホームランを放つ。結果は5−0。七條の10奪三振完封をアシストし、チームに都市対抗初勝利をもたらせた。
「あの時は抜群のリードとバッティングでした。以前から勝負強い選手だなとみていましたが、その思いを一層強くした試合でしたね」
東が「より上のレベルに行けば、もっといい選手になる」と確信した出来事だった。
もちろん、NPBはそうやって勝負強さを発揮して競争を勝ち上がってきた男たちの集団である。星野にとっても、ここからが本当の勝負だ。ヤクルトはベテランの相川亮二、中堅の川本良平、若手の中村悠平と、それぞれ力のあるキャッチャーが揃っている。1軍でプレーし、ポジションを獲るには、まず、この一角に割って入らなくてはならない。
「自信のあるスローイングの精度に加えて、リードもキャッチングもレベルアップしないといけないでしょうね。新人ですから、まずはピッチャーともコミュニケーションを取りながら信頼される存在になりたいと思っています」
得意のスローイングは「内野手がランナーにタッチできる範囲にはほぼ投げられる。ちょっとでもランナーのスタートが遅れればアウトにできる」と語る。それを可能にするのが、ボールを握った瞬間の縫い目に合わせ、即座に投げる方向を調整する技術だ。NPBで歴代最高の盗塁阻止率を誇る古田敦也が駆使していたテクニックでもある。
「ただ、それ以上に大事なのは……」とあえて星野が付け加えたことがある。“ケガをしないキャッチャー”だ。
「今季は1年通じて大きなケガもなく、試合に出続けることができました。どんなにレベルアップしたくてもケガをしてしまったら試合にも出られない。NPBではアイランドリーグ以上に試合数も増えますし、今まで以上にケガをしない体づくりを心がけていきたい」
合同自主トレが始まる年明けまでは、トレーナーの指導の下、香川でフィジカル面の強化に充てる予定だ。
ルーキーの中には、あれもこれもとアピールを焦るあまり、無理をして自主トレからリタイアしてしまうケースが時々見受けられる。自分に今、何が必要か、どこで勝負すべきかを見極める冷静さもプロで成功するための条件だ。その意味では真の勝負強さとは、単なるメンタルの問題ではなく、しっかりとした計画や準備から生まれてくるものと言えるだろう。
当面の夢は七條と神宮でバッテリーを組み、勝利のハイタッチをかわすこと。ケガなく、本当に勝負強いキャッチャーとして着実に成長を遂げれば、そう遠くないうちに夢は現実になるはずだ。
(次回は11月19日に更新します)
(石田洋之)
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