侍ジャパンのWBC3連覇への挑戦は幕を閉じた。
 だが、東京ヤクルトのファンにとって、まだ大会は終わっていない。日本時間19日はオランダ代表が準決勝でドミニカ共和国代表に挑む。オランダの主砲、ウラディミール・バレンティンは第2ラウンドで痛めた足の状態が気がかりだが、米国での練習試合ではホームランを放った。キューバを2度も撃破した勢いで番狂わせに期待したい。
(写真:17日にはファンを招いての決起集会を開催。村中、赤川、日高、平井、中村、森岡、雄平の7選手が参加した)
 そして日本を破ったプエルトリコ代表にはオーランド・ロマンがいる。2次ラウンド最終戦のドミニカ共和国とのゲームでは先発して5回1失点と好投を見せた。登板間隔の制限のため、決勝で投げることはできないものの、2試合に先発してゲームをしっかりとつくった。目立たなくとも決勝進出の陰の功労者である。

 今回のWBCではヤクルトから日本、ブラジル、オランダ、プエルトリコと4カ国・地域で選手が代表入りし、そのうち3チームが4強入りした。同じ球団の所属選手が3チームにまたがっていたのは、世界中で日本の東京を本拠地に持つスワローズだけである(MLB球団の傘下マイナーは除く)。海外選手のスカウト力の高さを改めて証明した出来事と言えるだろう。

 世界で羽ばたいたスワローズ――このWBCの勢いを、ぜひレギュラーシーズンでの上昇気流にしたい。神宮でオープン戦を行っているチームにも明るい材料は多く、12年ぶりの優勝を狙える力は整いつつある。カギを握っているのは、WBCの出場選手はもちろん、代表のユニホームに袖を通したことのあるメンバーである。

 先発投手では昨秋のキューバ戦で代表に選ばれた左腕の村中恭兵が一皮むけそうだ。新しく覚えたシュートは「バッターの反応を見ると結構使える」と手ごたえを感じている。昨年の成績をみても、村中は対左バッターに被打率.309と打ち込まれており、この対策が急務となっていた。各球団に揃う左の強打者を封じれば、おのずと勝利は近づいてくる。

「今季は最多勝、背番号(15)以上の勝ち星は狙う」
 口数の少ない左腕がここまで断言したのは自信の裏返しだろう。開幕投手が見込まれる館山昌平も「村中はいいボールを投げている」と語っていた。石川雅規、館山に次ぐ柱、いや、2人の先輩スターターを上回る大黒柱になる実力は十分にある。

 捕手では日本代表経験者によるレギュラー争いに注目だ。今回のWBC代表・相川亮二と、昨秋に侍ジャパンの試合を経験した中村悠平である。中村は昨季、第3キャッチャーの立場から相川、川本良平の故障に伴い、スタメンのチャンスを得た。相川の復帰後も定期的にマスクを被り、終わってみれば捕手ではチーム最多となる90試合に出場した。「プレッシャーがすごくあった。ご飯がのどを通らなかったり、ノイローゼ気味になったこともあった」と中村は昨季を振り返る。だが、1軍で苦しみ、悩んだ体験は自身を大きく成長させてくれたはずだ。

 昨オフには台湾のウインターリーグにも参加し、修行を積んだ。今季は「野球人生を賭ける」シーズンだと心に誓っている。
「相川さんのファンにはすごく申し訳ないですけど、僕がレギュラーとしてやるという気持ちです」
 そう中村に言われて、相川も黙って引き下がるような選手ではない。扇の要を巡るハイレベルな“つばぜり合い”は、これまでのチームにはなかったものだ。若い中村とベテランの相川が互いに持ち味を出して、チームを勝利に導いてくれるだろう。

 野手でも、元日本代表が復活ののろしをあげている。7年ぶりの復帰となる岩村明憲である。体重が100キロを超え、キレを失っていた体は10キロ以上の減量に成功し、だいぶスリムになった。その姿を見て、キャンプインにあたり、伊勢孝夫ヒッティングコーディネーターは本人に声をかけた。
「2月1日からは錆落としや。3日、4日では落ちんぞ。1カ月、ついて来れるか」
「やります。お願いします」

 キャンプ初日からマンツーマンでの居残り練習が始まった。楽天時代の岩村は左の軸足で踏ん張りきれず、スイングの際に前に突っ込むかたちになっていた。これでは力強い打球を飛ばせず、変化球にも脆くなる。伊勢ヒッティングコーディネーターは、この部分の矯正に乗り出したのだ。

 約1カ月間の“錆落とし”作業の末、背番号48のバッティングにはかつての輝きが見られるようになっている。実戦ではライナー性の鋭い打球が増え、ホームランも出るようになった。17日の神宮でのオープン戦(対福岡ソフトバンク)でも、左腕の帆足和幸が投じた肩口から入ってきた変化球を、軸足でしっかりためてライト線へ弾き返した。慣れ親しんだ神宮での久々の快音。「まだ1本なんでね。これからが大事」と本人は振り返ったが、その笑顔には充実感が漂っていた。

 本来のポジションであるサードには宮本慎也がいるため、ファーストの守備もオープン戦では試した。そのファーストを守る畠山和洋はポジションを奪われまいと打ちまくっている。18日まででオープン戦の打率.415は12球団トップの成績だ。岩村の存在が周囲にも好影響を与えていることは間違いない。

 投手陣ではリリーフで左の江村将也、右の大場達也といった新人がアピールし、移籍組の藤田太陽も結果を残して頭数は豊富になってきた。センターでは雄平、比屋根渉、上田剛史が三つ巴の競争を繰り広げ、ショートは川端慎吾の出遅れもあり、川島慶三と森岡良介がチャンスをうかがう。開幕スタメンがどんなラインアップになるのか決着はついていない。

 WBCでの燕戦士の活躍がすべての始まりだった――そう振り返ることになるかもしれない2013年のシーズンは29日、幕を開ける。

(石田洋之)

(次回は4月1日更新です)
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