借金22を抱え、最下位に沈む1軍とは対照的に、東京ヤクルトの2軍、通称・戸田スワローズは好調である。ここまで47勝29敗6分、勝率.618。2位の千葉ロッテには2.5差をつけ、首位を快走中だ。そんな戸田スワローズで外野のレギュラーをつかんでいるのが、3年目の育成選手、佐藤貴規である。
 貴規は仙台育英高から2010年の育成ドラフト3位で入団した。当初は兄・由規との兄弟プレーヤー誕生という話題が先行していたものの、昨季から2軍のレギュラーに定着。チームトップの打率.300、103安打の好成績を残した。

 今季も打率.294、5本塁打、35打点と2軍でしっかり結果を出している。
「いまどき珍しいインサイドの真っすぐに強い選手です。スイングプレーンもしっかりしている。育成でこんないい選手がいるのかとビックリしました」
 そう明かすのは今季から2軍の打撃コーチを務める杉村繁である。ヤクルトの1軍打撃コーチ時代は青木宣親(ブルワーズ)、横浜時代には内川聖一(福岡ソフトバンク)らの育成を手掛けた杉村の目にも、若き左バッターの能力は高く映った。

 育成選手は3年以内に支配下登録されないと自由契約になる。今季中に昇格するための期限は7月31日まで。今年は貴規にとって勝負のシーズンだった。チャンスはオープン戦で巡ってきた。1軍のメンバーに抜擢され、最初の試合でヒットを放つ。翌日も二塁打をかっとばし、支配下登録へ大きく前進した。

 しかし、その後は快音が聞かれず、結局、4試合で11打数2安打。2軍降格を告げられ、昇格は見送られた。確かにバッティングの能力は高いが、簡単に凡打や空振りをしてしまう点、そして守備、走塁面が1軍クラスに達していない点が課題として突きつけられた。

「落ちるボールを簡単に振ってしまう脆い面がありました。1軍のピッチャーはほとんど落ちるボールを投げますから、これにどう対応するかが求められていました」
 弱点克服へ杉村は貴規に対し、ユニークな練習を行った。サードにコーンを立て、そこを狙ってバッティングをするのだ。逆方向に打つには、それだけボールを引きつけなくてはいけない。ボールを引きつけようとすれば、必然的にギリギリまで見極めて打つことになる。これにより、落ちるボールか否かを判断する力を養おうとしたのだ。

 加えて落ちるボールを無理に引っ張って引っかけるのではなく、手首を返さず、センター方向へ運ぶ打ち方も繰り返し練習した。「落ちるボールであっさり三振しなくなった。課題のひとつはクリアしつつあります」と杉村は成長を認める。同じく今季からコーチになった福地寿樹コーチからも守備・走塁面での指導を受け、走攻守ともに支配下登録されてもおかしくはないレベルに達してきた。

 しかし、登録期限である7月31日を過ぎても貴規の背番号は育成選手を示す3ケタ(111)のままだった。
「俺もみんなみたいに2桁背負って野球したい。ずっと迷惑かけてきたから親を喜ばせてあげたい」
 自身のツイッターでも綴っていた強い思いはかなわなかった。

 チーム事情を考えれば、やむを得ない面もある。現在、燕の外野陣はウラディミール・バレンティン、ラスティングス・ミレッジの両外国人が不動で、しかも両者ともに複数年契約を結んでいる。彼らが故障しない限り、当面は1軍の外野はポジションが1つしか空かない。その1枠を9人の日本人選手で争っている(内野手登録の武内晋一や三輪正義も外野を守れるため、実際の競争倍率はもっと高い)ことを考えれば、外野手は飽和状態である。「外野手じゃなかったら、間違いなく支配下登録になっていたはず」とチーム内でも声が出ていた。

 チームでは来季も育成選手として再契約を結ぶ方針だという。ただ、これだけの選手なら、自由契約になった段階で他球団が支配下選手として獲得に乗り出すかもしれない。昇格が叶わなかった翌日の8月1日には、神宮球場の東北楽天戦でタイムリーを放った。3日の戸田での北海道日本ハム戦でもマルチヒットを記録した。試合後の居残り練習も続けており、気持ちは既に前へ向かっている。

「今はとにかくガムシャラに頑張る」
 今の貴規にとっては、残りシーズンを全力で戦うこと。それが3度目の正直ならぬ、4度目の正直につながると信じるしかない。
 
(次回は8月19日に更新します)

(石田洋之)
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