29日、世界選手権(8月、モスクワ)の選考会を兼ねた織田幹雄記念国際陸上大会最終日が行われ、男子100メートル予選で桐生祥秀(洛南高)が10秒01の今季世界最高記録をマークした。決勝では、昨年度優勝の山縣亮太(慶応大学)を振り切って、10秒03(追い風参考記録)で優勝。男子やり投げは、村上幸史(スズキ浜松AC)が自己記録を更新する85メートル96で制した。また桐生と村上は、日本陸上連盟の派遣設定記録をクリアし、日本選手権(6月、東京)で入賞すれば世界陸上の代表に内定する。女子やり投げでは、海老原有希(スズキ浜松AC)が62メート83の日本新記録を樹立した。海老原は派遣標準記録を突破し、日本選手権で優勝すると世界陸上の日本代表に決まる。
 10秒01――その記録が掲示された瞬間、広島エディオンスタジアムにつめかけていた1万7000人がどよめいた。
 今大会は江里口匡史(大阪ガス)、高平慎士(富士通)、山縣らロンドン五輪に出場した日本屈指のスプリンターたちを揃え、好記録が期待されていた。そんな招待選手を押しのけて主役に躍り出たのは、わずか17歳の高校生だった。

 桐生祥秀、京都の洛南高校3年生だ。昨年11月のエコパ・トラックゲームスで10秒19のユース(18歳以下)世界最高記録を叩き出していた。予選2組に登場した桐生は、大きなストライドで加速していく力強い走りを見せた。駆け抜けたシニアデビュー戦の10秒01は日本歴代2位、世界ジュニア(20歳未満)タイ記録である。タイムよりも順位を狙ったという本人も掲示板を見て「ビックリした。まさか(10秒)0台とは」と驚いた。

 決勝では、序盤にリードを奪うと、山縣の猛追を受けながらも逃げ切った。追い風2.7メートルのため、参考記録の10秒03だが、2本続けて10秒0台を出したことで力を証明した。2位の山縣も10秒04の好タイム。だが地元広島で後塵を拝したかたちとなり、「期待してくれていた方々に申し訳ない。責任を負える選手になりたかったが、まだ自分には器がなかった」と唇を噛んだ。

 日本人がまだ見ぬ9秒台――。わずか0コンマ数秒まで近づいた。桐生は「ここで満足していたら、先に進めない。自分の走りを追求していきたいです」と語った。山縣も10秒0の日本記録は通過点と言い切る。北京五輪400メートルリレーの銅メダリストの朝原宣治氏は「10秒0台で2人とも肩を落としていました。どれだけ上を見ているのか」と舌を巻いた。今後は2人が日本の短距離界を引っ張っていく存在になるだろう。桐生は5月5日のゴールデングランプリ東京に出場する予定。9秒台の記録を持つ外国勢相手に“最速の高校生”がどんな走りを見せるかにも注目だ。

 男子やり投げでは、第一人者の村上が優勝。3投目にマークした85メートル96は自己ベストを2メートル以上更新した。日本歴代2位の好記録で、ディーン元気(早稲田大)らを退けた。昨年の織田記念ではケガを押して出場し、ディーンに敗れた。その後のロンドン五輪では予選落ち。「調子自体は良くなかったが、ここで結果を出せたのはうれしい」と喜んだ。

 女子やり投げでは、日本新記録が生まれた。村上と同じスズキ浜松AC所属の海老原だ。3投目までは、助走を走りすぎて投げるポイントが合わず、50メートル台と精彩を欠いていた。4投目で「ファウルぐらいのつもりで振り切ろう」という意識で投げた。結果はラインを越えてファウルだったが、気持ちも吹っ切れて、自分で停滞していた流れを払拭した。つづく5投目で62メートル83のビッグスロー。自らが持つ日本記録を47センチ上回った。今年の目標は65メートル。「もっともっと投げたい」と意欲を見せた。

(杉浦泰介)