ボクシングのWBCダブル世界タイトルマッチが5日、東京・代々木第二体育館で行われ、フライ級では王者の八重樫東(大橋)が、挑戦者でWBA世界ミニマム級、同ライトフライ級の元王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に9R2分24秒TKO負けを喫し、4度目の王座防衛はならなかった。八重樫は、39戦全勝(33KO)と圧倒的な強さを誇る挑戦者と激しい打ち合いを演じたものの、3Rにダウンを喫し、最終的には9Rで力尽きた。ライトフライ級では王者の井上尚弥(大橋)が、同級13位の挑戦者サマートレック・ゴーキャットジム(タイ)を11R1分8秒TKOで下し、初防衛に成功した。
(写真:「意識ある限りやる」と熱戦を演じた八重樫だったが……)
 またロンドン五輪男子ミドル級金メダリストの村田諒太(帝拳)はプロ5戦目に臨み、メキシコのミドル級王者アドリアン・ルナに3−0の判定勝ちを収めた。村田はデビューからの連続KOが4でストップしたが、無傷の5連勝となった。

<八重樫、悔し涙 「負けたら意味ない」>

 何発打たれても打ち返す。捨て身の戦術で最強挑戦者に立ち向かった八重樫だが、9R、連打を浴びてコーナーに尻もちをつくと、レフェリーに試合を止められた。
「やっぱりロマゴンは強かった。打たれたら打ち返す。根本的なところでしか勝負できなかった」
 試合後、完敗を認めた。

 立ち上がりは足を使ったヒット&アウェーの戦術をとった。「ぶつかって動くように言っていた」と所属ジムの大橋秀行会長は明かす。だが、八重樫本人は実際に拳を合わせてみて「この展開は続けられない」と悟った。

 肉を斬らせて骨を断つ。2Rからは打ち合いに転じた。ガードの上からでも的確に当ててくるロマゴンに対し、幾度となく顔面を飛ばされながら反撃を試みた。逆襲の一打がヒットするたびに会場全体が沸く。

「正解を見つけた感じだった」
 八重樫も手応えを感じ始めていた3R、左フックの相打ちでバランスを崩したようにダウンを喫する。4Rの公開採点でも、2者がフルマークで挑戦者を支持。より一層、「イチかバチか」の勝負に出ざるを得なくなった。

 だが、「ハードパンチャーだけど技術も高い」と八重樫が認めたように、決死の打撃戦もロマゴンにはなかなか通用しなかった。5Rには接近戦からボディでゴンサレスの動きを止めるシーンもあったが、次第にロープ際に後退させられる展開が増える。

「パンチのつなぎ方がうまい。緩急、角度、テンポ。体感してすごいなと思った」
 前に出ようとしても、正確なパンチを鋭く繰り出す相手の懐には飛び込めない。7Rあたりから、さすがにダメージが蓄積し、足が動かなくなった。

 それでも八重樫はノーガードで打ち返し、一発逆転を狙う。パンチを受け続けた顔は腫れ上がり、足元は既にふらついていた。8Rはラウンド終了のゴングで倒れこむようにコーナーに戻る。限界はとうに超えていた。
「この回で勝負に行け!」
 陣営の指示で、最後の気力を振り絞った9R。壮絶な試合の結末はTKO負けだった。

「止められたのは悔しかった。もうちょっと行きたかった」
 試合後の控室、出迎えた家族の顔を見ると悔し涙がこぼれた。
「負けたら意味がない。戦ったから偉いというわけじゃない。プロは勝たないと何もならない」

 確かに果敢に立ち向かいながらも、怪物を倒せなかった。ベルトも失い、敗戦という事実は変わらない。ただ、スタンドの観客は八重樫をスタンディングオベーションで称えた。王座統一戦に挑んだ2年前の井岡一翔戦に続き、敗れてもなお、八重樫東というボクサーの価値は高まったことは間違いない。

<井上、不完全燃焼も2階級制覇へ>

 11R、一方的に井上が攻め立て、グロッキー状態になった挑戦者を見て、レフェリーが試合を止めた。2度のダウンを奪っての圧勝。しかし、王者は「情けない試合をして申し訳ない」と観客に頭を下げた。
(写真:3Rにダウンを奪う。「前半でKOできたと思う」と本人には不満の残る内容だった)

 この試合で初防衛を果たして、ライトフライ級は“卒業”と決めていた。世界王座を奪取した4月のヘルソン・マンシオ(フィリピン)戦では減量に苦しみ、試合中に足がけいれんした。今回は株式会社明治「ザバス」と栄養サポート契約を結び、順調に体重を落とすことに成功した。

「(メインで試合をする)八重樫さんの背中を押すようなKO勝ちでバトンタッチするつもりです」
 試合前はKOを宣言。1Rからパンチの回転、パワーでゴーキャットジムを圧倒した。3Rには左アッパーでぐらつかせ、右フックを浴びせてダウンを奪う。6Rには左ボディで再び相手をキャンバスにひざまずかせた。会場内には早期決着の雰囲気が漂っていた。

 だが、「想像以上にタフだった」と井上が認めたように、ゴーキャットジムはなかなか音を上げない。井上は中盤に拳を痛めたこともあってか、早く試合を決めようとパンチが大振りになり、フィニッシュまでなかなか持ち込めなかった。

「試合で何も出せなかったので0点」
 厳しい自己採点をしたのは、さらなる高みを見据えているからだ。王座を返上して挑むフライ級には、WBA王者のファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)、WBO王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、IBF王者のアムナット・ルエンロン(タイ)と強豪が揃う。日本人では井岡も3階級制覇達成へベルトを狙っている。

 そして何より、この日、ローマン・ゴンサレスが八重樫からWBCのベルトを奪った。大橋会長は「近い将来、ロマゴン対井上尚弥もおもしろい」とビッグマッチ実現の可能性を示唆した。1階級上の舞台で若き怪物がどんなバージョンアップを遂げるのか。そして、ロマゴンと拳を交える日がやってくるのか。本人の言葉同様、ファンも「楽しみ」にしているはずだ。

<村田、圧勝もスタミナに課題>

 判定にもつれこんだとはいえ、メキシコ王者にひとりのジャッジはフルマークをつける完勝。ところが、初の10Rを戦った村田はクタクタに疲れていた。
「6Rからきつくて心折れそうでした」
 試合後のリング上で苦笑いを浮かべた。
(写真:「倒せる手応えはあった」と攻勢をみせるも倒しきれなかった)

 1Rから左ボディを効かせて、右を何度も打ちおろした。4Rには、その右の打ちおろしにルナがバランスを崩し、スリップ。ここぞとばかりにラッシュを仕掛けた。

 だが、ルナは倒れない。村田のスタミナは底をついてしまった。主導権は常に握っていたものの、7R以降は手数が減り、終盤は明らかに動きが鈍った。
「7、8Rは休まないともたないと思った。ボクシングをしていて初めて弱気になった」

 確かに右の打ちおろしは幾度となくヒットしていたが、決定打にはならなかった。うまく相手も体を傾け、パンチの威力を弱めていたからだ。相手の右を警戒して左を使えず、攻撃が単調になった。「相手がうまかった。こちらも力んで同じパンチばかり打ってしまった」と村田は反省を口にする。

 この先、視野に入れる世界タイトルマッチとなれば、12Rの長丁場になる。「あと2Rやるとなると、気持ちが持つか……」と明かしたように、今後は長いラウンドを戦う上でのペース配分や、勝負どころの見極めが求められる。

「上半身で打つから疲労が激しい。打ち方を変えないといけない」と本人は課題を既に試合の中で見つけていた。
「ネガティブにとらえず、すべてが経験。いい経験をしたと思いたい」
 プロデビューから1年、ほろ苦い勝利を次なるステップにつなげる。