二宮: 黒木さんといえば、松坂大輔(当時西武、現レッドソックス)との投げ合いや、シドニー五輪でのキューバ打線との戦いなど、その熱投が記憶に残るピッチャーでした。引退されて、もう1年が経とうとしているんですね。
黒木: ロッテから戦力外通告を受けて最終的に引退したのが去年の12月12日。この1年間、プロのみならず、社会人、大学といろいろな野球を観ることができ、おもしろかったです。ただ、やっぱり自分が投げてみたいなという気持ちは、まだ心のどこかにありますね。
田澤は低めの直球に課題二宮: 1年間、ネット裏からご覧になって、アマチュアで印象に残ったピッチャーは?
黒木: 今年は都市対抗野球で古巣の王子製紙が準優勝しました。決勝の相手は新日本石油ENEOS。そこで今、注目を集めている田澤純一を見ました。ベルトから上にくるボールはやっぱり速い。低めにもあのボールが来るようになるともっといいんですけどね。
二宮: 低めのストレートに伸びが感じられないと?
黒木: やや球威が落ちますね。だからメジャーリーグに行ったとしても、あのくらいの球だったら打たれてしまう。今年の2月、フロリダとアリゾナへメジャーリーグのキャンプを視察してきましたけど、田澤くらいのボールを投げるピッチャーはいくらでもいました。彼は意外とまとまりもよくてフォークとスライダーがいい。それらをうまく使いながら、高めの速球で勝負できれば向こうでも通用するでしょうね。
二宮: ネット裏から野球を観ていて、自分がマウンドに立っていた頃と違った発見はありましたか?
黒木: 意外と現役時代に培ってきた野球観は間違いではなかったと思いましたね。ゲームの流れや選手の心理を踏まえて、「自分だったら、こうするな」と感じたことは、だいたい当たっている。逆に「ここできちっとしたプレーをやってほしいのに、何でできないんだろう」と感じることもありました。解説者として試合を観ていますけど、選手たちに感情移入してしまうところがあるんです。まだ自分もプレーしている感覚が抜けていないのかもしれません。もう少し冷静に、とは思いますけど(笑)。
足が震えていた上原二宮: 夏は五輪野球もご覧になられましたね。結果は惨敗でしたが……。
黒木: 今の野球界を背負って立つ若い代表選手には、もっと熱くなってほしかったですね。現地で観ていると選手たちが冷静というか、すごくスマートというか、クールに感じられました。クールな心理状態のほうが最高のパフォーマンスができるといえば、そうかもしれませんし、それが彼らのプレースタイルなのかもしれません。
でも、シドニー五輪を経験した立場から言わせてもらうと、自分のプレースタイルを変えるような熱さがもう少し必要だったかなと。泣いても笑っても予選7試合、決勝トーナメント2試合だったんですから。シドニーでは僕らプロ野球選手が8人入った代わりに、8人のアマチュア選手が代表から外されたわけです。その選手たちの思いまで背負って立たないといけないとの決意で僕は戦っていました。僕自身も社会人時代、日の丸のユニホームを着ることが目標でしたから、アマチュア選手の気持ちはよくわかる。
二宮: そういった五輪に賭ける思いが足りなかったと?
黒木: 若い選手に「絶対に負けられない」と伝わるようなものが少し薄い感じがしました。これは上原浩治から聞いた話ですが、彼は投げている時に足が震えたと言っていました。
二宮: それはどの試合で?
黒木: 2勝2敗で迎えた1次リーグのカナダ戦です。試合後に話を聞いた時でさえ、挨拶しながらワナワナ震えていた。そのくらい彼は「負けられない」というプレッシャーを背負って試合に入っていました。1−0で勝っている最後の場面を任されたわけですが、あの国際経験豊富な上原でさえワナワナしているのを見ると、もっと若手が熱さを出すことで違う結果が残せたんじゃないかと思いましたよね。
二宮: シドニー五輪での黒木さんは1次リーグのオーストラリア戦で8回3失点、準決勝のキューバ戦も8回途中まで投げて3失点でした。
黒木: オーストラリア戦は負けると決勝トーナメント進出が難しくなる試合でしたし、準決勝も勝たなければ金メダルは獲れない。首脳陣は決勝と準決勝のどちらを重要視していたのかはわかりませんが、世界一のチームに対して、松坂大輔ではなく、自分を抜擢してもらったことは自信になりました。
二宮: 残念ながらキューバ戦は打線の援護がなく、日本は0−3で敗れました。結局、3位決定戦も落として、初のメダルなしに終わった大会でした。
黒木: スコアは0−3と好ゲームでしたが、今回の代表コーチのオレステス・キンデランに2打席連続でタイムリーを打たれました。正直、スコア以上の力の差を感じましたね。打線の迫力だけでなく、点の取り方がうまかった。こちらがまったくスキを与えなかったにもかかわらず、3点も取られた。たかが3点でしたけど、すごくダメージのある3点でした。
ボールがダメなら指の皮を変えろ
二宮: 今回の北京もそうでしたが、五輪などの国際大会では常に国際球への対応がポイントになります。やはり違和感はありましたか?
黒木: ありましたね。まず重量が2グラムくらい重たかったらしく、体の疲れ具合や張り具合が全く違いました。大きさも縫い目が高かったり、低かったり、微妙に違っていました。
今回の五輪では代表合宿から国際球を使っていたのですが、実際に現地に行ったらボールが違っていた。保管の仕方が悪かったようで、皮の質がだいぶ変わってしまっていました。選手は結構とまどっていましたね。
二宮: 皮は牛革?
黒木: はい。でも、ゴルフボールのようなディンプル(くぼみ)が入った感じになっていたんです。おそらく、湿気などの関係で変形してしまったのでしょう。
二宮: メジャーリーグでも、黒木さんのロッテの先輩にあたる小宮山悟は向こうのボールは滑ったり、違和感があると話していました。
黒木: 師匠(小宮山のこと)は言っていましたよ。「ボールがダメなら自分の指先の皮をかえるしかない」って。
二宮: 指の皮?
黒木: 要するに体質を変えるくらいのことをしなければ、適応できないだろうと。それくらいボールの違いがあるということです。ただ、個人的にはメジャーのボールはフォークの落ちがとても良かった。日米野球で何回か向こうの公式球で投げましたが、しっくりきました。
二宮: 北京でのダルビッシュの不調はボールの影響ですか?
黒木: ダルビッシュはボールうんぬんの問題ではなく、完全に調子を落としていました。そのきっかけとなったのが、直前にあったオールスターゲーム。彼は真っすぐ一本のみならず、スライダーやカットボールを投げることで、自分の感覚をつかんでいくピッチャーです。ところが、最近のオールスターでは投手は真っすぐ一本で勝負しなくてはいけないような風潮がある。実際に打たれたかどうかに関係なく、普段と違う投球をしてしまったことが、調子を崩すきっかけになったように感じました。
「野球はダメだ」と言われたくない二宮: 一方で後輩の成瀬善久はカナダ戦で7回無失点、10奪三振と好投しました。
黒木: 実は去年のアジア予選、成瀬がホームランを打たれてニコッと照れ笑いをみせたことが僕は気に入らなかった。今年、成瀬にインタビューする機会があったときに、僕は感じたことをストレートに伝えました。国際大会は、結果は二の次で何かを吸収すればいいというようなお遊びじゃない。国を背負って戦っているのだから、そもそも笑顔があっていいのか。このことを彼には自覚してほしかった。
それ以来、彼は目の色を変えてやってくれました。本番ではよくがんばったと思います。
二宮: 今回の星野ジャパンは機動力を重視したメンバー選考を行いました。日本がそういったスモールベースボールを目指すことは間違いではない。しかし、キューバでも韓国でも最後はパワーがモノをいった。相手投手にプレッシャーをかける意味でも、一発で仕留められるパワーヒッターも必要だったのではないでしょうか。
黒木: 確かに打線の中にそういうバッターがいると怖さは出てきますよね。でも、今回の代表にもパワーのある選手がいなかったわけではない。村田修一やG.G.佐藤など、それなりに長打の打てるバッターはいました。
それよりもストライクゾーンへの対応が不足していたことが大きかったと僕はみています。たとえば練習や壮行試合でインサイドを捨てて、アウトサイドをどんどん打ちにいくとか、ストライクゾーンを意識したバッティングが徹底できていたのか。そういった準備はオールスター後の1週間だけでは厳しかったでしょう。
二宮: 3月にはWBCが開催されます。北京の教訓を生かせるでしょうか。
黒木: 一言で言うと、負けたってことは何かが足りなかった。その足りない部分がただ技術的な問題なのか、いろんなケガ人を抱えたままで行った選考の問題なのか、そういった環境をつくった球界のシステムの問題なのか……。来年のWBCでは、問題点を洗い出して改善し、万全な体制で戦ってもらいたいですね。そうしないと本当に「野球はダメだな」って言われてしまう。それは野球に育ててもらった人間としてすごく悔しい話ですから。
(後編につづく)
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黒木知宏(くろき・ともひろ)プロフィール>

1973年12月13日、宮崎県出身。延岡学園高、王子製紙春日井を経て1994年ドラフト2位でロッテに入団。小宮山悟、伊良部秀輝らとともにローテーションの一角として活躍する。98年には13勝9敗で最多勝と最優秀勝率の2冠。00年には日本代表としてシドニー五輪にも出場。気合を全面に押し出すピッチングスタイルと「ジョニー」の愛称でロッテファンのみならず、多くの野球ファンに親しまれた。その後は故障に泣かされ、07年オフに球団から戦力外通告を受けて引退した。現役時代の通算成績は199試合、76勝68敗1S、防御率3.43。現在は野球解説に加え、「ジョニープロジェクト」を立ち上げ、野球の更なる発展、普及活動に力を入れている。9月に初の著書『54「もう、投げなくていい」からの出発』(KKロングセラーズ)を出版。
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世界的な酒類・食品などのコンテスト「モンドセレクション」のビール部門で、3年連続最高金賞(GRAND GOLD MEDAL)を受賞したザ・プレミアム・モルツ。原料と製法に徹底的にこだわり、深いコクとうまみ、華やかな香りを実現しました。
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