後期は投打の歯車がかみ合わない戦いが続いてしまっています。8勝18敗3分と借金10を抱え、最下位。打線が不調な上に、守りでもエラーや記録に残らないミスが多く、悪循環に陥っています。僕も選手、コーチとして長く香川にいますが、ここまでチーム状態が悪いのは経験がありません。
とはいえ、野球はチームスポーツです。たとえ打てなくても、ピッチャーが最少失点に抑えてカバーすれば勝つことができます。その意味では、まだまだ投手陣は強さが足りません。
先制点を簡単に与えてしまったり、守備のミスから一気に崩れたり……。8月31日の首位・愛媛戦でも先頭打者への死球から4本のヒットを集中され、一気に逆転を許してしまいました。ヒットにはライトが目測を誤ったり、一塁手が捕りきれなかった当たりもあり、ピッチャーには不運な面が確かにありました。しかし、それを運や野手のせいにしていては進歩できません。野球にミスはつきものなのですから、気持ちを切り替え、次打者をきっちり抑える。それができるのが本当のプロです。
8月は21試合が組まれ、連戦が多かったこともあり、投手陣の役割分担を再編しました。抑えだった
篠原慎平を先発で起用し、逆に先発の
寺田哲也をクローザーに回しました。篠原の先発は、連戦でローテーションの頭数が不足していたチーム事情に加え、秋のドラフト会議へ長いイニングを投げられるところをアピールさせたい狙いがありました。
篠原は肩の故障による2年間のブランクを乗り越え、今季、抑えとして完全復活しています。同い年の又吉克樹が昨年、ドラフト指名を受け、中日で活躍しているのも、本人にはかなり刺激となっているのでしょう。昨オフからトレーニングを重ねた肉体は一回り大きくなり、150キロ超のパワーボールを投げ込めるようになりました。不安視されている肩のスタミナも問題がない点をNPBのスカウトに示せれば、ドラフト指名へ好材料が増えます。
結果としては先発での勝ち星をあげられなかったものの、内容はストレートの球速が平均で140キロ台の中盤をマークし、充分、能力があることを見せられたでしょう。残り試合は、再びリリーフに戻し、短いイニングで角度のあるストレートをどんどん投げ込んでもらって、最終プレゼンをさせたいと考えています。
指名されるかどうか、そして、より上位で獲ってもらえるかどうかは、スカウトが視察に来る残りわずかな機会にかかっています。欲を言えば、変化球の精度や、バッターの手元でのボールの伸びなど課題はありますが、ここまで来て手当り次第取り組んでも、かえって長所を消してしまいます。
「ストレートも変化球も、しっかり腕を振って投げる」
今、本人には当たり前のこと、基本的なことを徹底するように伝えています。欠点はNPBに入ってからでも克服可能です。まずはドラフト指名を勝ちとれるよう、篠原には自分の持ち味をマウンドで出し切ってほしいと感じています。
寺田を抑えにしたのも、スカウトの評価ポイントを上げる目的があります。先発だと、どうしても長いイニングを投げようとペース配分するため、短いイニングで勝負させようと考えました。もともとストレートの質は素晴らしいものがありましたが、抑えにして、さらに彼の良さが出てきています。
僕がヤクルトに入団した頃、2軍で横浜の川村丈夫さん(現DeNA投手コーチ)と投げ合う機会がありました。その時に最も驚いたのはストレートの伸びです。「これが1軍クラスのボールか」と、とても印象に残りました。今の寺田の球質はそれに匹敵するものがあります。NPBの使用球は縫い目の山が高く投げやすいため、より寺田の持ち味が発揮されるはずです。
残り2カ月、スカウトに、もう一押しするには、このストレートを生かす変化球を見せることでしょう。ストレートだけではいくら良くても打ち返されてしまいます。もともと武器だったスライダーに加え、フォークボールも精度が上がってきました。本人は、まだ自信がないようでサインが出ても首を振ってしまうところが残念です。「投げミスをして打たれたくない」との気持ちは分かりますが、「フォークもある」と印象づけることも大切です。
後期優勝は厳しい状況ですが、まだ年間勝率2位でリーグチャンピオンシップ出場のチャンスは残されています。そのためには現在、首位に立つ愛媛の後期優勝を阻止し、かつ、その年間勝率を上回ることが求められます。愛媛はシーズン途中に元NPBの正田樹さんと、ドミニカ人助っ人のホセ・バレンティンを補強し、投手力が格段にアップしました。前期は8勝4敗と勝ち越したのに、後期は1勝7敗1分と圧倒されています。
正田さんは、NPBで長年、投げてきただけあって、コースや緩急の使い分けはさすが。これらはリーグの投手が見習うべきところです。大量得点が見込めないだけに、より投手陣が先取点を与えないことが重要になります。監督と相談しながら、どんどんいい投手をつぎこんで、残り3試合を全勝したいと考えています。
中日の又吉は中継ぎながら9勝をあげ、今やセットアッパー役を任されるほどになりました。試合を重ねながらレベルアップしていく姿を見るのはうれしいですし、大きな励みになっています。彼に続く存在をこのオフ、ひとりでもふたりでも送り込めるよう、少しでもシーズンを長くして、スカウトに見ていただける機会を増やしたいものです。苦しい戦いが続いていますが、この試練を乗り越え、選手たちが成長を実感できる秋にしたいと思っています。

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伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。
(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)
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