
7日、日本学生陸上競技対校選手権大会最終日が埼玉・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われ、男子200メートルは桐生祥秀(東洋大)が日本選手権王者の原翔太(上武大)に先着し、20秒59で優勝した。桐生は日本インカレ初タイトル。男子1万メートル競歩は日本記録保持者の高橋英輝(岩手大)が39分44秒78の大会新記録で初制覇した。雷雨の影響で順延していた男子5000メートルは、エノック・オムワンバ(山梨学院大)が2年ぶりの優勝。1500メートルに続き2冠を達成した。対校得点の男子総合は日大が100点で3連覇。女子総合は筑波大が83点で6連覇を成し遂げた。
(写真:200Mでアジア大会代表の原<右>に勝った桐生) 初優勝も左太腿裏を負傷 桐生にとって、ヒヤリとさせられる初の学生日本一のタイトルだった。男子200メートル決勝は、直線に入ってすぐに左太腿裏に違和感を覚えたという。フィニッシュ後は足を引きずるようなしぐさを見せた。
この日あった準決勝では、アジア大会200メートル代表の原と同組。桐生は途中、まわりのレーン確認するように左右をキョロキョロしながら走った。それでも全体トップの20秒80。昨日よりタイムは落としたが、余裕の決勝進出だった。
迎えた決勝は、直前の女子200メートル決勝で強い追い風が吹いていた。日差しは強かったが、気温は25度と、この3日間で一番涼しくコンディションも悪くない。日本選手権を制した原や、日本歴代7位タイの20秒35の自己ベストを持つ橋元晃志(早稲田大)と好選手も揃っていた。記録への期待も高まったが、男子の時には風は落ち着いてしまった。結局、向かい風0.1メートルと味方することはなかった。

レースは「120メートルまでは全力でいこうとした。予選、準決よりスピードは出ていたと思う」という桐生が直線で抜け出し、そのまま独走態勢を築くかと思われた。だが、加速が伸びない。コーナーの出口付近で、左太腿が「つったような感じ」になった。「途中で終わることがイヤだった」と、最後まで走り切ったが、明らかに足を気にするようなフィニッシュ。ゴール後も片足でピョンピョンと跳ねるように徐行した。
タイムは20秒59で狙っていたアジアジュニア記録には、0秒3届かなかった。心配なのは左足の状態。東洋大で桐生を指導する土江寛裕コーチによれば、4月の織田幹雄記念国際陸上競技大会の時の負傷と同程度のものと見られている。明日都内で精密検査を受ける予定だ。その結果次第では、アジア大会に向けた調整も変更を余儀なくされる。
「200メートルは好き」と話す桐生だが、今回は200メートルならではのカーブによる内側の足への負担が影響した模様。今シーズンはケガが続いているが、「春先から小さい故障があって、試合続きだった。トレーニングを積めなかった。練習のボリューム的には高校時代から下がっている」と土江コーチは見る。桐生本人は「ケガはあったけどやることはやれた。満足はしていないが、後悔もしていないです」と悲観はしていない。
桐生は4月から大学生活がスタートし、環境も一変した。今シーズンは好記録も出しながら故障が目立ちレースの棄権や欠場も少なくない。だが、あのウサイン・ボルト(ジャマイカ)も世界の頂点に立つ前はケガに悩まされていた。この障壁も、若きスプリンターが加速するために与えられた試練なのかもしれない。
最後のインカレで花添える インカレ最終日、アジア大会代表の4年生が有終の美を飾った。

1万メートル競歩の高橋は、見事に昨年の悔しさを晴らした。序盤から先頭集団につけ、世界ジュニアを制した松永大介(東洋大)とともにレースを引っ張り、6000メートルあたりで一気に突き放した。
(写真:最後は松永<右>に1分以上の差をつけた高橋) 1年前の日本インカレでは、積極的なレース展開を見せ、世界選手権モスクワ大会6位入賞の西塔拓巳(東洋大)を追い詰めた。しかし、デッドヒートの末、栄冠を掴んだのは西塔だった。ラストの直線を前にして突き放され、数メートル先で喜ぶ西塔の背中を見せつけられる悔しさを味わった。それでも日本陸上競技連盟の今村文男競歩部長は「今後に期待できる」と、2人ともを褒めていた。
その言葉通りに高橋は12月に1万メートル競歩の日本新記録をマークし、今年2月の日本選手権20キロ競歩では、ライバルの西塔を上回り、日本を記録更新し優勝した鈴木雄介に次ぐ2位に入った。20キロ競歩では現在世界ランキング3位につけるまで成長し、アジア大会代表にも選ばれた。
今大会は万全のコンディションではなく、西塔も不在だった。それでも“日本一”という目標をクリアするために自分らしい走りを貫いた。従来の大会記録を15秒も更新する39分44秒78で優勝。学生日本一のタイトルを最終学年にして、ついに手に入れた。
「今日まで日本一となることを自分の中での約束事として頑張ってきた。明日からは世界の舞台で戦うという次の目標に向けて頑張りたい」と高橋。アジア大会でのライバルには、強豪・中国の選手ではなく高校時代からの憧れである鈴木の名を挙げ、「雄介さんが世界一きれいなフォームだと思っている。今はライバルとして倒したい」と力強く語った。

「終わり良ければすべて良し」と、安堵の表情で最後のインカレを総括したのは、前日に100メートルを制した山縣だ。この日は、最終種目1600メートルリレー(マイルリレー)に挑んだ。
(写真:優勝が決まった瞬間、山縣は両手を天に突き上げた) 7月に強化の一環から、トワイライトゲームではマイルリレーに出場したが、専門外のロングスプリントになぜ再び挑んだのか。チームメイトに「チームが優勝するために出てくれ」と口説かれ、「僕が走りたい走りたくないという以上に、慶應のマイルリレーに花を添えるため」と決意した。4年間、自らを育てた慶大への恩返しの思いが彼を後押しした。
レースは、山縣が1走の壁谷智之から4番手でバトンを受けると、最初のカーブで一気に3人を抜き去った。バックストレートで先頭に立つと、「前に出られそうになっても意地でもいかせないつもりで走っていた」と、そのままの順位をキープ。ホームストレートでも耐えた。「あと5メートル長かったら、止まっていたと思う。ラスト10メートルのところで身体が動かなかった。あとは気力で茅田(昴)に“任せた!”と」。トップでバトンを受けた茅田は、修道中学・高校からの同級生。「高校時代以上に頼り甲斐のあるエースとなってくれた。自分も負けないように走った」と、一度は先頭を譲ったが、最後の直線で奪い返し、アンカーの小池祐貴に最後を託した。
メンバー唯一の1年生である小池は、山縣同様に100メートル、200メートルを専門にするスプリンター。さらには他校のアンカーは加藤修也(早大)、山崎謙吾(日大)と400メートルのトップ選手がそろう。「慶應が勝つとしたら、小池までにある程度のリードを保って渡す」。主将の山縣が語るそれが慶大の必勝パターンだった。しかし小池がバトンを受けた時には、加藤、山崎が目前に迫っていた。逃げる小池に対し、大きなストライドでグングン迫ってきたのは、世界ジュニア選手権400メートル銀メダリストの加藤。最後の直線で一度は小池をかわしかけた。そこからは意地の張り合い。小池も歯を食いしばり、再び並ぶと最後は胸を突き出すようにして渾身のフィニッシュ。小池は勢いあまって転倒するほどだった。
掲示板に慶大の優勝が確定すると、山縣は両手で大きくガッツポーズを作った。3分4秒58の好タイムは慶大新記録。2位・早大との差は、わずかに0秒04という大接戦だった。「誰が欠けてもこの優勝はなかったと思います」とチームメイトに感謝した山縣。2、3年時はケガに泣いた彼だったが、最後のインカレで自らに花を添えた。
(文・写真/杉浦泰介)