世界的パティシエの辻口博啓氏。モンサンクレール(東京・自由が丘)をはじめ、コンセプトの異なる12ブランドを展開し、一般社団法人日本スイーツ協会代表理事を務めるなど、スイーツ文化の発展・向上に貢献してきた。また障がい者によるスイーツの製造・販売を手掛ける「テミルプロジェクト」(社会貢献活動のデザインにおいて、2011年度グッドデザイン賞受賞)でレシピの考案、指導を行うなど、活動の幅は多岐に渡る。いわば食のスペシャリストである辻口氏に“食とスポーツ”の可能性をインタビューした。
二宮: オリンピック、パラリンピックのたびにいろいろなジャンルでイノベーションが起きています。食の分野においても、前回の1964年の東京オリンピック・パラリンピックでは、選手村の大量の食糧を短時間で賄うために冷凍食品を開発し、世に流通させるきっかけとなりました。今度は辻口さんがスイーツの世界でイノベーションを起こし、世界をアッと言わせるものを作るんじゃないかと期待しているんです。

辻口: やはり素材ありきだと思っています。日本の穀物にはF1(一代雑種)という種があるんです。この種は、一度種を撒くと芽を出し、果実になる。収穫時の形や大きさは安定しているのですが、果実の中にある種を再度土に植えても、果実がならないんですね。それが、F1の種の特徴なんですね。我々はそういう種からなった穀物を食べているわけです。実の中の種を土に植えると、また同じように果実がなる。これは当たり前のことなんですが、多くの日本の穀物ではそうじゃないんです。

二宮: 昔、家の庭には柿がありまして、それを食べて、「早く芽を出せ柿の種」と言って蒔いていましたね。じゃあ、柿の木になるぞっていうのは間違いなんですね。

辻口: それは自然にあるものだからなるんですよ。たとえばトマトなどの種はならないんですよ。昔から原生林としてある原木のようなところになる実は、再び実になる。そういう種、素材だったらいいんですが、日本の農業で作られている穀物は、また植えても実はならないものが少なくないんです。

伊藤: では日本の穀物では芽も出ないんでしょうか?

辻口: 根や草は生えるかもしれないんですが、実は付かない。だからその種を今、オリンピック・パラリンピックに向けて開発しているんです。ちゃんと実がなる種でなった穀物を食べるべきだという説もあります。

伊藤: 特にアスリートの方々は、体が資本ですから、自分の体に入れるものはどう作られているかを、とても大事にされますもんね。

辻口: そうなんです。だからこれからの農業は、どんどん変わってくると思います。そういう素材にこだわったお菓子作りをこれからはしていきたいなと僕自身は思っています。

二宮: 素材を生かしたスイーツといいますか。

辻口: そうですね。だから、ちゃんと実のなる穀物でお菓子作りもできるのが理想ですね。

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