二宮: 先の参院選は、小泉さんから受け継いだ安倍さんの構造改革路線に対して、地方が反発した形になりました。地方は経済格差の是正を求めている。
有馬: そうなりましたね。結果的に、地方に目を向けた小沢さんの民主党に軍配が上がった。
(※この対談は9月12日の安倍首相辞任前に行われました)
<提供:アサヒビール株式会社>
二宮: 自民党はこれから地方対策に力を入れなくてはいけない。自民党は全員が構造改革路線かといえば、そうではないでしょう。幹事長の麻生太郎さんは、完全な財政出動型です。だから、自民党は次の選挙で民主党と似た色を出してくると私はにらんでいます。そうなれば、民主党は逆に構造改革路線に移らざるを得ない。
有馬: そういうことも起こりうるでしょうね。今の自民党は以前と同じやり方では選挙で勝てないと考えて、新しい道を模索しています。建設会社、郵政、医師会と時代とともに支持団体が離れた。今は新しい支持組織を見つけようと必死ですよ。次の選挙で勝つために、公共事業を増やして、地方の支持を取りつけた方がいいという感覚は持っているでしょう。だから、地方重視の路線を打ち出すかもしれない。仮に自民党と民主党が同じテーマを掲げる選挙になれば、「どちらが本物か」という勝負になると思います。敗れた方は逆の路線に転換するしかないでしょうね。

二宮: 私は、自民党と民主党が同時に「バラマキ」を行ったら、資金力のある方に分があると思うんですよ。要するに自民党が勝つと思う。民主党の代表は、今まで選挙で2回連続で勝った人がいないでしょう。例えば、岡田克也さんが代表時代、1度は勝っているが、次の郵政選挙では負けている。ということは、民主党は今のうちに代表を代えておいた方がいいんじゃないかと。小沢さんで参院選は勝てたが、次は通用しないかもしれない。賞味期限が切れる。私は、自民党が「バラマキ」に戻すとなれば、民主党は違う方向から攻めた方がいいと思うんですが……。
有馬: それは一理あると思います。ただ、私が考えるに選挙で重要なのは“実行すること”ではなくて“大風呂敷を広げること”なんですよ。参院選で、民主党は「消費税を上げなくて、どこから財源を持ってくるの?」と責められても、「いや、財源はあります」と曖昧なままで乗り切った。そして、勝った。現実的に考えれば、財源はありそうもないのに、大風呂敷を広げたわけですよ。次の選挙も、そういう大風呂敷合戦になると私は睨んでいます。そうなれば、自民党は不利ですよ。政権を担当しているから、そんなに大きな風呂敷を広げることはできない。でも、民主党はとりあえず風呂敷を大きく広げることはできる。それで、後に「民主党は嘘つきだ」と国民が怒って、その次の選挙では負けるかもしれないが、とりあえずは政権を獲れる可能性がある。今までの民主党は、「国民に対して責任ある政党でなくてはいけない」とまともに政策を出して、選挙に負けていたんですよ。でも、小沢さんはそうじゃない。「政権を一度とってしまえば、こっちのモノ」「政権さえとれれば、どんな政策でも実現できる」と考えていると思いますよ。

二宮: 今までの民主党は国民に対して誠実であろうとする余り、それが裏目に出ていた。岡田さんは政策面では非常に優秀な方だと思いますが、郵政選挙では“小泉劇場”の前にひとたまりもありませんでした。
有馬: 小沢さんって、3年前には「消費税を3%上げる」と発言していたんですよ。もっと過去をさかのぼれば、15年前には自著の中で「消費税を10%上げる」と書いていた。それが、今は「消費税は上げてなくてもいい」と言っているわけですから。時代の変化と民主党側は言うが、それではマニフェストで「15年前はこういう時代背景だったからこうでした。3年前は……」とはっきり説明すべきでしょう。 「何としても政権を獲る」と考えているのでしょう。民主党の代表は2回連続で選挙に勝てないと二宮さんはおっしゃいましたが、その轍を踏まないのが小沢さんかもしれませんね。

二宮: なるほど。ただ、私は、もし民主党が政権を担当しても、うまくはいかないと思うんです。経験がないからね。でも、それでいいとおもっている。政権交代するだけで前政権時代の不正やウミが出てくる。要するに民主党に期待しているというより、政権交代に期待している。
有馬: そうですね。私も二宮さんがおっしゃるように、民主党が政権運営をうまくできるとは思いません。自民党のある首相について、民主党の人がよく批判するんですよ。「あの人は財布を持ってなかった。財布を持っていない奴に経済が語れるか。俺たちは国民の実体を知っている現場主義だ」と。でもね、こづかいにキューキューしている人より、財布を持たない身分の人の方が何兆を動かすことに関して、軍配が上がるような気がするんです。官僚を排除している民主党の議員に80兆の国家予算の配分が本当にできるのかなと。もちろん、これから民主党はそのやり方を身につけていくべきです。私にしてみれば、ようやく二大政党が競う状況が日本にやってきたという感がありますよ。

二宮: それが二大政党制の本来の姿ですよね。政権がしょっちゅう交代していれば、悪いことはできない。私はね、民主党が政権をとったら、自民党を応援しようと思っているんですよ。自民党が次に勝ったら、次は民主党を応援しようと。
有馬: そう考えている方は結構いらっしゃるのではないでしょうか。今、衆議院は自民党、参議院は民主党が多数を占めて“ねじれ”現象が起きている。そのため、政治の動きがよく見えるようになっている。これまで知らないうちに決められていた法律が見えてくるわけですから、国民は双方のやりかたをじっくり検証すべきですよ。

二宮: そこで気になるのは公明党の動きです。落ち目の自民党と協力関係を維持するのか。国民も同党の動きに注目しています。
有馬: 公明党は難しい立場にいますよね。私も党の若手議員と話をする機会がありますが、「もし民主党が第1党をとった場合、民主党と組むべきか、それとも、自民党と協力関係を保って心中するべきか」という悩みを持っているようです。例えば、民主党が自民党をリードしていたとしても、少々の差であれば、公明党が味方につけば、自民党は政権を維持できる。だけど、国民からは「公明党が手を貸したために自民党政治が延命した」という批判も出てくるでしょう。それで、今は「自民でも民主でもどちらが第1党になろうが、政権与党と連立を組むべきだ」という意見が出ています。政権に就いて党の政策を反映させるという考え方です。つまり、第1党の政策を牽制するということですね。

二宮: いわゆる政権内野党ということですね。
有馬: そういうことです。今までのように、自民党と全面的に協力関係でいると、急に離れるというわけにはいかない。民主党と自民党に大差がついた場合、公明党が手を貸しても、自民党は野党になってしまう。それでも自民党の味方をするのか。私は、今のうちに第1党と組むという党の方針を明確にしておくべきだと思っていますよ。

<政治家は5メートル後ろに秘書を置け!>

二宮: 参院選前から安倍さんは「憲法改正」「戦後レジームからの脱却」と言わなくなりましたね。これらの言葉が国民にあまり受け入れられていないと感じたからでしょうか?
有馬: 確かに少なくなりましたね。極端な話をすれば、安倍さんに限らず、今の自民党の一部の議員にとっては、「憲法改正」は流行語だったんですよ。憲法改正を語らないと、党員としての能力が疑われる。だから、知ったフリをして“賛成”と言う。そういう人が一部ですが、自民党には存在します。民主党についても同じことがいえると思いますね。

二宮: 社民党や共産党の方が憲法問題について熱心という印象があります。良くも悪くも“護憲”で凝り固まっている。
有馬: 熱心ですよね。「これは絶対に許せない」という譲れない理屈がある。ただ、日本という国の大きな流れにあって、苦労しています。以前、共産党の志位和夫委員長と話をした時に「『九条の会』というのがあって、これは日本を変える」と言っていた。「次の選挙では大きなうねりになる」とまで言っていらっしゃったので、僕は「それは難しいと思いますよ」と返したのですが「いや、そうじゃない。『九条の会』はすごいんだ」と譲らない。でも、『九条の会』は何千ヵ所に存在すると言っても、1箇所につき、メンバーは少数しか存在しないんです。現実的には、大きな流れをくつがえすにはいたらない。

二宮: 私もスポーツの評論をやっていますから、有馬さんのおっしゃりたいことはよくわかります。近くにいる人は皆「あなたは正しい」と言う。人間って不思議なもので、相容れない人であっても、目の前にくると「頑張ってください」とか言っちゃったりするんです(笑)。安倍さんの場合も周囲に「あなたの意見は正しい。戦後レジームからの脱却には賛成」というイエスマンばかり集まっているんじゃないかな。志位さんもそう。「貴方みたいな人は必要だ。共産党だけが唯一の野党だ」とか1日に10人ぐらいに言われたら、国民はそう思っていると錯覚しますよ。
有馬: 安倍さんがお友だち内閣と揶揄されたのも、そういうことだと思うんですよ。つまり、取り巻きが点数稼ぎをすることに必死で政権の問題点を指摘しなかった。それが失敗の原因だったんじゃないかと。

二宮: 要するに、真の意味での忠臣がいなかったんですよ。たとえば、選挙も終盤にさしかかると、各党の党首が「選挙があと5日あったら、我々が勝った」というでしょう。選挙の終盤って、絶対に盛り上げる。あの熱気の中に身を置いていたら誰だって「あと5日、選挙があったらな……」と勘違いしますよ。まったく現実が見えていない。
有馬: 自民党のある議員が先日、選挙区に戻ったんです。その人を仮にS議員としましょう。そこで、週刊誌が『選挙区に戻って罵声を浴びせられたS議員』みたいなものを書きたいと私にコメントを求めてきた。話を聞いていると、週刊誌が「Sさん、選挙区では苦労なさっているようですね」と言ったら、「何を言ってるんだ。私は歓迎された」と言い返されたというんです。それで、僕のところにもS議員から電話がかかってきた。「有馬さん、今、週刊誌がこう書こうとしているんだけど、そんな事実はないです」と。よくよく考えてみると、確かにS議員が選挙区に行くと、「Sさん、私たちは応援しているよ。頑張ってね」と地元の人に言われているんです。二宮さんが今おっしゃったように、本人に向かって、表では悪いことは言いにくいし、嫌われたくないから言わないんですよ。でも、S議員の5メートルぐらい後ろを歩いている週刊誌の記者には「まあ、あの人もよくやるよ」とこぼしている。そんなものなんですよ。だから、Sさんも自分の5メートルぐらい後ろに秘書を歩かせて、周りがどう言っているかを聞かないと。そうしないと現実がわからない。裸の王様になってしまいますよ。

二宮: 全くその通りですよ。周りにチヤホヤされると、どうしても視野が狭くなってしまう。たかだかスポーツ評論をしている僕だってそうです。酒場で「いつもテレビで素晴らしいことを言っているね。ファンです」と持ち上げておいて、仲間のところに戻ると「あの人、誰だっけ?」と。「いいかげんにしてくれよ」と思いますよ(笑)。でも、人間ってそんなもんでしょう。
有馬: ハッハッハ(笑)。周囲のおだてに惑わず、その裏にあるものを読み取れるか。それに気付くかどうかが、人生で成功する極意だと思いますね。

<安倍さんは野党のリーダー?>

有馬: 私は、今の選挙制度が政治を悪くしていると思うんですよ。というのは、小選挙区制はAかBかを選べばいいから、選びやすいというが、選択肢が少なく、安易な方法は、かてて、悪い方法に向かうものです。私は中選挙区の方がいいと思うんです。それも中選挙区連記制。例えば、一つの選挙区で4人が当選できる4人区としましょう。候補者10人で一人の国民は4票まで投じられると。そうすれば、自分の好きなように票を割り当てられる。自民、民主、社民、共産でもいいし、4人とも自民でも構わない。ところが今は1票だけしか投票できないから、頭の中で30%ぐらいウエイトを占めている人と29%ぐらいウエイトを占めている人がいても、30%の人の名前しか書けないんですよ。もちろん、4票あるけど1票だけしか使わなくてもいい。「この議員以外は認めたくない」という人はね。

二宮: なるほどね。それは柔軟性がありそうだ。国民の小さな声が選挙に反映されるようになりますね。
有馬: そうなんですよ。誰にでも経験があるとは思いますが、「○○党がいいとは思わないが、この人は素晴らしい人物だな」ということは起こる。しがらみでどうしても投票しなければいけない候補者がいても、将来有望だとか、気になる人に投票することもできる。そういう2番手、3番手の候補にも票を投じられますからね。将来可能性のある若手を育てることができる。

二宮: 今は、自民党に所属しているけれど民主党的な議員もいるし、その逆もある。そこで、私が一番疑問に思っているのは、次々と政党を移動する議員なんですよね。選挙が変わるたびに、権力のある側に小判鮫のようにくっついていく人がいる。今後、民主党が政権を獲るようなことがあれば、自民党から移籍する人が出てくるんじゃないでしょうか。
有馬: そういうことを見越して、小沢さんは民主党の小選挙区300のうち約100選挙区で公認を決めずに空けているんですよ。自民党の支持団体は少なくなっている。「自分はこのままでは選挙に通らない」と悩む自民党の議員は当然、出てきますからね。かつての民主党は選挙区に穴があると、「有馬さん、誰か選挙に出るような人いない?」「有馬さん、出てみない」と穴埋めに必死だったんです。その点では、小沢さんはさすがに戦略家だなと思いますよ。「空けていれば有能な人材がくる。もちろん自民党からも人が流れてくる」という発想は旧来の民主党にはなかったんですからね。

二宮: その話を聞いて思い出しましたが、西武が森祇晶監督に率いられて強かった頃、必ずレフトのポジションを空けていたんです。センターは秋山、ライトは平野で、レフトだけは固定しなかった。それはなぜか。森監督に訊くと、「一つくらい空けておかないと選手のモチベーションが高まらない」と。それを聞いて納得しましたよ。確かに全てのポジションが埋まっていたら、選手もやる気がなくなりますよね。そうなれば、チームのエネルギーは失われていく。
有馬: 仕掛けですよね。先を見通して、戦略を立てる。安倍さんもそういう姿勢が欲しいなと。

二宮: 安倍さんは、僕のイメージでは野党のリーダーなんです。相手を批判する時は舌鋒鋭い。でも、野党からの追及を受ける立場に回ると、案外モロい。与党のリーダーといえば、大平正芳さんや竹下登さんのイメージなんです。「エー」とか「アー」とか言いながら、野党の追及をのらりくらりとかわしてしまう。それでいて、野党を立てることも忘れない。からめ手で相手を籠絡してしまう。良くいえば懐が深い。悪くいえば、したたかで権謀術数にたけている。
有馬: 残念ながら、安倍さんはそういうタイプではありませんね。質問を受けると、真正面から答えてしまうところがあるでしょう。あまりに素直な反応をしてしまう。そうではなくて、「皆さんが納得いくように、一生懸命考えております」といった含みのある、波風立たないような言い方をしておけばいい。

二宮: 安倍さんは基礎年金番号制度の導入を決定した時の厚生大臣が菅さんだったと指摘したでしょう。あれを言ってはダメ。野党のせいにすることで逆に器の小ささが見えてしまいましたね。
有馬: 私は、いいか悪いかは別にして、忍耐力のある首相といえば、森元総理が思い浮かぶんですよ。森さんは「えひめ丸」の事件が起きた際にゴルフをプレーし続けて、野党から毎日のように追及されたでしょう。「何時何分、森さん、貴方は何をやっていたんですか?」「ですから、私はこうで」と。それの繰り返しでしたが、耐えたんですよ。首相に求められるものというのは、そういう追及に耐える胆力だと私は思うんです。若い安倍さんにはそれが欠けている。もしかしたら、小泉さんも持っていなかったかもしれない。小泉さんはパフォーマンスで乗り切るという芸当がありましたからね。森さんを最後に、そういう胆力を持った自民党的なリーダーはいなくなったような気がしますね。

<理想の秘書は大酒飲みで大食漢!>

二宮: ところで、このウイスキーの味はいかがですか?
有馬: 美味しいですね。本当に口当たりがよくて飲みやすい。どんどんすすんじゃいますね。政治談議にウイスキーは必需品ですね。

二宮: 何かお酒に関するエピソードはありますか。
有馬: 僕が政治家の秘書を務めていた時代の話ですが、議員の中には全然お酒が飲めない方もいらっしゃるんです。そういう先生は宴会では秘書に「代わりに飲め」と酒を飲ませて、自分が帰りの車を運転するんですよ。やはり、秘書は大酒飲みじゃなくてはいけない。宴会などに、飲める秘書を連れて行くと、喜ばれるんですよ。「俺の酒を飲んでくれる」とね。

二宮: そうでしょうね。地方の人は、お祭りとか宴会場では沢山飲んだら喜びますからね。
有馬: それに大飯食らい。選挙区を回っていると、「先生、ご飯は食べた?」と言われるんですよ。そこで「コイツ、置いていくからね」となって、その秘書が丼飯を3杯くらい平らげると、「あの議員の秘書が私のつくった料理を丼飯3杯も食べたんだよ」と自慢する。そうやって、地元の人との距離が近くなるんです。大酒飲みで大食漢じゃないと政治家の秘書は務まりませんよ。

(終わり)

有馬晴海(ありま・はるみ)<政治評論家>
1958年、長崎県出身。立教大学を卒業した後、(株)リクルート社、国会議員秘書を経て、96年に政治評論家として独立。現在はテレビ、新聞、雑誌などの評論活動を中心に講演会活動を行っている。また、政治研究会「隗始塾」を主催している。著作に『政治家の禊』『議員秘書の打ち明け話』などがある。




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