二宮: 今回はいつも、この対談でお世話になっているブレンダーズ・バーでウイスキーの魅力について、チーフブレンダーの久光さんからたっぷりとお伺いしたいと思います。僕は昔からニッカのウイスキーには愛着があります。ニッカの黒から始まって、ピュアモルト、スーパーニッカ……。
久光: まさに僕が入社した頃に担当していたウイスキーですね。ありがとうございます。
<提供:アサヒビール株式会社>二宮: 特にスーパーニッカは中が透けて見えるボトルでした。ボトルキープしても飲んだところまでラインを入れておけば他の人がこっそり飲むわけにはいかない(笑)。味はもちろん、そんなところも大好きな理由の1つでした。
さて今回、ニッカのウイスキーが世界で賞を獲られたそうですね。
久光: ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)2007で「竹鶴21年ピュアモルト」が世界最優秀賞「アワード」を、「シングルモルト余市」が「ベスト・ジャパニーズ・シングルモルトウイスキー」を受賞しました。
二宮: この賞はどうやって選考されているのですか?
久光: ウイスキーのジャーナリストや専門誌の記者などが選考委員を務め、銘柄は隠した上で、味と香りで賞を決定します。余市も竹鶴も日本のウイスキーの各部門でそれぞれ1位に選ばれ、中でも竹鶴が、さらに2次審査を勝ち抜き、最終審査で世界のトップに輝いたというわけです。
“化ける”ブレンドを探せ二宮: どちらも久光さんがブレンドされたウイスキーということですが、まずは「シングルモルト余市」から特徴を教えてください。
久光: まず、私たちはウイスキーを作るにあたって、いろんな原酒を混ぜていきますが、1+1=2になるようなブレンドは面白くありません。1+1=3とか4になるような、“化ける”ブレンドを探しています。今回の余市はうまく“大化け”した一品と言えるでしょう。
二宮: ブレンダーの仕事は、スポーツの世界で言うならば監督のようなものですね。個性のある原酒たちをいかに使うか。相乗効果を生む場合もあれば、マイナスになる場合もある。素材は何種類くらいバッティング(=配合)させるのですか?
久光: 余市に関しては3種類です。今回受賞できたのは、まず素材が良かった。先人たちが作り、長年に渡って残し続けてくれた原酒の味わいや香りをうまく引き出すことを考えながら作り上げました。だから僕の力なんて、そんなに大きくないんですよ(笑)。
二宮: 今回の余市は商品名に“1986”とありますから、ほぼ20年寝かせておいたウイスキーということですね。では30年寝かせれば、もっとおいしいウイスキーが生まれるのでしょうか?
久光: 実はそれほどウイスキーは単純ではないんです。寝かせていいものと、10年くらいで若々しいほうがおいしいものもある。使ってしまうべきか残しておくべきか、それぞれ経験の中で見極めていく必要があります。
ウイスキーの年数表示の秘密二宮: 続いて「竹鶴21年ピュアモルト」については?
久光: さきほどの余市が“大化け”した個性のある味だとすれば、この竹鶴は“調和”された味と言えるでしょう。仙台・宮城峡のモルトと北海道・余市のモルト、別々の蒸溜所のものを組み合わせてできあがっています。
竹鶴はニッカの創業者である竹鶴政孝の名前を冠したブランドですが、竹鶴にはおいしいウイスキーを格安な値段で飲んでいただこうというコンセプトがありました。コクや香りが豊かでありながら、かつ皆さんに手ごろに飲んでいただけるウイスキーというのはある種、二律背反的な試み。開発には大変な苦労があったと聞いています。その中で“調和”がこのウイスキーのキーワードになったというわけです。
二宮: こちらは何種類くらいバッティングさせているのですか?
久光: 数えたことはありませんが、何十種類とありますね。お話だけではなかなか味や香りは伝わらないものですから、ぜひ召し上がって下さい。
二宮: いただきます。今日は久光さんのチョイスを楽しみにしてきました(笑)。うん、口に入れるとスーッときます。このまろやかな口当たりはなんとも言えませんね。その中に気品のある味わいがある。竹鶴シリーズには12年、17年、21年とありますね。いつも、このコーナーでは竹鶴17年をいただいていますが、21年は単純に4年古いウイスキーということでしょうか?
久光: いえ、中身は全く違います。12年、17年、21年はそれぞれ別の組み合わせで作られたウイスキーです。実はウイスキーで表示される年数というのは、使われている原酒の最低熟成年数に過ぎません。つまり21年では一番新しい原酒が21年モノというだけで、実際には30年モノとか古いものも混ざっています。
ウイスキーの基礎知識二宮: 読者の中にはウイスキーに詳しい方もそうでない方もいらっしゃるでしょうから、ここでウイスキーの基礎知識を踏まえておきたいと思います。まず、モルトとは何でしょう。
久光: 簡単にいえば麦芽です。原料が大麦麦芽100%のものをモルトウイスキーと呼んでいます。
二宮: 今回の受賞作もそうですが、同じモルトでもピュアモルトとシングルモルトと呼ばれるものがありますね。この違いは?
久光: シングルモルトは1つの蒸溜所で作られた原酒をバッティングしたものをいいます。「シングルモルト余市1986」は余市蒸溜所でつくられた原酒だけを使っているので、シングルモルトと呼ぶわけです。一方、ピュアモルトは大麦麦芽100%であれば、バッティングさせる原酒は複数の蒸溜所のものとなります。
二宮: つまり、ピュアモルトの中でもシングルモルトは特別なウイスキーということですね。
久光: ええ。さらにシングルモルトの中でも1つの樽から作られたウイスキーはシングルカスクと呼ばれます。ピュアモルトよりシングルモルト、シングルモルトよりもシングルカスクのほうが希少価値は高いというわけです。
逆にピュアモルトより大きな分類としてはブレンデッドウイスキーがあります。こちらはモルトウイスキーと、とうもろこしなどの穀類を混ぜてつくったグレーンウイスキーをブレンドしてできたものです。
二宮: ウイスキーは基本的にいろいろな素材を混ぜてつくるものですから、ブレンデッドウイスキーにはブレンデッドウイスキーの味わいが、シングルカスクにはシングルカスクの味わいがあるということですよね。
久光: そうです。あくまでも数量的に希少かどうかというだけで、味や香りはまた別です。
二宮: モルトウイスキーとグレーンウイスキーは原料が違うだけですか?
久光: 原料はもちろん、製法も違います。モルトウイスキーはポットスチルという蒸溜器を使って、通常2回蒸溜を行います。1回目の蒸溜でアルコール分約7%の液体を約20%にした上で、2回目の蒸溜でさらに約60%ぐらいにアルコール度を高めていく製法です。一方、グレーンウイスキーは連続蒸溜を行うため、アルコール度は一気に約90%へ達します。このため、より雑味のないクリアな味になりますね。
二宮: モルトウイスキーの蒸溜回数は2回と決まっているのですか?
久光: 日本のウイスキーは竹鶴政孝が1918年にスコットランドに渡って誕生したものなので、スコッチウイスキーとほぼ同じ製法です。でも地域によっては3回行うところもあります。たとえばアイリッシュウイスキーがそうですね。原料は他と大きく変わりませんが、蒸溜回数を増やすことで、よりソフトな口あたりになります。ただ、蒸溜すればするほど香りが飛び、コクがなくなるという面もあるので、どちらがいいかは好みの問題ですね。
原酒の個性をうまく操れ!二宮: 今、お話を伺っただけでもウイスキーは種類も多く、奥深いものだということがわかりました。その中からどれとどれをバッティングさせればよいか、実際にテイスティングしなくてはいけませんよね。多いときで1日、どのくらいの種類を飲まれるのですか?
久光: 200〜300ですね。だいたいのバッティングの組み合わせは決まっているのですが、それだけだと平凡なものになってしまう。
原酒の中には、ときどき「ウッ」と違和感のあるものに当たることがあります。もちろん、それはそのままでは商品にできませんが、他のものに1、2%混ぜることで味を引き立たせてくれることがあります。甘いものにちょっと塩を入れるように、隠し味的な存在が必要なんです。そういう原酒の個性をうまく操れるかどうかが、名酒を生み出すコツだと思います。
二宮: それはすごい。当然ですが、ブレンダーはお酒に相当強くないとやっていけませんよね。
久光: お酒が好きというのは第一条件になるでしょうね。ただ、普段の仕事ではあまり飲むことはありません。味わいや香りをみることが中心ですから、口に含んでも吐き出してしまいます。
飲み続けられるウイスキーかどうか確認するために家に持ち帰って飲むことはありますが、仕事場では飲みませんね。全部飲んでいたら酔っ払ってしまいますよ(笑)。逆にビールはのどごしが大切だから、実際に飲んでみないと分からない。その点ではビールのほうが大変かもしれません。
ブレンダーのストイックな日常 二宮: 味はもちろん、香りもウイスキーの大事な要素。鼻もよくないといけません。
久光: ええ、鼻は大切です。嗅覚が鈍るので、仕事中もときどきは外の空気を嗅ぎにいきます。花粉症になってもダメですし、風邪をひくことも許されません。体調管理も仕事のうちです。
もちろんタバコも吸いません。整髪料や香水もつけません。食べ物でも平日はカレーや餃子など刺激のあるもの、匂いのきついものは食べないんです。
二宮: 想像以上にストイックな生活ですね。
久光: カレーも餃子も嫌いではないんで、テーブルに並ぶとついつい食べたくなります。ただ、仕事のことを考えると……。だから週末は本当に待ち遠しい。気兼ねなく飲み、食べることができますから。それでも日曜の夕方になると次の日に備えて、また禁欲的な生活に戻るという感じですね。
二宮: ということは飲みすぎて酔っ払うことなんてないのでしょうね。
久光: いや、そうでもないんですよ(笑)。根はお酒好きですから、ときどきは……。
二宮: アッハッハ。ブレンダーの方って冷徹な研究者っぽいイメージがあったので、それを聞いて親近感が増しましたよ(笑)。
(後編につづく)
久光哲司(ひさみつ・てつじ)1983年、ニッカウヰスキー株式会社にブレンダーとして入社。その後、マーケティング、生産管理、原料調達、営業など幅広い部門を歴任。2006年1月よりブレンダー室長兼チーフブレンダーとなる。2007ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)で世界最優秀賞「アワード」を受賞した「竹鶴21年ピュアモルト」、「ベスト・ジャパニーズ・シングルモルト」を受賞した「シングルモルト余市1986」のチーフブレンダーでもある。
★本日の対談で飲んだお酒★[/color]
日本のウイスキーの父・竹鶴政孝。今から90年も前に単身スコットランドに渡り、日本人として初めて本格ウイスキーづくりを体得した男。竹鶴という名こそ、日本のウイスキーの原点なのです。
・竹鶴21年ピュアモルト 容量:700ml/アルコール度数:43度
21年熟成ならではの味わい深いコクとバランスの良さが特徴。熟成した果実のような豊かな香りと華やかな樽熟成香、フィニッシュに近づくに従って現れる、複雑な風味の変化をお楽しみ下さい。[/color]
・シングルモルト余市1986 容量:700ml/アルコール度数:55度
花が咲き、一斉に蜜の香りが広がり漂うような香り。熟成を経た柔らかな口当たりで、完熟した果実の甘みとピートのビター感が程よいバランスの一品です。[/color]
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