二宮: 安倍政権は核も拉致も同じ6カ国協議の土俵にのせて議論するというスタンスを崩していませんね。お話を伺うと、核は核、拉致は拉致と分けて考えるべきだと思うのですが……。問題が複雑化してしまいましたね。
辺: 核問題は北朝鮮と米国が歩み寄りをみせて、意外と早いペースで進展しそうですが、問題は拉致問題をどうするのか。こんがらがった結び目を解くのは大変な作業です。
<提供:アサヒビール株式会社><拉致問題の解決はオール・オア・ナッシング>二宮: 拉致問題の現状をどのようにみていますか?
辺: 「米国は同盟国である日本の拉致問題が解決しない限り、北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除しない」。日本ではそんな見方がありますね。ところが北朝鮮はこれを逆手にとってきています。「テロ支援国家から外さない限り、6カ国協議も核問題も進展しない」と。米国は正直言って板ばさみの状態です。米国の国益から考えて核と拉致、どちらの優先順位が高いのか。いずれ、どちらかを選ばなくてはならない時がくるはずです。
二宮: 強硬派のブッシュ政権でさえ北朝鮮に譲歩しているくらいですから、民主党政権になれば、どうなるかわかりませんね。
辺: 「話が前に進まないのは日本が足を引っ張っているせいだ」。きっと北朝鮮は揺さぶりをかけてくることでしょう。日本と他国の足並みを乱す。これが北朝鮮の狙いです。
二宮: 北朝鮮は「拉致被害者は13人のみ。帰国させた5人の生存者以外は全員死亡した」との主張を繰り返しています。この話は全く信用できませんが、解決の糸口はみえてくるのでしょうか?
辺: 難しいのはこの問題の解決手段がオール・オア・ナッシングということです。1人、2人を追加で出して終わりにすることはできません。小泉純一郎前首相が2度訪朝した結果、北朝鮮は1度目で拉致を認め、2度目では再調査を約束しました。その調査の結論が「死亡」というわけです。北朝鮮にしてみれば最高指導者の金正日が拉致を認めたわけですから、これ以上の譲歩はできなくなっています。
もう1つ、日本は拉致被害者全員の帰国を求めています。では、全員とはいったい何人を指すのか。人数がわかりません。政府が認定した拉致被害者の安否を明らかにするだけでは国民は納得しないでしょう。拉致の疑いが強い特定失踪者だけでも30人以上います。警察に捜索願が出ている行方不明者は900人にのぼると言われています。国民感情としては、これらすべてが決着しない限り、解決とは呼べない状況になっていますよね。
<金正日は珍しい独裁者>二宮: 北朝鮮は当時、日本政府が認定していなかった曽我ひとみさんの拉致を認めました。これが他にも被害者がいるのでは、という疑いを更に強めましたね。
辺: 北朝鮮としては認定されていない人間を出すことで、拉致問題への誠意を見せたつもりだったのではないでしょうか。ところが、これが引き金となり、日本では行方不明になった人間が北朝鮮に拉致されたのではないかと家族が次々と名乗り出た。そう考えるのが当然でしょう。この問題では北朝鮮は全く信用できません。思惑は完全に裏目に出ました。きっと失敗したと思っていますよ。だから、二度と新たな拉致を認めないでしょう。「拉致問題は解決済み」とのスタンスを崩すつもりはないでしょうね。
二宮: 拉致被害者がどのくらいいるのか見当もつきませんが、金正日は全容を把握しているのでしょうか。
辺: わからないと思います。拉致は国家の指示によるものだったことは間違いありません。ただ、もし、今から全員を出せと命令しても現場が実行するかどうか。いくら独裁国家といえども、その点は日本の官僚国家と同じですよ。いくらトップが言っても抵抗されれば物事は動かない。ましてや工作機関はアンタッチャブルなところですからね。
二宮: そうなると、拉致問題の大きな進展は残念ながら期待できませんね。
辺: この問題の大きなポイントは金正日自らが罪を認めたことにあります。通常、独裁者は自らの過ちを認めません。イラクのサダム・フセインにしても難民虐殺を最後まで認めませんでしたね。古くはヒトラーもそうでした。ところが金正日は過ちを認めた珍しい独裁者。背景には日本からの経済支援なしでは国が持たないという事情もあったでしょう。背に腹は変えられなかったわけです。ところが日本からは経済支援どころか経済制裁を突きつけられた。金正日にもう1度、過ちを認めて拉致被害者を出せと言いたい気持ちはわかりますが、現実的には出口がますます細くなっています。
二宮: 北朝鮮にとって拉致を認めることは一種のギャンブルだった。ところが結果は悪い方向に出た。となると、もう2度と賭けには打って出ないと?
辺: 拉致問題と核問題では3つの点で性質が大きく異なります。1つは人間の生死に直接関わる問題であること。核問題では廃棄すれば経済援助という形で妥協の余地がありますね。ところが生死に関わる以上、白黒はっきりつけなくてはいけない。日本は拉致被害者が生きていると主張し、北朝鮮は死んでいると突っぱねている。2つの意見は水と油になっています。妥協点が見出せないんです。
もう1つは解決の基準がないこと。核問題にはゴールがありますが、拉致問題は先ほどの話で出たように被害者が何人いるのか正確な数がわからない。そして3つ目は金正日の「告白」を期待できないこと。独裁者が2度も過ちを認める可能性は極めて低い。この3つのハードルをどう乗り越えて、解決に結びつけるのか。拉致を最重要課題にあげる安倍首相の手腕が試されています。
<国民感情に流されない外交力を>二宮: 日本だけでなく韓国にも拉致問題はあります。こちらもかなり拉致されているという話を聞きましたが、日本ほど大きな問題にはなっていないようですね。
辺: 韓国人には500人近い拉致被害者がいます。確かに北に肉親を連れて行かれた家族の悲しみは大きいものがあります。しかし、韓国と北朝鮮には朝鮮戦争で離散した家族が生き別れの状態で50年以上も暮らしています。その数は双方に1000万人ずつ。500人の拉致被害者の救済よりも南北和解による1000万人の離散家族の再会のほうが優先順位は高い。これが韓国の一般的な認識です。日本では人命軽視と言われてしまうかもしれませんが……。
二宮: 北朝鮮が交渉相手として厄介な存在だということはよくわかります。本当なら誰も付き合いたくない隣人。しかし、国民感情がいくら冷え切っていても、きちんとパイプだけは作っておく。汚れ役を務めるのが政治の役割でしょう。
辺: 米国の最新のギャラップ調査(世論調査)で各国に対する好感度を調べた結果があります。米国政府が「最悪の国だ」と名指しで批判しているイランでも国内では7%の好感度がある。北朝鮮は12%です。ところが日本は朝日新聞の世論調査によれば、北朝鮮への好感度は0%でした。中国に対しては10%、韓国には15%の好感度です。全体主義国家でもない限り、アンケートで0%という数字は出ませんよ。やや日本人が極端に流されているのでは、という危惧はありますね。
二宮: 北朝鮮のやっていることは認められませんし、好感度も全くありません。ただ、政治は感情論で突っ走ってはいけない。したたかな相手にはしたたかな対応をしなくてはならない。
辺: 確かに拉致だけでなく、覚せい剤の密輸や、ニセ札の製造と北朝鮮の国家犯罪をあげればキリがありません。でも将来を考えれば、海を隔てた隣に60年以上も国交がない反日国家があることのほうが恐ろしいですよ。日本の国益を考えれば、隣国といがみ合って戦争につながるようなリスクは避けるべきです。国連安保理の常任理事国入りを目指す国が裏庭の北朝鮮問題を解決できないとなれば、国際的な信用を失います。国民感情に流されない、したたかな外交力が今、問われているのだと思いますよ。
二宮: 話もお酒も進んできましたが、辺さんはよく飲まれるほうですか?
辺: ビールはよく飲みますが、ウイスキーはめったに飲みませんね。外で飲み歩いたりしないですから。でも、今回はいいウイスキーを飲めるということで楽しみにしてきました。久々に飲むとやっぱりおいしい。アルコールが入りすぎて、ちょっとしゃべり過ぎちゃったかな(笑)。
(後編に続く)
辺真一(ぴょん・じんいる) 1947年、東京都生まれ。明治学院大を卒業後、新聞記者を経てフリーのジャーナリストに。1982年に朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」を創刊。新聞、雑誌をはじめ多くのメディアで朝鮮半島問題について発言を行っている。著書に『「金正日」の真実』、『金正日「延命工作」全情報』(以上小学館)など。訳書に『北朝鮮が核を発射する日』(イ・ヨンジュン著、PHP)などがある。
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