二宮: 現在、井原さんは五輪代表チームのコーチですが、ご自身の五輪に関する思い出は?
井原: 僕の場合、五輪とはずっと無縁だったんです。大学在学中には日本代表にも選出されたのですが、92年に年齢制限ができてしまって出られなくなりました。アトランタ五輪の時には、オーバーエイジでという話もあったのですが……。
二宮: 実際、選手としてやるのと、コーチとしてやるのでは違いますか?
井原: 全然、違いますね。選手の時には自分のプレーだけに集中していればよかったのですが、チームのスタッフとして予選を戦うとなるといろいろなことを考えなければならない。日本は五輪本大会に出場するのが当たり前と言われているので、そのあたりの難しさも感じました。同じアジアと言いながら、アウェー戦となると中東の方まで行かなければなりませんし、選手のコンディションにも気を使わなければならない。スタッフとなると、グラウンド内全体のことはもちろんですが、グラウンド外での選手のケアも非常に重要になってきます。
二宮: アウェーでカタールに敗れた時は、一番苦しかったのではないでしょうか。
井原: もちろん苦しさもありましたけど、しっかり残りの試合を戦えば自分たちが五輪に行けるという自信がありました。
二宮: 今の選手はおとなしいですか?
井原: おとなしいと思います。内に秘めているものはあるとは思いますけど。自分の感情をあまりピッチで出さないですし、練習場でお互いの意見をぶつけ合ったりということも少ない。そういうところはどんどんお互いに要求し合いながら、プレーしてもらいたいと思っています。
二宮: 井原さんが日本代表の頃、例えばオフトジャパンではラモス瑠偉や柱谷哲二、カズ(三浦知良)など自己主張の強い選手が揃っていました。そういう時代とは違いますか?
井原: そうですね。自己主張のある選手じゃないとなかなか代表には選ばれません。そういう点では彼らはまだ、発展途上の選手たちです。本大会に出ることで、1人前の選手としてレベルを上げる選手、一皮剥ける選手が出てくるんじゃないでしょうか。そこに期待したいですね。
二宮: 井原さんはDF出身ということで、やはり指導していると守りのほうが気になりますか?
井原: もちろん。ただ、サッカーは点を取らないと勝てない。攻めか守りかどちらかということはないですね。ただ、ディフェンスの部分のほうが伝えやすい面はあります。技術・戦術的な部分はもちろん、守りなら今までの自分の経験をいかして、伝えてあげることができますから。
日本サッカーは至れり尽くせり
二宮: 評論家時代、海外のサッカーもご覧になられていましたが、参考になったことは?
井原: 引退してから2006年まではフリーだったので、海外のチームの研修に参加したり、練習を見させてもらったりしていました。どちらかと言えば、日本の方が細かい練習をしていると思います。ただ、日本は至れり尽くせりが過ぎるかもしれませんね。
二宮: それはどの部分で?
井原: 日本の場合、スタッフがチームにたくさんいて、何から何までやってくれる。逆に海外だと、選手がいろいろなことをやったりとか、ピッチの周りにスタッフがあまりいない。ドイツに行ったときも、スタッフはコーチと監督と、ひとりアシスタントコーチがいるだけで、限られた人数で練習をやっていました。
あとはファンに対してすごくあたたかい。お客さんへの対応に歴史や文化を感じますね。逆に日本は選手とファンの間にまだ距離がある。そういう周りの環境やファンサービスの部分も、まだこれから日本は洗練させていかなければならないかなと感じています。
二宮: 日本だとフィジカルコーチやアシスタントコーチなど多くのスタッフがいますよね。ヨーロッパだったらフィジカル担当とかは?
井原: フィジカルコーチは基本的にはいないところが多いですね。それも国によっていろいろあると思いますけど。以前ドイツのレヴァークーゼンというチームで2週間くらい練習を見させてもらいました。フィジカルコーチはフィジカルトレーニングのある日しかこないんですよ。週に1回くらいしか来ない。あとはアシスタントコーチがウォーミングアップを指導していました。
二宮: 日本の多くのチームはフィジカルコーチを1人は雇っていますよね?
井原: ここ数年、トップチームではレッズなんかは雇ってないですね。ヨーロッパではフィジカルコーチを置かないでアシスタントコーチがウォーミングアップなどを担当するところが多い。逆にフィジカルコーチを置いて完全にコンディションの部分は任せる監督もいます。それはもう監督の方針によって千差万別ですよ。
二宮: なるほど。
井原: イングランドとかは、どちらかと言うと監督は練習をヘッドコーチに任せて、そのヘッドコーチが毎日ほとんど練習をやっている。監督は練習に関してはあまり口出しをしません。アーセナルのアーセン・ベンゲルやマンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソンらもそういう感じじゃないですか。
二宮: 日本ではそういう練習メニューなどを決めるのは誰の仕事ですか?
井原: ほとんど監督が決めます。もちろんアシスタントコーチに任せるところもありますし、それぞれのスタイルの違いというのを感じますよね。クラブの中の部分までは分かりませんが、日本の場合はそういうスタッフがたくさんいてトレーニングをすごくスムーズに、効率よく、順序立ててきちっとやっていますね。
監督の魅力とは……二宮: 井原さんには五輪代表コーチでの経験をステップにして、今度はJクラブの指揮を執りたいという思いもあると思いますが……。
井原: Jリーグ及び日本代表の監督を務めるために必要なS級ライセンスも取得しました。やはりJリーグのピッチに監督として戻ってきたいという思いはあります。チャンスがあれば、いつかはやりたいなとは考えています。
二宮: 監督をやるとしたら古巣のマリノスで?
井原: それはとくには考えてないです。そんなに簡単にマリノスの監督の話なんて来るわけがないですから。まずは自分自身が指導者としての実績を積んで、その上で古巣でやれれば幸せですね。
二宮: チャンスがあれば最初はJ2からでも?
井原: どこからでもオファーがあれば考えますよ。今は本当にJリーグ開幕当初とは環境も変わってきています。ビッグクラブもあればそうじゃないクラブもある。それぞれ経営の仕方も違うし、逆にそれが面白いところでもありますよね。お金のない小さなクラブはそのクラブなりのやり方をしている。やはりそれがチームのスタイルだし、そういう部分が徐々に定着してきたのはいいことだと思います。選手を育てて、その選手がビッグクラブに引き抜かれる。そういうクラブって海外にはいっぱいあるじゃないですか。
二宮: 確かに監督は魅力的な仕事ではありますが、負ければボロクソですよ。レッズのホルガー・オジェック監督なんて今季2試合で解任されました。
井原: そうですね、大変ですよ。それでも監督とコーチとでは責任においても雲泥の差がある。でも、一度現場を経験した人が、またやりたいというのは、背負ったリスク以上の魅力があるからだとは思います。やはり、自分で全てを決められて、考えているサッカーを選手に浸透させていく面白さ、チームを作り上げていく工程というのは監督にしか分からない。その充実感をいつかは味わってみたいですね。
(後編につづく)
<井原正巳(いはら・まさみ)プロフィール>
1967年9月18日、滋賀県出身。筑波大学卒業後、日産自動車サッカー部(現横浜F・マリノス)に所属、日本代表に選ばれ長年、主将を務めた。国際Aマッチは122試合に出場(日本歴代No.1)。W杯予選には90年イタリア大会から。94年「ドーハの悲劇」の屈辱をバネに98年、念願のフランスW杯へ日本代表を導く。その鉄壁な守備は「アジアの壁」と恐れられた。2002年限りで現役引退後は公認S級指導者ライセンスを取得する一方、サッカー解説を行いながらサッカーの普及活動に力を注ぐ。06年8月、U−23日本代表(五輪)コーチに就任。
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