二宮: 中西さんはアーセン・ベンゲル(現アーセナル監督)の下でサッカーをやっていた経験がありますね。彼のすごいところはどこですか?
中西: ベンゲルについて一言で言えば、彼は論理的です。彼と一緒にやっていた時に毎日言われたことを、ほとんど英語でノートに書いていました。ミーティングの内容もピッチで言っていた言葉も両方です。わからないことがあったら何でも聞きに行きました。そういう時でも彼は嫌な顔を全くせず、僕が理解するまで全部説明してくれる。それが非常にわかりやすいんです。
二宮: 具体的に印象に残っていることは?
中西: たくさんあるんですが、その中の一つにこういった言葉があります。英語で「Pass must be future.It’s not present.It’s not past」。“パスは未来に出すものだ、決して現在でも過去でもない”。この言葉はすごくわかりやすい。パスは前に出すものだ。前に出せなかったら横に出せ。それもダメなら過去、つまりバックパスです。優先順位の一番は前だと頭に入れておくと、攻撃がシンプルに前に行くわけです。
日本人は守備では組織を作っていくことができる。でも攻撃の指示があまりないんです。攻撃は個人の発想に任せてやるものだから選手たちが創造しなければいけないというわけです。しかしそれでは、選手がなにをすべきかわかりにくい。先ほどのベンゲルの言葉にはやるべきことが集約されています。彼はサッカーという複雑なスポーツを、因数分解をするようにシンプルに表現してくれました。難しく考えてはいけない、絶対もっと簡単に考えられる方法があるはずと教えてくれたんです。
二宮: 最高のお師匠さんに会えたわけですね。
中西: 僕は今、彼が言っていたフットボールについての大事な要素をまとめているんです。それを「フットボールインテリジェンス」と呼んでいます。いわばサッカー知能です。サッカーIQの高い選手が揃っていないとチームは同じ価値観で動けない。ピクシー(ドラガン・ストイコビッチ、現名古屋グランパス監督)もサッカーをよく知っている。僕が考えていることを今、ピクシーが名古屋で体現してくれているんです。彼はフットボールインテリジェンスの高い選手を大事にしていますから。
二宮: 彼もベンゲルから学んでいますよね。
中西: 相当学んだと思いますよ。ただ彼も自分というものがあるし、コピーにはならないと言っています。ただ、ベンゲルっぽいチームになっています(笑)。外から見ても納得できるようなチームですね。
二宮: 名監督の条件として名選手をその采配に納得させられる点があげられる。我が強いと言われたピクシーも納得させた。それだけの戦術もあれば言葉もあるということなんでしょうね。
中西: しかもシンプルな言葉で相手を尊重して話してくれるんです。僕のようなベンチに座っている選手に対してずっと丁寧に教えてくれる。普通では考えられないですよ。この経験はお金に換えられない、僕にとって素晴らしい財産です。
二宮: それだけベンゲルの財産があるんだったら、中西さんがどういう指導者になるのか見たい気もする。
中西: いつかやりたいですね。僕はフロンターレの監督に45歳でなって、日本代表の監督に55歳でなりたいと思っています。叶うか叶わないかはわからないです(笑)。ただ、そういうタイミングが来るかもしれないですから準備はしています。
二宮: いや、それは楽しみだ。
サッカーは配置が全て
中西: サッカーで一番大事なのは人をどう並べるか、組織をどう構築するかです。パッと見た瞬間に納得できる並びでないといけません。例えば日本代表の左サイドバックに、もともと右サイドバックで右利きの加地亮(G大阪)選手を置くというのは、ナンセンスだと僕は思います。左サイドバックには左利きを置かなければいけない。サッカーは右利きが11人いるとボールが左回転になるので、どうしても左寄りに行ってしまうんです。10年以上前にも、ベンゲルがその話をしていました。
二宮: 昔、都並(敏史、元ウェルディ川崎)なんかも右利きだったけど、あの頃は左利きがいませんでしたもんね。
中西: 都並さんと相馬くん(直樹、元鹿島アントラーズ)は右利きでしたが、左利きのように体を開いてボールを持てたのでよかったんです。努力をして左利きのようにボールを扱えるようになっていましたから。しかし、加地選手は違いますからね。
二宮: 大切なのはシナジーということですね。チーム全体のケミストリーとしてどのような反応を起こすかって考えた場合、一つ死んだ駒があったら全部死んでしまいますからね。
中西: そうです。左サイドバックが死ぬと、左サイドのMFも死んでしまうんです。キャスティングの部分で今の代表には考えるべきことがいっぱいあると思います。
二宮: まず、左利きがひとりしかいない場合は左サイドバックで。次に左利きを入れるべきポジションはどこでしょう?
中西: 左センターバックか、右サイドMFですね。視野の角度が広がりますから、特に右サイドに入れるのはいい。(リオネル・)メッシ(バルセロナ)も中村俊輔(セルティック)選手もこのポジションです。
あとストライカーが左利きなのもいいと思います。左利きの選手は左利きであることが武器なんだということをもっと認識したほうがいい。DFからすると、左利きを抑えることは難しい。どうしてもタイミングがずれてしまう。相撲や柔道じゃないですが組みづらいんですよ。どこに左利きを置いたら相手は嫌なのか、監督はもっと考えるべきですね。
中村俊輔と江夏豊の共通点中西: 左利きというのは使う脳が違います。彼らは基本的に感覚派ですよね。でも、中村俊輔選手は足だけが左利きで、あとは右利きなんです。だから彼は天才だけど、論理的です。論理的だから話がわかりやすい。僕は彼と話すのはすごく楽しいんです。
二宮: 実は僕もずっと左利きを研究しているんです。ピッチャーで左利きというと、素質で投げている傾向が強い。オレのボールは打てないだろう、オラーッてタイプの人が多いんですね。
そんな中で、どうみても左利きじゃない人がいた。江夏豊さんです。あの人くらい論理的に野球を考える人はいないですよ。本当に不思議でしょうがなかった。それで話を聞いたら、実はあの人、右利きだったんです。小さい頃に、お兄さんから左で投げたほうがプロ野球選手になれると言われたらしく、無理やり矯正したそうです。それで納得できたんです。だから中村俊輔選手の話もわかりますね。
中西: あれだけ論理的に饒舌に語れるのは、やっぱり右利きだからなんです。だから中村俊輔選手が監督になれば面白いと思いますね。
ウイスキーはサッカーの見方を変える二宮: ところでお酒はどのくらい飲まれますか。
中西: 現役をやめてからほとんど毎日飲んでます。お世辞ではなくプレミアムモルツが大好きで、僕は自分が行っているお店に必ずこれを入れてほしいと頼んでいます。それくらいこのビールはおいしいと思います。今まで生きてきた中で一番このビールがおいしい。
あとは最近ウイスキーを飲むようになりました。香りが新しい思考を生み出す感覚があるんです。ウイスキーを飲みながらサッカーを見るようになって考え方が変わりました。あとウイスキーって飲んでいると時間がゆっくり流れるような気がする。ワインとかシャンパンとかビールとかとは違う感覚がありますね。
二宮: ウイスキーの熟成には最低3年かかるという。作った時間が関係しているのかもしれませんね。
中西: ウイスキーを飲みながらだと、前のめりでは試合を見ないんですよ。ソファーに深く腰掛けて、グラスを回しながら見ていると、結構気づくことがあるんです。
二宮: ちょっと余裕ができるんですかね。
中西: 僕はテンポを気にするようになりました。ドリブルのテンポとパスのテンポなんですけど。これを話し始めると長くなるので、また今度話しますね(笑)。
二宮: 機会があったらウイスキー飲みながら、中西さんの解説付きでサッカーが観たいな。
中西: 僕と観たら疲れますよ。マニアックすぎて(笑)。
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中西哲生(なかにし・てつお)プロフィール>

1969年9月8日生まれ。愛知県出身。同志社大学卒業後、92年名古屋グランパスエイト(当時)に入団し、中盤の選手として活躍。97年にJFLの川崎フロンターレへ移籍。99年には主将としてJ2初優勝、J1昇格に貢献し、その活躍からミスターフロンターレと呼ばれた。2000年に現役引退し、その後スポーツジャーナリストとして活躍。テレビ、ラジオなど様々なメディアに登場し、サッカーの普及活動に尽力している。08年7月に日本サッカー協会特任理事に就任。J1・J2通算126試合出場、7得点。
★本日の対談で飲んだお酒★[/color]
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