
北京五輪が8月24日閉幕した。今回の大会には204の国と地域から役員も含めて約1万6000人が参加、17日間にわたって熱戦が繰り広げられた。中国政府が国家の威信をかけて臨んだこの大会から何が見えたのか。上海出身の大学教授兼ジャーナリスト葉千栄氏、金融コンサルタントの木村剛氏、スポーツジャーナリストの二宮清純が討論した。(今回はVol.4)
二宮: チベット問題など、看過できない問題が中国にあることは事実です。もっと人権に敏感であってほしいと願っている日本人は少なくない。ただ、気が付くと、この国自体が息苦しくなってきていた。その典型が消費者庁です。民は信用できないから、官が上からコントロールすることで問題を解決しようとする。あちこちに目安箱を置いて、何か問題があったらお上に言いつけるみたいな、まるで封建時代に逆戻りするかのような発想です。官が全部支配しなければ、民は何をするかわからないという発想がある。もちろん、「清く正しく」ありたいものですが、「水清くして魚棲まず」ともいう。
外国で開催されるサッカーのW杯では、会場近くで露天商が偽者のTシャツを売っているんです。FIFA(国際サッカー連盟)が公認していない「バッタ」ものがあふれている(笑)。お祭りや縁日なんてそんなもんです。みんな分かっていて楽しむわけです。ところが日本では、そういう業者を締め出してしまう。W杯のとき、駅から埼玉スタジアムへ行く道から露天商が締め出されて、閑散としていた。それを見たある外国人ジャーナリストが「ここは北朝鮮か!?」と言った(笑)。
葉: 今朝ワイドショーを見ていたらコメンテーターが「中国の冷凍ギョーザの会社は180人の正社員に対して約800人のパートタイム労働者がいる。それはひどすぎる。これが中国の食品業界全体の状況なら、日本にとっては大変危険だ」と言っていました。しかし、現実には日本国内の食品産業やファミレスなど外食産業も同じような状況でしょう。自分で取材もせず、朝刊を読んだだけで持論を展開するから、このような結論を安易に言うのでしょう。そもそも、非正規社員は犯罪に走りやすいという論理もよくない考え方でしょう。
木村: 6月に秋葉原で起きた殺傷事件も、犯人が非正規社員だったので、「格差社会が原因だ」と言わんばかりの報道です。
葉: 非常に危ない。
二宮: 著名なコメンテーターが「これは社会が生んだ病巣だ」と言っていましたが、それは違う。個人の問題です。何でもかんでも社会のせいにするなと言いたい。
木村: 姉歯事件も同じ構図です。耐震偽装問題は姉歯建築士個人の問題だった。本当は建築基準法を改正する必要なんてなかった。
二宮: 有名な政治家まで「小泉改革の影の部分がここに出た」なんてことを言う。
先日、葉さんと話していて、吹き出してしまったんですが、葉さんは「私は社会主義国の中国で生まれ育ち、日本は自由主義国家だと思って来たら、中国よりもさらに社会主義国家だった。私はまだ自由主義を経験していない」と言うんです。
葉: 今年で50歳になりましたが、振り返ってみたら、私は一度も社会主義国家から出たことがなかった。なぜなら日本が社会主義になってしまったからです(笑)。
二宮: 消費者庁構想もそうだし、一斉ストを行った漁民に対する助成金のようなバラまきの話もそうです。燃料代が高くなって苦しいのは分かりますが、クリーニング屋だって厳しい。私たち文筆業だってコピー用紙代が高くなっている。不満を口にすれば、全員にバラまくのか。これは究極のポピュリズム。責任ある政治の姿だと思えない。
木村: 自動車の後部座席のシートベルト着用義務化もそうですね。違反したら運転手が罰せられるなんてありえないですよ。まるで江戸時代の五人組じゃないですか。
二宮: 後部座席のシートベルト義務化は警察庁ですよね。最近、メタボ検診なるものも登場しました。あれは厚生労働省ですね。あの男性の腹囲85センチの根拠がどこにあるのかまったく分かりませんが、理想の体型を国家が決めるのでしょうか(笑)。
(続く)
<この原稿は「Financial Japan」2008年11月号に掲載されたものを元に構成しています>
◎バックナンバーはこちらから