
マイナー競技であるハンドボールに降って湧いたように、注目が集まったのは一昨年の暮れだ。2007年9月に行なわれた北京五輪アジア地区予選の判定が不可解だったとしてIHF(国際ハンドボール連盟)がAHF(アジアハンドボール連盟)に試合のやり直しを命じたのである。
結局、日本は男女とも北京五輪に出場はできなかったが、ひとりのスターが脚光を浴びた。これから紹介する宮大輔だ。今では「ハンドボール=宮大輔」と位置づけられるほどの人気者だ。
過日、宮と話をする機会があった。最初は単なるアイドル的な選手かと思っていたが、いい意味で期待は裏切られた。
これほど研究熱心な選手に会ったのは久しぶりである。だからこそ173センチという小さな体で日本を代表する選手に成長したのだろう。
彼の素晴しさは、どんな競技からでもハンドボールに応用できる技を貪欲に吸収することである。アンテナの張り巡らし方は尋常ではない。
たとえばバレーボールからはジャンプの仕方を学んだ。
「僕は両足でジャンプして一番高いところからシュートを打つことがあるのですが、これはバレーボールから取り入れました。そのきっかけはバレーボールの試合を観ていて“なんでこの人たちは、こんなに高く跳べるのか”と思ったこと。
背が高くない選手でもすごい跳躍力を持っている。なぜかと思って調べてみるとバレーの選手たちは基本的に両足で踏み込んで、腕を振って、背中を張って、体の反動を使いながら跳んでいる。これはボールを持った状態でもできるな、と感じました。実際に練習してみると、ジャンプ力が格段に上がりました。垂直跳びの記録も90センチくらいになりました」
アメリカンフットボールからはコンタクトの際のテクニックを仕入れた。
「ある日、夜中にCS放送を見ていたんです。その時に“すごい!”と思ったことがある。
アメフトはハンドボールよりもコンタクトが多いのに、当たってもスルスル相手を抜いていきますよね。何で倒れないのかと見ていると、ヒントは足の運び方にあったんです。
ハンドボールでは1対1で向き合ったら、フェイントして最初にどちらかの肩を相手の裏に入れるようにします。肩さえ入れれば、腕を回せるのでそのままシュートを打つことができるんです。
ところが肩を入れるためには、まずどちらかの足を前に出さなきゃいけない。そうすると自然と足が縦にクロスした体勢になってしまうんです。
だがアメフトは、足は必ず縦に並行に出していました。絶対にクロスさせることがない。単に肩を相手の裏へ入れるのではなく、まず足を入れる。これだと。たとえ相手とぶつかっても踏ん張れるんです。
といっても観ただけではわからない部分もあったので、実際にアメフトの練習に参加して勉強させてもらいました。グラウンドに行くと、今言ったような足の運びをしっかり練習していましたね」
ボクシングからは「フェイントのコツ」を学んだ。
「たまたま、ある番組で世界チャンピオンの内藤大助さんとスパーリングする機会をいただいたんです。
内藤さんは僕より小柄なのですが、フットワークが速い。構えていると、一瞬、バーンと視界から消えるんです。要するにフッと体勢を低くして、目の前からいなくなるんです。
すると素人の僕は、相手に合わせて体を下げる前に、思わず腕だけ下げてしまうんですよ。その瞬間に、ガーンとパンチが飛んでくる。
この動きは“ハンドボールにも使える”と直感しました。シュートを打つ際に、相手のディフェンスがガードしようと手を広げて立ちふさがりますよね。そこで一瞬、ガンって体勢を低くしたら、相手は絶対に腕を下げる。と同時にスパーンとシュートを打てばいい。
これが海外ではおもしろいように決まりました。最近、デンマークに行ったのですが、外国人は日本人に対してスピードがあるというイメージを持っています。
だから、この動きをすると“ヤバイ!”と思って条件反射的に腕を下げてしまうんです。そこでステップを踏んですかさずシュートをを打てば、どんなに背の高いディフェンスでも抜くことができる。このように内藤選手とのスパーリングで得たものは非常に大きかった」
27歳の宮を支えているのは比類なき向上心だ。どんな競技からでも吸収するという貪欲さがある限り、成長がストップすることはあるまい。
<この原稿は「経済界」2009年4月7日号に掲載されました>
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