2010年バンクーバー冬季五輪まで残り約7カ月に迫った今年7月、元女子ソフトボール日本代表の高山樹里がボブスレーの日本代表チームに加わった。高山を氷上の舞台へと誘ったのは日本ボブスレー・リュージュ連盟の山本忠宏ボブスレー強化委員長だ。得点を争う陸上の球技と、タイムを争う氷上のソリ競技。見た目にはソフトボールとボブスレーに共通点はほとんど見あたらない。にもかかわらず、高山を代表候補に選出したのはなぜか。実は高山にはブレーカーとしての隠された適正能力があった。
 スタートでソリを押し出す役割を担うブレーカーに必要な要素は3つある。「パワー」と「走力」、そして「ウエイト」、だ。
 鉄製のソリの重量は2人乗りが180キロ、4人乗りが240キロ。そこへパイロットの体重が加えられた重さをブレーカーはプッシュしていく。特に2人乗りの場合は一人で200キロ台半ばの重さを押し出さなければならない。いくら氷上とはいえ、パワーなくしてブレーカーは務まらないのだ。

 力に加えて足も必要である。特にバンクーバー五輪のボブスレーコース「ウィスラー・スライディング・センター」のスタート区間は10メートルと、他のコースと比べて非常に短い。そのため、ブレーカーはいかに早くスピードに乗れるかが勝負となる。つまり、ダッシュ力が問われる。

 そして最後にウエイトだ。ボブスレーにはルールとしてソリの車体と選手を合わせた総重量が限定されている。4人乗りは630キロ、2人乗りは男子は390キロ、女子は340キロだ。当然だが、総重量が重ければ重いほど坂の上ではスピードが増す。そのため、どのチームも上限ぎりぎりを狙い、不足分は重りをソリの中に乗せて走る。しかし、重りを乗せれば乗せるほど、勝負の分かれ目といわれるスタートで不利な状態となってしまうため、ブレーカーにはウエイトが求められる。

 例えば、パイロットが体重60キロとする。女子の2人乗りの場合、ソリの重さの180キロと合わせると240キロだ。上限の340キロに到達するには100キロが必要となるわけだが、ブレーカーが同じく体重60キロだとすると、残りの40キロは重りを乗せることになる。すると、60キロのブレーカーはスタート区間で280キロの重さを押さなければならない。

 しかし、ブレーカーの体重が100キロあれば、重りを乗せる必要はないため、240キロの重さで済む。体重60キロの選手が280キロを押すのと、体重100キロの選手が240キロを押すのとではどちらが有利かは一目瞭然。だからこそ、ブレーカーにはウエイトが重要な条件となるのだ。しかし、日本人は欧米に比べると体格の面では不利であることは否めない。ボブスレー界で日本がなかなか上位進出できない要因のひとつとなっている。

 そこで、山本委員長がブレーカーの候補者として白羽の矢を立てたのが高山だった。高山はその体格からパワーがあることは容易に想像できる。さらにソフトボールでは瞬発系のトレーニングを重ねてきた。ピッチャーとして鍛え上げられた下半身と合わせて、短い距離で一気に力を出す能力も十分にある。そして何より魅力なのがウエイトだろう。平均体重60キロという日本女子チームにとって、90キロ近くある高山は喉から手が出るほど欲しい人材なのだ。

「走れて体重がある」
 これが高山の選出理由である。
(Vol.3につづく)

(斎藤寿子)
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